この記事では、シールドケーブルの伝達インピーダンスを測定する方法について解説します。
伝達インピーダンスとは
伝達インピーダンスは、シールドケーブルのシールド効果を表す指標の1つです。シールド層(外導体)に流れる電流と、その電流がシールド内側(中心導体)に生じさせる電圧の比を、単位長さあたりで表した量です(図1)。なおこの定義は、ケーブルが電気的に短い条件で成り立ちます。

図1 伝達インピーダンスの定義
外導体に電流 が流れると、シールドの抵抗と電磁誘導により中心導体に電圧 が生じます。この電圧を電流とケーブルの長さ で割った値が、伝達インピーダンス で、単位は mΩ/m で表します。
つまり伝達インピーダンスが小さいほど、シールド効果が高くなるということです。
ただし、伝達インピーダンスが掲載されているデータシートはほとんど存在しません。汎用のシールドケーブルであれば、シールドの被覆率と直流抵抗、あとは周波数特性がないシールド効果に限定されます。
そのため、手元の汎用ケーブルのシールド効果を確かめるためには、伝達インピーダンスを自分で測定する必要があります。
計測器の選び方
伝達インピーダンスの測定では、外導体に入力した信号と中心導体に現れる出力の比を測定します。この入出力の比を測定する計測器の構成は 3 通りあります。
信号発生器とスペクトラムアナライザ(スペアナ)の組み合わせ(SG+SA)
トラッキングジェネレータ(TG)付きのスペアナ(TG付きSA)
ネットワークアナライザ(VNA)
この測定で計測器を選ぶときに重要な項目は、3 つあります(表1)。1つ目は周波数範囲、2つ目はダイナミックレンジ、3つ目は測定時間です。ダイナミックレンジが重要なのは、中心導体に現れる出力が小さいためです。
表1 計測器の構成ごとの比較

ダイナミックレンジを優先するときは、SG+SA を選びます。この理由は、信号発生器の出力を 0 dBm 以上にすることができ、かつスペアナの分解能帯域幅(RBW)を 1 Hz まで絞れるためです。ただし周波数を 1 点ずつ切り替えて測定するので、測定時間は長くなります。
一方で測定時間を優先するときは、TG付きSA を選びます。これは信号源と受信側が同期して周波数を掃引できるためです。ただし TG 出力は、0 dBm までで、かつ TG 使用時は RBW を 1 kHz より狭くできないため、ダイナミックレンジは小さくなります。
治具の S11 も同じ計測器で測定したい場合は VNA を選択します。また伝達インピーダンスが規定された規格(IEC 62153-4-6)では、VNA を主要な計測器としています。TG付きSA と同様に同期掃引のため測定時間は短めですが、IF 帯域幅を狭めてダイナミックレンジを広げると測定時間は長くなります。
注入治具の作り方
注入治具は、供試ケーブル(CUT:Cable Under Test)のシールドに信号を注入するための治具です。ここでは 50 Ω の同軸ケーブルを加工したものを注入線として使い、CUT の外導体に沿わせてライン注入治具を作ります(図2)。

