SiCパワーデバイスの劣化抑制(ピン留め効果)に用いられる「MeV(メガ電子ボルト)級」のエネルギーを得るには、一般的な半導体製造で使われる数keV〜数百keVの装置とは異なる、原子核物理研究の技術を応用した加速器が必要です。
主な2つの方式、**「タンデム加速器」と「シンクロトロン」**の仕組みを解説します。
1. タンデム加速器:1つの電圧で2回加速
「タンデム」とは「直列に並んだ」という意味で、1つの高い正電圧(ターミナル電圧)を2回利用して効率よく加速する仕組みです。産業用SiCウェハへのイオン注入では、この方式が主流です。
-
負イオンの生成: まずイオン源で、電子を余分にくっつけた**負イオン($H^{-}$ など)**を作ります。
-
1回目の加速: 中央にある「正の高電圧ターミナル(数MV)」に向かって、負イオンが引き寄せられ加速します。
-
電荷変換(ストリッパー): ターミナル中央にある薄い膜やガスを通過させ、電子を剥ぎ取って**正イオン($H^{+}$ など)**に変換します。
-
2回目の加速: 正のターミナルから、今度は反発力(斥力)によって出口側へさらに加速されます。
-
特徴: 直線的な構造で、エネルギーの安定性が非常に高いのがメリットです。
-
エネルギー: ターミナル電圧を $V$ とすると、およそ $2V$ 倍(電荷数によってはそれ以上)の MeV 級エネルギーが得られます。
2. シンクロトロン:円形軌道で何度も加速
シンクロトロンは、粒子を円形の軌道(リング)の中に閉じ込め、何度も周回させながら少しずつエネルギーを継ぎ足していく方式です。
-
入射: 別の加速器(線形加速器など)である程度加速された粒子をリングに入れます。
-
周回と加速: 電磁石で軌道を曲げながら、リング内にある「加速空洞」を通過するたびに高周波電場でキックを与えます。
-
同期(シンクロ): 粒子が速くなるにつれて、軌道を維持するために磁場を強く、キックのタイミング(周波数)を速く同期させていきます。
-
取り出し: 目的のエネルギー(数百MeV以上も可能)に達したところで、軌道を外してターゲット(ウェハ)へ導きます。
-
特徴: タンデムよりも圧倒的に高いエネルギーを出せますが、装置が巨大(直径十数メートル〜)になります。
-
用途: 主に重粒子線がん治療や、極めて深い位置へのイオン注入(バルク処理など)といった特殊用途に使われます。
3. 仕組みの比較まとめ
| 項目 | タンデム加速器 | シンクロトロン |
| 軌道の形 | 直線的 | 円形(リング状) |
| 加速方法 | 静電位(高電圧)による一気加速 | 高周波電場による段階的な加速 |
| 装置サイズ | 数メートル〜十数メートル | 直径十数メートル〜数百メートル |
| 得意なこと | エネルギー精度が高く、産業用に適す | 超高エネルギーが得られる |
| SiCへの適用 | エピ層付近のピン留め(数MeV) | より深い基板内部への加工など |
出典:Google Gemini
関連:
-
GaN/SiCデバイスのC–V測定とは
GaN/SiCデバイスのC–V測定とは ~次世代パワーデバイスの電気特性を非破壊で評価する基本手法~ ■ 定義 GaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)を材料としたパワー半導体デバイスに対して、静電容量とバイアス電圧の関係(C–V特性)を測定する手法を「C–V測定」と呼びます。 この手法により、デバイス内部のドーピング分布、空乏層の広がり、界面準位、しきい値電圧などの重要パラメータを非破壊かつ[…]
-
パワーレール・プローブを使用する理由
パワーレール・プローブを使用する主な理由は、DCパワーレールのごくわずかなリップルやノイズを高精度で測定するために最適化されているからです。 従来の受動プローブや一般的な差動プローブと比較して、パワーレール・プローブには次のような利点があり、パワーインテグリティ(PI)測定に不可欠です。 パワーレール・プローブの主な利点 1. 非常に低いノイズフロア &n[…]
-
パワーレール DC電源の上に乗っている微小信号を測定 SAP4000P
DC電源レール(パワーレール)に重畳している**微小信号(リップル、ノイズ、トランジェントなど)**を正確に測定するには、大きな直流電圧成分(DCオフセット)を適切に扱い、測定器やプローブのノイズの影響を最小限に抑えるための特別な手法が必要です。 主に、オシロスコープと専用プローブを用いた測定が一般的です。 1. 測定の基本戦略 微小信号を正確に測定するための重要なポイ[…]




