再生型ペイロード(Regenerative Payload)を備えた衛星や、デジタル信号処理(DSP)を含む5G NTN対応デバイスの評価において、「デジタル処理遅延のデエンベディング」は最も難易度の高い測定課題の一つです。
従来のパッシブ素子やアナログ増幅器のデエンベディングとは異なり、デジタル処理による「不連続な位相」と「固定/動的な遅延」をいかに切り分けるかがポイントとなります。
1. デジタル処理遅延がもたらす測定の課題
VNA(ベクトルネットワークアナライザ)でSパラメータを測定する場合、通常は入出力間の位相の「傾き」から群遅延(Group Delay)を算出します。しかし、再生型デバイスでは以下の現象が起こります。
位相の不連続性: 内部で再サンプリングや再変調が行われるため、入力波と出力波の間に一定の位相関係(Phase Coherence)が保たれません。
量子化誤差とジッタ: デジタルクロックに起因する微細なタイミング変動が、測定値の「揺らぎ」として現れます。
2. 具体的な評価・デエンベディング手法
これを解決するために、MWC 2026の最新ソリューション等で提示されている手法は以下の通りです。
A. フェーズ・コヒーレント・マルチポート測定
入出力の位相関係を固定するため、VNAの各ポートに共通の外部リファレンスクロック(10 MHz / 100 MHz)を供給するだけでなく、LO(局発)信号を共有した状態で測定を行います。
手順: 基準となるスルー(Thru)校正データから、DSP前後の周波数変換段の特性をあらかじめ取得し、それを数学的に差し引きます。
適用: 再生型衛星のフロントエンド(RF-to-Digital)評価。
B. VNAの「周波数オフセット・モード」とスカラ校正
DSPによって入出力周波数が異なる(またはデジタルIFへ変換される)場合、VNAを周波数オフセット・モード(FOM)で動作させます。
ミキサー・デエンベディングの応用: 基準ミキサーを用いて位相特性を取得するのと同様に、既知のデジタル遅延特性(ゴールデン・デバイスやシミュレーション値)を.s2pファイルとして読み込み、測定値からベクトル演算で減算します。
C. 時間領域解析(Time Domain)によるゲート処理
最も実用的なのが、VNAのタイムドメイン機能を用いたデエンベディングです。
インパルス応答の取得: 逆フーリエ変換により、デバイスの応答を時間軸で確認します。
デジタル遅延の特定: アナログ回路による遅延(数ns)と、デジタル処理による遅延(数百ns〜数ms)は時間軸上で大きく離れて現れます。
ゲーティング: デジタル遅延に相当するピークを「ゲート」で選択し、その部分の位相特性のみを抽出、あるいは逆に除去してアナログ部のみの特性を算出します。
3. Pythonによる自動化と補正
4.5 GHz帯のDUT評価などで、VNAから取得したRAWデータ(IQデータ)をPythonで処理する場合、以下のようなフローでデエンベディングを実装します。
相互相関(Cross-Correlation)法: 入力信号と出力信号の相互相関を取り、最大ピークの位置からトータルの遅延 ttotal を算出します。
残差計算:
tanalog = ttotal - tdigital_spec
設計上のデジタル遅延(tdigital_spec)を差し引くことで、物理的な基板上のパターン長や、コネクタによる位相変化を特定します。
実務への応用
現在進められている4.5 GHz帯(AMD RFSoC等)の評価においては、「FPGA内部のロジック遅延(クロックサイクル単位)」をいかに正確に定義し、VNAの測定結果からデエンベディングするかが精度を左右します。
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