この記事では様々な伝送線路の特性インピーダンスの計算方法について紹介しています。

伝送線路の種類

高周波回路ではインピーダンスの不整合によって信号が反射します。、そのため伝送線路の特性インピーダンスをコントロールすることは非常に重要です。ただし伝送線路には様々な種類が存在します。そこでまずは伝送方式と形状をもとに伝送線路の種類を分類してみます。

 

伝送方式による分類

信号の伝送方式にはシングルエンドと差動の2つの種類が存在します。

シングルエンドは1本の信号線とGNDが対となって信号を伝送する方式です。

       

図1 シングルエンド方式

 

ここでのGNDは回路の基準電位となるシグナルグラウンド(SG)を意味しています。様々な信号線が1つのSGを共有して信号を伝送できることが特徴で、配線面積を小さくできることがメリットです。一方でデメリットはノイズの影響を受けやすいことです。このノイズは近接した伝送線路からの電磁的な干渉(クロストーク)、さらにはSGの電位変動(グラウンドバウンス)によって生じるもので、GNDのパターン設計や引き回しが重要になります。

差動伝送は2本の信号線が対になって信号を伝送する方式です。

 

   

図2 差動方式

 

この2本の信号線には逆位相の信号(P:正・ポジティブ、N:負・ネガティブ)が印加されており、両者の差分が信号となります。

   

図3 差動信号

 

差動伝送では1つの信号を伝送するために2本の信号線が必要となるため、配線スペースが多く必要になります。一方で高いノイズ耐性や高速伝送に適していることなどがメリットとして挙げられ、実際にUSBやHDMIなどの高速通信には差動伝送が用いられています。

 

形状による分類

高周波回路で伝送線路として用いられる形状にはプリント基板、ケーブル、導波管があります。

   

図4 伝送線路の形状

 

プリント基板は電子機器内部で使用されている伝送線路です。GND層やベタGNDを用いることで信号線を高密度配線できることが特徴です。またエッチングによって配線パターンを成形するため、高い精度で配線パターンの特性インピーダンスをコントロールできます。また信号線を内層化したり、ガードパターンを設けたりすることでノイズ耐性を高めることができます。

ケーブルは電子機器間を接続するときに使用される伝送線路です。長距離の信号伝送に対応しやすいことが特徴です。代表的なものに同軸ケーブルやツイストペアケーブルがあります。特に同軸ケーブルは形状の安定性が高いため特性インピーダンスの変化が小さく、高周波回路には欠かせない伝送線路の一つです。またツイストペアケーブルは高速伝送に適した伝送線路で、シールドと組み合わせて使用されることもあります。

導波管は高周波回路特有の伝送線路で、電気ではなく電磁波として信号を伝搬します。他の伝送線路と比較して伝送損失が小さいため大電力の信号伝送に適しており、高周波回路とアンテナ間の接続に使用されることが多いです。導波管は長辺と短辺の寸法によって特性インピーダンスが決まりますが、形状の安定性が高いため高精度でインピーダンスをコントロールできます。なお導波管では電磁波の特性を利用して信号を伝送するため、シングルエンドや差動という概念は当てはまりません。

 

特性インピーダンスの計算方法

伝送線路の分類をもとに、各伝送線路の特性インピーダンスの計算方法を紹介します。

       

図5 伝送線路の分類

 

マイクロストリップライン(シングルエンド)

マイクロストリップラインはプリント基板の外層に信号線が配線され、絶縁体を挟んで反対側にGNDが配置された構造です。信号線が外層に配線されるため絶縁体の影響を受けづらいことが特徴です。一方で信号線が外層に配置されることで、外部との干渉が生じやすくノイズ耐性は低いです。

 

   

図6 マイクロストリップラインの特性インピーダンス(シングルエンド方式)

 

 

マイクロストリップラインの特性インピーダンスは、主に配線の線幅 w と絶縁体の厚み h によって決まります。また絶縁体の材質はFR-4(εr=4.3~4.7)が汎用的に使用されますが、高周波回路では損失を小さくするために比誘電率が小さいPTFE(εr=1.9~3.5)などが用いられます。

 

マイクロストリップライン(差動)

差動方式のマイクロストリップラインは外層に信号線が2本平行に配線されます。

   

図7 マイクロストリップラインの特性インピーダンス(差動方式)

 

 

特性インピーダンスは配線の線幅 w と絶縁体の厚み h以外に、配線間の距離sの影響も受けます。シングルエンドの場合は特性インピーダンスを 50Ωとすることが一般的ですが、差動伝送の場合は 90Ωや 100Ωとすることが多いです。

 

ストリップライン(シングルエンド)

ストリップラインは、信号線がプリント基板の内層に配線され、上下からGNDプレーンで挟み込んだ構造となっています。

   

図8 ストリップラインの特性インピーダンス(シングルエンド方式)

上下のGNDプレーンによって電磁的なエネルギーが閉じ込められるため、ノイズの影響を受けにくいことが特徴です。また同じ特性インピーダンスのマイクロストリップラインと比較すると、配線幅を細くできるため高密度配線にも向いています。一方で、絶縁体の損失の影響を受けやすく、さらに外層と内層を接続するためのビアによって特性インピーダンスが変化してしまうため、高速信号や高周波信号の伝送には適していません。

 

ストリップライン(差動)

差動方式のストリップラインは内層に信号線が2本平行に配線されます。

   

図9 ストリップラインの特性インピーダンス(差動方式)

 

ストリップラインにおいても配線間の距離sによって特性インピーダンスが変化します。

 

コプレーナ導波路(シングルエンド)

コプレーナ導波路はマイクロストリップラインの配線の側面をGNDプレーンで挟みこんだ構造になっています。

 


 

図10 コプレーナ導波路の特性インピーダンス(シングルエンド方式)

 

側面のGNDプレーンが電界を閉じ込めるように作用するためノイズに強く、高周波回路でよく使用されています。特性インピーダンスは配線幅と絶縁材の厚みに加えて、両サイドのGNDプレーンの間隔によって決まります。

 

同軸ケーブル

同軸ケーブルは信号を伝達するための中心導体と絶縁体、さらにGNDプレーンとして機能する外導体によって構成されます。

   

図11 同軸ケーブルの特性インピーダンス(シングルエンド方式)

 

 

特性インピーダンスは中心導体の直径 aと外導体の直径 bの比よって決まり、ケーブル径と特性インピーダンスによって種類も分かれています。

 

   

図12 同軸ケーブルの分類

 

平行2線

平行線路は、2本の信号線がペアとなった差動伝送方式のケーブルです。平行線路の2本のペアを撚り合わせたものをツイストペアケーブルと呼び、LANケーブルなどの高速通信ケーブルで使用されています。

   

図12 平行2線の特性インピーダンス

平行線路の特性インピーダンスは、ケーブルの直径 aと線間距離 bの比によって決まります。

 

矩形導波管

導波管はミリ波など非常に高い周波数で使用される伝送線路で、中空の管の中を電磁波が伝搬します。

   

図13 導波管の特性インピーダンス

 

中空の断面積によって伝搬可能な電磁波の周波数が決まり、特性インピーダンスは導波管の長辺の長さa と空気の特性インピーダンスによって決まります。

 

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