この記事では、電磁シールドの原理と材質の選び方について解説します。
シールド効果の原理
シールド効果(SE)は、反射損失(R)・吸収損失(A)・多重反射補正(B)の3つの和として表されます。
ここで反射損失 はシールド材表面で反射する分、吸収損失 は材料内部を透過する間に熱として消費される分、多重反射補正 はシールド材内部での往復反射による漏れを補正する項です。

図1 シールド効果を構成する3つの損失
上図から、シールドは表面での反射と内部での吸収という2つの機構の組み合わせによって成立していることがわかります。
このうち多重反射補正 は、吸収損失が10〜15 dB以上であればほぼ0に近似され、実用上は無視できます。したがって、実用的なシールド効果としては、反射損失 と吸収損失 の2つと捉えられます。
波動インピーダンスとは
2つの損失に大きな影響を与えるのが、入射する電磁波の波動インピーダンス です。この波動インピーダンスは波源の種類と波源からの距離によって大きさが変化します。

図2 波源からの距離による波動インピーダンスの変化
このうち波源からの距離に対しては より近いか、遠いかで性質が大きく変化し、近い領域を近傍界、遠い領域を遠方界と呼びます。
近傍界では波源の種類と距離によって波動インピーダンスが大きく変化し、電界が支配的な波源に対しては波動インピーダンスが高くなり、磁界が支配的な波源に対しては波動インピーダンスが低くなります。
一方で遠方界では、波源の種類にかかわらず距離が遠くなるにつれて波動インピーダンスが空気の特性インピーダンスである約 377 Ω へと収束していきます。
反射損失と吸収損失
反射損失とは
反射損失は、波動インピーダンス とシールド材の固有インピーダンス の不整合の大きさによって生じます。
ここで固有インピーダンスの絶対値 は、角周波数 、透磁率 、導電率 を用いて次のように表されます。
上式から、導電率が高いほど は小さくなり、それによって反射損失が大きくなることがわかります。
また近傍界の電界における反射損失は、比導電率 、比透磁率 、周波数 、波源からの距離 から経験則として以下の式で求まります。
反射損失の計算例
ここでは銅(比導電率1・比透磁率1)を対象に、周波数1 MHz・波源からの距離1 mを基準として、周波数が高い場合と波源に近い場合の3つの条件で近傍界の電界に対する反射損失を比較します。
基準条件での反射損失は、経験則の式に代入すると 142 dB となります。
同じように周波数と距離を変えて算出した結果が表1です。
表1 条件による近傍界の電界に対する反射損失の違い

周波数が10倍になると反射損失は30 dB小さくなり、距離が1/10になると20 dB大きくなります。これは経験則の式のなかで周波数が3乗、距離が2乗で効いているためです。
つまり近傍界の電界に対しては、周波数が低いほど、また波源に近いほど反射損失が大きくなります。
吸収損失とは
一方の吸収損失 は、材料の厚み と表皮深さ の比によって決まります。
表皮深さは、電磁界の振幅が表面の値の (約36.8 %)まで減衰する厚みのことで、周波数と材料定数から算出されます。

図3 厚みと表皮深さの比に対する吸収損失
上図から、吸収損失 は厚みが表皮深さの1倍増すごとに 8.686 dB ずつ増加することがわかります。
吸収損失の計算例
ここでは周波数1 MHz・銅(導電率 5.80×10⁷ S/m・比透磁率1)の条件で、吸収損失を30 dB得るために必要な厚みを算出します。
すると 1 MHz における表皮深さは 0.066 mm と求まります。
そこから必要な厚みを逆算すると、吸収損失 30 dB を得るためには 0.23 mm 以上必要になることがわかります。
つまり吸収損失 を確保できるかどうかは、対象とする周波数での表皮深さに対して厚みが何倍あるかで判断できるというわけです。
材質の選び方
シールド材の選び方は、対象が電界か磁界かによって基準が変わります。電界に対しては導電率の高い材料を選び、磁界に対しては透磁率の高い材料を選ぶことが一般的です。
この理由は、電界に対しては反射損失が効果的であるのに対し、低周波の磁界に対しては、導電率の高い材料では反射損失も吸収損失 もほとんど期待できないためです。
電界シールド
電界は波動インピーダンスが高いため、導電率の高い材料を選択することでインピーダンスが低下し、反射損失を大きく取ることができます。
表2 常温における代表的な金属の導電率

磁界シールド
低周波の磁界は波動インピーダンスが低いため、導電率の高い材料を選択しても反射損失はほとんど得られません。さらに表皮深さが板厚よりはるかに大きくなるため、吸収損失もほとんど得られません。つまり低周波の磁界に対しては、導電率の高い材料を選んでも、ここまで説明してきた反射損失と吸収損失 のどちらもほとんど期待できないということです。
そこで重要になるのが、磁束を材料の内部へ引き込んで迂回させる磁束分流です。周囲の空気より透磁率の高い材料を配置することで、磁束の通り道を作ります。

図4 電界と磁界におけるシールド機構の違い
上図では、電界は導電率の高い材料の表面で反射することによってシールドされているのに対し、低周波の磁界は透磁率の高い材料の内部へ磁束が引き込まれていることがわかります。この磁束分流を目的として、磁界シールドには鉄やパーマロイといった高透磁率の材料が使用されます。
磁束分流では、厚みが透磁率と並ぶもう1つの重要なパラメータになります。この理由は、厚みが増すほど磁束の通る断面積が広がって材料の磁気抵抗が下がるためです。これによって、シールド効果は厚みにほぼ比例して上昇します。ただし厚みが薄すぎると、材料の内部の磁束密度が飽和磁束密度に達して透磁率が急激に低下し、磁束の通り道として働かなくなります。
なお、電界シールドと磁界シールドでは厚みの決め方が異なる点に注意が必要です。電界シールドの厚みは表皮深さに対して何倍あるかで決まるのに対し、磁界シールドの厚みは磁気抵抗と飽和で決まります。
シールド材料の実際
ただし鉄やパーマロイは、電子機器の内部ではほとんど使われていません。その理由は、電子機器内部のノイズのほとんどが近傍界の電界であるためです。つまりアルミや銅などの、良導体の方が適しているということです。
一方で設備の磁気シールドのように、商用周波数帯の磁界をシールドする場面では鉄板やパーマロイの板が使用されています。










