縦型パワーMOSFETやIGBTといった縦型構造のパワーデバイスにおいて、ウェハの裏面プロセスは、大電流の取り出しと抵抗の低減を実現する上で非常に重要な役割を果たします。
裏面プロセスで形成されるドーピング層は、この低抵抗化と電極接続性を確保するために不可欠です。
🔋 裏面プロセスにおけるドーピング層の役割
縦型パワーデバイスでは、ウェハの裏面がドレイン(MOSFETの場合)または**コレクタ**(IGBTの場合)電極となります。電流は表面から垂直に流れ、この裏面電極を通して外部に取り出されます。
この裏面電極の直下に、以下の目的で高濃度のドーピング層が形成されます。
1. n+層(MOSFETのドレイン、IGBTのnバッファ)
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デバイスタイプ: 主に縦型MOSFET、およびIGBTのn型バッファ層として使用されます。
- IGBTのnバッファとは、IGBTの構造内で、パンチスルー構造を持つものに存在するN型の半導体層です。この層は、P層の内部に設けられ、耐圧とオン抵抗のバランスを調整し、IGBTのスイッチング特性を向上させる役割を担っています。
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役割:
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オーミックコンタクトの形成: 裏面の金属電極と半導体本体(nドリフト層など)との間に、電気抵抗の低い**オーミックコンタクト** を形成するために、**極めて高濃度**のn型不純物(例えばPやAs)がドープされます。これにより、電流がスムーズに電極へ流れます。
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抵抗の低減: n+層自体の抵抗を最小限に抑え、全体の導通損失を低減します。
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2. p+層(IGBTのコレクタ、FS-IGBTのバッファ)
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デバイスタイプ: 主にIGBTのコレクタ層(エミッタ電極と対になる層)として使用されます。
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役割:
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キャリア注入: IGBTは少数キャリア(ホール)をドリフト層に注入することでオン抵抗を劇的に下げる**伝導度変調効果**を利用します。コレクタのp+層は、このホールをnドリフト層に注入する役割を担います。
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電極接続: IGBTの場合、裏面コレクタ電極とp+層との間にオーミックコンタクトを形成します。
- 「オーミック コンタクト」は、電子回路で**オームの法則に従って電気的に直線上(線形)の電流-電圧(I-V)特性を示す接合**を指します。半導体デバイスと配線を接続する際に、整流作用のない抵抗の小さい接触を実現するために用いられるもので、電流がどちらの方向へもスムーズに流れるようにします
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3. FS-IGBT(Field Stop IGBT)のバッファ層
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役割: FS-IGBTでは、コレクタとドリフト層の間にn型またはp型の中間層(バッファ層/フィールドストップ層)を設け、ウェハを薄くしながら高耐圧を維持するために、裏面からこの層を形成する技術が使われます。
🔨 SiC / GaNにおける裏面ドーピング層の加工
特にSiCやGaNのようなワイドバンドギャップ半導体では、従来のSiよりもドーピング層の形成が難しくなります。
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イオン注入と活性化:
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SiCやGaNは原子の結合力が強いため、ドーピング不純物を原子構造の適切な位置に導入(活性化)するためには、1600℃以上の超高温アニールが必要です。
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Siのプロセスと比較して、この高温アニール工程が、裏面ドーピング層の形成コストと難易度を上げています。
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裏面研削後の注入:
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デバイスによっては、ウェハを数十 μm 程度まで薄く研削(裏面研削)した後、この薄くなった裏面からイオン注入を行い、ドーピング層を形成する手法が採用されます。ウェハが薄い状態でのイオン注入と高温アニールは、ウェハの割れや反りなどのリスクを伴います。
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縦型パワーデバイスの裏面ドーピング層は、単に電極を接続するだけでなく、高耐圧と低オン抵抗を両立させるというパワーデバイスの根幹に関わる重要な機能層となっています。
縦型パワーデバイスの裏面プロセスでは、このドーピング層形成後に、**裏面電極の形成(蒸着やスパッタリング)と電極の合金化(オーミック化)**が行われます。








