プラガブル・コヒーレントとは、長距離・大容量通信に用いられてきたコヒーレント光通信の機能を、ルーターやスイッチのポートに直接挿入できる小型の光トランシーバモジュール(プラガブル)に集積した技術および製品群のことです。
代表的な規格として、400ZR/ZR+ や 800ZR/ZR+ などがあり、ネットワーク構成のシンプル化とコスト効率の劇的な向上をもたらす、光通信分野における重要なブレークスルーです。
1. コヒーレント通信の小型化と集積化
コヒーレント通信は、受信側で光の振幅、位相、偏波を高度なデジタル信号処理 (DSP) を用いて復調し、光ファイバ伝送路で生じた色分散や偏波分散などの信号劣化を電気的に補償する技術です。
従来のコヒーレント通信は、大型で消費電力の大きいトランスポンダ(専用の筐体型装置)で行われていました。プラガブル・コヒーレントは、以下の技術により、この機能をQSFP-DDやOSFPなどの小型フォームファクタに集積しました。
高性能 DSP の採用: 最先端の半導体プロセス(例:5 nm)を用いて、高性能な DSP チップを小型化し、モジュール内に搭載します。
シリコンフォトニクスなどの利用: レーザー、変調器、検出器などの光部品を InP(リン化インジウム)やシリコンフォトニクス技術で高度に集積し、小型化と低消費電力化を実現します。
2. プラガブル・コヒーレントのメリット
A. ネットワークの簡素化とコスト削減 (IP over DWDM)
最も大きなメリットは、ネットワークアーキテクチャを簡素化できる点です。
トランスポンダの不要化: 従来、ルーター/スイッチと光伝送システム(DWDM)の間には、電気信号を光信号に変換するトランスポンダが必要でした。
直接接続: プラガブル・コヒーレントモジュールをルーター/スイッチのポートに直接挿入することで、トランスポンダを省略し、光信号を直接 DWDM 網に送り込めます(IP over DWDM)。
効果: 装置点数、占有スペース、消費電力、導入・運用コスト (CAPEX/OPEX) の大幅な削減が可能です。
B. 柔軟性と拡張性の向上
ルーターのポート密度をそのまま利用してコヒーレント通信を展開できるため、ネットワーク容量を必要に応じて迅速に追加・拡張できます。
3. 主要な規格と応用分野
現在、市場を牽引しているのは 400 Gbps 帯の製品であり、より高速な 800 Gbps 帯の製品も開発・実用化が進んでいます。
規格 | 速度 | 伝送距離 | フォームファクタ | 主な応用分野 |
400ZR | 400 Gbps | 80 km ~ 120 km | QSFP-DD, OSFP | 短距離 DCI (データセンター間接続) |
OpenZR+ | 100/200/300/400 Gbps | ~ 1000 km | QSFP-DD, OSFP | メトロ、リージョナル DCI (長距離対応) |
800ZR/ZR+ | 800 Gbps | 120 km ~ 2000 km | QSFP-DD800, OSFP800 | 次世代 DCI、大容量メトロ網 |
プラガブル・コヒーレントは、ハイパースケールデータセンターや通信事業者のネットワークにおいて、トラフィックの急増に対応するための大容量・省電力なソリューションとして不可欠な技術となっています。
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