図2 ライン注入治具の構造
この治具では、注入線の中心導体と CUT のシールドが、外側回路を構成します。そして CUT の中心導体とシールドが、内側回路を構成します。
注入線
注入線は 50 Ω の同軸ケーブルを加工します。CUT と並走する部分では外被と編組を取り除き、白い被覆の絶縁体と中心導体だけにしています。
注入線の中心導体は、CUT の編組に沿わせます。そして CUT の両端から約 3 cm の 2 か所で、注入線の外導体と CUT の編組を銅箔テープで接続します。
この 2 つの接続点の間が注入線とシールドの結合する区間で、その長さ(結合長)は 23 cm です。注入線の一方の端は信号源の出力に接続し、反対側は 50 Ω()で終端します。
CUT
今回の CUT は、両端に BNC コネクタが接続された RG58 で、全長は 30 cm です。CUT は、注入線と並走する部分の外被を取り除いて、編組を露出させています。
CUT の編組は、2 か所の銅箔テープで注入線の外導体と接続されています。つまり、CUT と注入線は外導体を共用しているということです。
CUT の両端のうち、注入線の信号源側を近端、反対側を遠端と呼びます。伝達インピーダンスは、このうち近端と遠端のどちらでも測定できます。
ケーブルが電気的に短い周波数では、近端と遠端の結果は一致します。そのため両者の測定結果を比較することで、伝達インピーダンスが正しく測定できているかを確かめられます。
一方で周波数が上がると、近端の測定は定在波の影響を受けやすくなり、近端と遠端の結果に差が生じます。この差が生じ始める周波数以降は、遠端の測定結果を使用することが一般的です。
遠端測定では、近端を 50 Ω()で終端し、遠端を受信側の入力に接続します。反対に近端測定では、近端を受信側の入力に接続し、遠端を 50 Ω で終端します。
S11による整合確認
注入治具の特性は、伝達インピーダンスに関連した規格(IEC 62153-4-6)で定められています。この規格では、注入回路の反射係数を 0.1 未満、つまりリターンロス 20 dB 以上が要求されています。
この要求の根拠は、注入治具が 50 Ω に整合しているとは限らないためです。
特に自作した注入治具では、注入線と CUT の編組で構成された外側回路の特性インピーダンスが編組の太さや間隔によって変化し、定在波のリップルを生じさせる可能性があるためです。
そこで伝達インピーダンスを測定する前に注入線の S11 を測定して、治具の整合を確認します。今回は注入線の反対側を 50 Ω で終端した状態で S11 を測定しました(図3)。

図3 注入治具の S11 の測定結果
測定結果は、100 kHz〜1 GHz でリターンロス 20 dB 以上を満足しており、実用レベルの伝達インピーダンスが測定できると判断できます。
伝達インピーダンスの算出手順
伝達インピーダンスは、次の 3 ステップで算出します。
1. スルーを測定する(入力)
2. CUT を測定する(出力)
3. 入出力の比から伝達インピーダンスを算出する
1ステップ目のスルーの測定では、信号源の出力と受信側の入力を直結して、受信側の読み値 (dBm)を基準として記録します。この読み値が入出力の比の入力にあたり、これによってケーブルや機器の周波数特性を取り除けます(ノーマライズ)。ただし、治具の不整合による誤差は取り除けません。
2ステップ目の CUT の測定では、注入治具を接続して CUT の出力を測定します。この読み値 (dBm)が、入出力の比の出力にあたります。
3ステップ目では、CUT の読み値とスルーの読み値の差から、dB で表した入出力の比 (負の値)を求めます。
入出力の比は、伝達インピーダンスと結合長の積に比例します。そのため同じ CUT でも、結合長が長いほど入出力の比は大きくなり、短いほど小さくなります。そこで結合長の影響を排除するために、伝達インピーダンスは結合長で正規化した 1 m あたりの値として算出します。
算出式では、結合長を 、注入線(外側回路)の終端を 、CUT(内側回路)の終端を とします。
この算出式では、分母の で結合長の影響を排除しています。これによってケーブルが電気的に短い周波数では、結合長が異なる注入治具で測定しても、同じ CUT であれば同じ伝達インピーダンスが得られるようになっています。
今回の CUT(RG58・結合長 0.23 m)では、遠端の 1 MHz の入出力の比が -82.2 dB で、・ は、どちらも 50 Ω です。この条件で伝達インピーダンスを算出すると約 34 mΩ/m となります。
この手順で、100 kHz〜100 MHz について遠端と近端の伝達インピーダンスを算出した結果が図4 です。測定条件は次のとおりです。
計測器:SG+SA
SG出力:+23 dBm@≤20 MHz、+17 dBm@>20 MHz
RBW:10 Hz
読み値:ピークサーチ
測定時間:約 4 分

図4 RG58 の伝達インピーダンスの周波数特性
図4 では、10 MHz 以下で近端と遠端の値がほぼ一致しています。一方で 10 MHz より上では、遠端の 11 MHz・37 MHz と近端の 85 MHz 付近にピークが現れ、ピークの位置で近端と遠端の値が分かれます。これらのピークの理由は、また別の記事で解説します。















