この記事では、SIGLENT製のベンチトップ型VNAの購入を検討しているエンジニアに向けに、SNA5000Aシリーズ(SNA5004A・SNA5014A)とSNA6000Aシリーズ(SNA6024A・SNA6124A・SNA6034A・SNA6134A)の6機種について、実測データに基づく機種選定の判断基準を解説します。

 

判定マトリクス

6機種の選定は3つの判断軸で決まります。

 

①周波数帯域(5/8.5/13.5/26.5GHzの4段階)

②DR 135dBの要否

③DRAの要否

表1 機種推奨マトリクス

 

※凡例: ○ = 実用精度が得られる、× = 精度不十分または機能非対応

 

図1  判定フロー

 

選定のポイント

表1では「×」の判定がもっとも重要な情報です。
カタログには上位機種でできることは書いてありますが、下位機種で十分であるという情報は記載されていないため機種選定の参考にしてください。

 

SIGLENT VNAシリーズ構成

SNA6000Aシリーズは2022年発売、SNA5000Aシリーズ(2021年発売)の後継上位機種です。
UI・ファームウェアは同一で、主要な差異はハードウェア性能です。表2に構成比較を示します。

表2 構成比較

 

※価格は参考値(2026年4月時点)。100kHz以下の低周波測定が必要な場合はSNA5000Aが必須。

 

ダイナミックレンジ(DR)

カタログのDRはIFBW=10Hz条件の値です。SNA5000Aは125dB、SNA6000Aは135dBで10dBの差があります。
ただし、IFBW=10Hzは実務で常用できる条件ではなく、この差が顕在化するのはDUTが高減衰(≥60dB)かつ低IFBW(≤100Hz)の測定条件に限られます。

 

IFBW依存性

IFBWを10倍に広げるとDRは約10dB低下します。図2にIFBW別のDR理論曲線を示します。

 

図2 DR理論曲線

 

IFBWを狭くするとスイープ時間は増大します。
SNA6034Aで100kHz〜26.5GHz、26,501ポイントでの実測スイープ時間を以下に示します。

 

  • IFBW=1MHz: 約0.6秒
  • IFBW=100kHz: 約0.8秒
  • IFBW=10kHz: 約3秒
  • IFBW=1kHz: 約24秒
  • IFBW=100Hz: 約4分
  • IFBW=10Hz: 約39分
  • IFBW=1Hz: 約5時間

 DR比較時の注意事項

他社製品とDR性能を比較する際は必ずIFBW条件を確認してください。
IFBW条件なしのDR値は性能指標として不完全であり、誤った機種選定の原因となります。

 

IFBWと測定精度の関係

SNA6034Aを使用し、IFBWが測定結果に与える影響を確認します。
DUTはMini-Circuit製同軸フィルタ3種(VLFX-1300+、VLFX-2500+、VBFZ-3590S)、周波数範囲100kHz〜26.5GHz、ポイント数26,501点、IFBW=1kHz/10kHz/100kHz/1MHzの4条件です。

 

LPF測定


図3 VLFX-1300+ S21実測(IFBW別比較、SNA6034A)

 

 図4 VLFX-2500+ S21実測(IFBW別比較、SNA6034A)

 

両フィルタともIFBWを大きくするほどストップバンド(-60dB以下の領域)のノイズレベルの変動が増大し、減衰量を正確に測定できていないことがわかります。

 

BPF測定

図5 VBFZ-3590S S21実測(IFBW別比較、SNA6034A)

 

BPFの測定ではストップバンド減衰量が−40〜−50dBであるため、IFBWによる減衰量の差異はほとんどありません。
この場合、IFBWを大きくしても問題ありません。

 

初回測定時の設定

IFBWの適正値はDUTの減衰量によって変化します。
経験則としては、DUTの素性がわからない初回測定はIFBW=10kHzから始めるのがおすすめです。
減衰量が小さければIFBWを上げて速度を稼ぎ、減衰量が大きい場合はIFBWを下げて精度を高めます。

 

周波数分解能

IFBWに続いて、もう一つの測定パラメータである周波数分解能による影響も確認してみます。
周波数分解能はスパンをポイント数で除した値です。

表3 フルスパン時の周波数分解能

 

なお、スパンを100MHzに絞れば20,001点でも約5kHz/点が得られ、大半のフィルタ評価には十分です。
ここではDUTをVLFX-1300+として、ポイント数を変化させた結果を図6に示します。

 

図6 VLFX-1300+ S21実測(ポイント数別比較、IFBW=10kHz、SNA6034A)

 

26,501点ではコーナー周波数や共振ピークを正確に描画できます。
2,651点では周波数特性の傾向は概ね把握できるものの、共振ピークの正確なレベルを評価することは困難です。
266点周波数ステップが大きすぎるため、周波数特性の概略確認にとどまります。このようにポイント数は精度と速度のトレードオフとなっています。

 

セグメントスイープの活用

スパンを絞ればSNA5000Aの20,001点でも十分な分解能が得られます。
また、複数帯域を効率よく確認するにはセグメントスイープを活用することで、広帯域・高分解能の測定を実現できます。
ただし、セグメント数に比例して測定時間は増大します。

 

ダイレクトレシーバアクセス(DRA)

DRAはとSNA6134Aに搭載されるオプションで、ミキサ変換ロス測定、周波数コンバータ評価、LRM高精度キャリブレーションなどの評価に用います。

図7 DRAオプション端子

 

DRAはVNAの内部レシーバに外部信号を直接入力する物理ポートで、ミキサのように入出力周波数が異なるデバイスの評価に使用します。

 

注意事項

DRAは後付けできません。
将来ミキサ評価が業務に加わる可能性がある場合は購入時にDRA搭載モデルを選定しておくべきです。

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