特定周波数の電波吸収パネルの性能評価(自由空間法など)において、**直接反射波(本来測定したいS21)と、アンテナのサイドローブ結合による不要波(S21の回り込み)**が干渉し、測定値に鋭い落ち込み(ディップ)が生じる現象について解説します。
特定周波数対応(RFIDなど)の電波吸収パネルの周波数特性(S21)のなかには、「ディップ」を電波吸収性能と勘違いされていると思われる例(実験結果など)があり、参考にされたい。
1. 合成波の物理的メカニズム
測定系において、ネットワークアナライザで観測される実測値 S21meas は、ベクトル平面(複素数)上での以下の2つの経路の和として表されます。
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S21eut (主信号): 送信アンテナ → 吸収パネル(反射/透過) → 受信アンテナの正当な経路。
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S21ant(不要波): アンテナのサイドローブや背面放射から、直接または壁面反射を経て受信アンテナへ入り込む結合成分。
ディップが発生する条件
これら2つの波は、それぞれの経路長 S21eut と S21ant に応じた位相を持っています。
特定の周波数において、「2つの波の振幅が近く、かつ位相差が 180°(逆位相)になった瞬間」、振幅が打ち消し合い、鋭いディップが発生します。
2. 周波数特性におけるディップの挙動
吸収パネルの性能が良い(S21eut が小さい)ほど、不要な回り込み成分 S21ant の強度が相対的に無視できなくなります。
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位相の変化速度: 周波数が掃引されると、それぞれの波の位相 2π L/ λ が変化します。2つの経路の距離差 ⊿ L が大きいほど、周波数変化に対する位相差の変化が速くなり、ディップが狭い間隔(高い頻度)で現れます。
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誤差の影響:
ディップが生じている点では、本来の吸収性能よりも過大に「吸収されている」ように見えたり、逆にわずかな周波数変化で「反射が強い」ように見えたりするため、データの信頼性が著しく低下します。
3. 対策と切り分け方法
この干渉によるディップを抑制、あるいは補正するためには以下の手法が有効です。
タイムドメイン・ゲート機能
ネットワークアナライザのタイムドメイン機能(逆フーリエ変換)を用い、時間軸上で信号を分離します。
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時間軸波形を確認: パネル反射(メインローブ)と、サイドローブ結合(先行または後続する波)が異なる時間に現れます。
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ゲート設定: パネル反射のピーク付近のみをゲートで囲い、それ以外の不要な時間成分をカットします。
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周波数軸に戻す: これにより、ディップのない滑らかな吸収特性を得ることが可能です。
物理的なアイソレーションの向上
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電波吸収体による遮蔽: アンテナ間に吸収体を配置し、直接的なサイドローブ結合を物理的に減衰させます。
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アンテナ間距離の最適化: 回り込み成分に対し、主信号が十分に支配的になる距離(あるいは近傍界を避けた遠方界条件)を再計算します。
バックグラウンド・サブトラクション
サンプル(パネル)がない状態での空測定(S21ant のみのデータ)を取り、ベクトル演算で実測値から差し引く手法ですが、サンプル設置による結合状態の変化までは補正できない点に注意が必要です。
技術的ポイント
この現象は、特に**高周波(ミリ波帯など)**や、**低反射(-30dB以下)**の高性能パネルを測定する際に顕著となります。アンテナの指向性(Front-to-Back比)が低い場合、測定系のダイナミックレンジではなく、この「残留不要波」が測定限界を決定する主要因となります。










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