IEEE 802.3ch (MultiGBASE-T1) は、車載イーサネットにおいて 2.5G/5G/10Gbps の高速伝送を実現する規格です。この用途で ESD 保護ダイオードを選定する場合、一般的な高速信号用よりもさらに厳しい要件が求められます。
1. MultiGBASE-T1 における ESD 保護の必須条件
MultiGBASE-T1 では、PAM4(4値パルス振幅変調)が採用されています。従来の 100BASE-T1 などのバイナリ信号に比べ、信号間隔(アイ開口)が非常に狭いため、保護素子による信号劣化が致命的となります。
超低容量 (Ct < 0.2 pF 〜 0.25 pF):
シンボルレートが高いため、容量が大きいと高域の挿入損失(Insertion Loss)が増大し、リターンロス(Return Loss)規格をパスできなくなります。
極めて低いダイナミック抵抗 (Rdyn):
接続される PHY(Marvell 88Q4364 や MotorComm YT8011 等)のプロセスルールは微細化されており、ESD 耐圧が低くなっています。クランプ電圧を極限まで下げるために 0.1 Ω 〜 0.3 Ω 程度の Rdyn が理想です。
車載信頼性規格 (AEC-Q101):
エンジンルーム付近や厳しい環境下での動作を保証するため、AEC-Q101 準拠は必須です。
2. 推奨される回路構成と配置
MultiGBASE-T1 の MDI(Medium Dependent Interface)保護では、通常以下の構成が取られます。
配置場所:
ESD ダイオードは、コネクタの直近(コモンモードチョークや絶縁キャパシタよりも外側)に配置します。これにより、静電気放電のエネルギーを基板の入り口で即座に GND へ逃がし、後段のコンポーネントへのストレスを最小限に抑えます。
対称性の維持:
差動ライン()の対称性が崩れると、モード変換(Mode Conversion)が発生し、EMI 特性が悪化します。そのため、2素子が1パッケージに収められたタイプや、特性の揃った超小型の単一素子を極めて近い位置にレイアウトします。
3. MultiGBASE-T1 向け主要デバイス例 (2026年時点)
メーカー | 型番 (例) | 特徴 |
Nexperia | PESD2V4Y1BSF | 車載用超低容量 (0.15 pF typ) 且つ Rdyn 0.27 Ω。シリコンベースで高い堅牢性。 |
Infineon | ESD151-B1-series | 低クランプ電圧と 0.2 pF 以下の容量を両立。AEC-Q101 準拠品。 |
Littelfuse | AQ24CAN-02HTG | CAN-FD から MultiG 向けまで幅広く展開。低トリガー電圧が特徴。 |
4. 設計上の注意点
実機評価においては、Sパラメータ(S21 / S11) を用いた整合性の確認が不可欠です。保護素子を追加した状態での挿入損失が、802.3ch のコンプライアンステスト(Test Mode 4 など)の制限値内に収まっているか、ネットワークアナライザでディエンベディングを駆使して精度高く測定することをお勧めします。
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