SiC(炭化ケイ素)パワーデバイスにおける高エネルギーイオン注入を用いた劣化抑制技術は、主に**「バイポーラ劣化」**と呼ばれる現象を解決するために注目されています。
この技術の核心は、イオン注入によって結晶内に意図的に「障害物」を作り、劣化の原因となる欠陥の動きを封じ込めることにあります。
1. SiCデバイスの主要な課題:バイポーラ劣化
SiC MOSFETやPiNダイオードなどのデバイスに順方向電流(ボディダイオードへの通電など)を流すと、**基底面転位(BPD: Basal Plane Dislocation)**という結晶欠陥が起点となり、**積層欠陥(SF: Stacking Fault)**が拡張します。
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劣化のメカニズム: 通電によって生じる再結合エネルギーにより、BPDがエピタキシャル層内で横に広がり、積層欠陥へと変化します。
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影響: この積層欠陥が電気の流れを妨げる壁となり、オン抵抗の増大や漏れ電流の増加を引き起こし、最終的にデバイスが故障します。
2. 高エネルギーイオン注入による抑制の仕組み
名古屋大学や住友重機械工業などの研究チームが開発した手法では、MeV(メガ電子ボルト)級の高エネルギーを用いて**水素イオン(H+)やヘリウムイオン(He+)**を注入します。
点欠陥による「ピン留め効果」
高エネルギーでイオンを打ち込むと、SiC結晶の特定の深さ(主に基板とエピ層の界面付近)に、原子が弾き飛ばされた跡である**「点欠陥」**が形成されます。
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ピン留め: この点欠陥が、BPD(転位)の移動を物理的に阻害する「釘」のような役割を果たします。
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水素原子の吸着: 水素イオンを用いた場合、水素原子が転位の終端部に吸着することで、転位が動くために必要なエネルギー(活性化エネルギー)を増大させ、拡張を抑制します。
本技術のメリット
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長期信頼性の向上: 従来は通電とともに劣化が進んでいたデバイスが、長時間の使用でも安定した性能を維持できるようになります。
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既存プロセスとの親和性: ウェハの裏面や界面付近への局所的な注入で済むため、デバイス表面の微細構造(ゲート構造など)に悪影響を与えずに済みます。
3. 実装の比較
| 項目 | 従来の対策(バッファ層など) | 高エネルギーイオン注入 |
| 手法 | 厚いエピタキシャル層や特殊層の形成 | MeV級加速器によるイオン打ち込み |
| コスト | エピ成長時間の増加により高コスト化 | 追加工程は必要だが、ウェハ処理効率は高い |
| 効果 | BPDの数を減らす(ゼロにはできない) | 存在するBPDの「動き」を止める |
出典:Google Gemini
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