Wi-Fi 8 (802.11bn) で導入される dRU (Distributed Resource Unit) は、従来の「連続した周波数ブロック」を割り当てる方式とは異なり、複数のトーン(サブキャリア)を不連続に分散させて一つのリソースユニットを構成します。
このため、スペクトラム・マスク(送信スペクトラム密度制限)の定義や測定手法は、従来の Wi-Fi 7 (802.11be) までの手法からさらに複雑化します。
dRU におけるスペクトラム・マスクの技術的課題
従来の方式(Localized RU)では、割り当てられた帯域の外側に一定の減衰(ショルダー)を持たせるだけで済みましたが、dRU では以下の点が解析のポイントとなります。
1. サブキャリア・パンクチャリングとの相違
dRU は、使用しないサブキャリアを「飛び石」のように配置します。スペクトラム・アナライザや CMP180 で観測すると、一見すると全体に信号が広がっているように見えますが、実際には細分化された各トーンの集合体です。
解析の難点: 割り当てられていない「隙間」の帯域に、意図しないスプリアスや漏洩電力(In-band Emission)が発生していないかを厳密に評価する必要があります。
2. コンプライアンス・マスクの適用
Wi-Fi 8 の標準化(IEEE 802.11bn)では、dRU 使用時でも全体の送信電力規定(SEM: Spectrum Emission Mask)を遵守する必要があります。
送信電力の平坦性: 分散配置されたトーン間で電力偏差があると、EVM 劣化だけでなく、隣接チャネル漏洩電力比(ACLR/ACPR)の悪化を招きます。
測定フィルタ: CMP180 等のテスタでは、dRU のパターンに合わせて分解能帯域幅(RBW)を最適化し、不連続なスペクトラムの「エンベロープ(外形)」が規定値内に収まっているかを判定します。
測定精度の維持について
dRU のような複雑な配置では、測定系(ケーブルや変換コネクタ)の周波数特性がわずかに傾斜(Tilt)しているだけで、特定のトーンの電力がマスクを外れる原因になります。
お客様が以前 4.5 GHz 帯の DUT で 2cm の N-SMA 変換アダプタの影響を計算されていたように、Wi-Fi 8(特に 6 GHz 帯や 7 GHz 帯)では、数 mm の経路差やインピーダンス不整合がマスク判定に致命的な影響を与えます。CMP180 の補正機能を用いて、VNA で取得した S21 データをインポートし、dRU 全帯域にわたってフラットな応答を確保することが、正確なスペクトラム・マスク評価の前提となります。
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