エッチングプラズマにおけるイオン挙動は、半導体製造で最も重要な「異方性エッチング」(垂直方向に深く掘り、横方向には掘り進まない)を実現するための鍵となります。
プラズマ中のイオンは、主に電界によって加速され、ウェハ表面に垂直に、かつ高いエネルギーを持って衝突することで、エッチングの物理的・方向性を決定づけます。
1. イオン挙動の基本原理
エッチングプラズマ中で生成されたイオン(主に正イオン)の運動は、以下の要因によって支配されます。
シースの形成とイオン加速
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電子とイオンの速度差: プラズマ中で生成される電子は質量が軽いため、イオン(陽イオン)よりも遥かに速く移動します。
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ウェハ表面への到達: 電子はウェハやチャンバー壁に先に到達し、それらを負に帯電させます。
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シースの形成: この負に帯電した表面と、プラズマ本体との間に、電子密度が低く、正イオンが優勢な**シース(Sheath、電気二重層)**と呼ばれる領域が形成されます。
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イオンの加速: シース内には大きな電界が発生し、プラズマ本体からシースに入った正イオンは、この電界によってウェハ表面に向かって垂直に、高いエネルギーを持って加速されます。
異方性エッチングの実現
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方向性(垂直性): シース内の電界はウェハ表面に対してほぼ垂直であるため、イオンはウェハに垂直に入射します。これにより、横方向のエッチングが抑制され、高アスペクト比の微細なパターンを形成する異方性エッチングが可能になります。
2. イオンのエネルギーと角度の制御(CMPとの関連性)
高集積化が進むにつれて、イオンの挙動を精密に制御することがますます重要になっています。
A. イオンエネルギーの役割
イオンのエネルギーは、エッチングの物理的(スパッタリング)作用と化学的(反応促進)作用の両方を決定します。
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物理的作用: 高速のイオンが基板表面に衝突し、材料を弾き飛ばします(スパッタリング)。
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相乗効果 (RIEの原理): イオンが衝突することで、基板表面に吸着したラジカル(中性化学種)との化学反応が活性化され、エッチング速度が大幅に向上します。この物理的衝撃と化学反応の相乗効果が、反応性イオンエッチング(RIE)の核心です。
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制御方法: 一般に、ウェハに印加する高周波(RF)バイアス電力を大きくすることで、シースの電位差が増し、イオンの衝突エネルギーが高くなります。
B. イオン角度分布の重要性
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角度分布の狭さ: 微細構造のパターン形状を崩さずにエッチングするには、イオンが完全に垂直に入射し、その角度のばらつき(角度分布)が極めて狭い(数度未満)ことが理想的です。
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低圧環境: チャンバー内の圧力を低くすると、イオンがウェハに到達するまでに他の粒子と衝突する確率(衝突回数)が減少し、平均自由行程が長くなります。これにより、イオンの軌道が直線的(バリスティック)になり、角度分布が狭くなります。
3. CMPとの関連性
前工程(FEOL/BEOL)でCMPによって表面が完全に平坦化されていることは、イオン挙動の観点からも不可欠です。
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CMPの貢献: CMPがなければ、ウェハ表面には大きな凹凸が残り、シースの形状が局所的に歪み、イオンの入射角度が場所によって大きくばらついてしまいます。
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結果: CMPによる平坦化は、シース内の電界を均一に保ち、イオンを全領域で垂直に入射させるための「平らな舞台」を提供し、高精度なエッチングプロファイルを保証します。






