この記事ではエンジャーさんよりMICSIGのMHO14-200のノイズ性能とフローティング測定の有用性について解説しています。

 

グランドループとは

プローブを当てた瞬間にパチッという音と共にプリント基板を破損させてしまった、あるいは自分自身がヒヤリしたという経験は誰しもが一度は通る道です。これは一般的な据え置きタイプのオシロスコープを使用したときに起こるグランドループが原因です。
電源に接続する据え置きタイプのオシロスコープは、BNC端子の外部シェルが安全のためにAC電源の接地ピンと導通しています。一方で測定対象物(DUT)もACラインに接続されている場合、コンセント内の接地配線を通じて、計測器と測定対象の間に接地を介したループが形成されます。これがいわゆるグランドループです。

グランドループによる弊害

この状態で絶縁されていない商用電源ラインや、電位差のある回路のマイナス側にプローブのグランドリードを接続すると、このループを経由して一気に過電流が流れます。これが短絡(ショート)事故の正体です。

グランドループの形成

図 グランドループの形成

また短絡に至らなかったとしても、このグランドループは周囲の磁界を拾う巨大なアンテナとして機能し、測定波形に深刻なコモンモードノイズを混入させることとなります。

バッテリー駆動の優位性

MHO14-200がバッテリー駆動であることの真の価値は、単なるポータブル性の提供だけではなく、AC電源の接地系から物理的に切り離された絶縁(フローティング)状態を容易に作り出せることにあります。これにより短絡による破損事故を防ぎつつ、環境ノイズの影響を最小限に抑えた波形を、安全かつ高精度に捉えることが可能になります。

MHO14-200のノイズ性能

オシロスコープによる測定において、計測器自体が持つノイズレベルの小ささ、すなわちノイズフロアの低さは非常に重要です。その一方で、多くのACアダプタはスイッチング電源であり、それを使用することでノイズ性能が悪化することが一般的です。そこでまずはMHO14-200をACアダプタ駆動したときとバッテリー駆動したときのノイズ性能の違いについて検証してみます。

検証方法

ここではチャネル1に50Ω終端を接続した状態で測定を実施し、入力電圧範囲が1mV/divのときの実効電圧rmsをノイズレベルとします。

MHO14-200に50Ω終端を接続した様子

図 MHO14-200に50Ω終端を接続した様子

また入力チャネルの設定パネルから帯域制限(30kHz、20MHz)を掛けることも可能なため、帯域制限時のノイズフロアも確認してみます。

ACアダプタ駆動

フル帯域

まずはACアダプタ駆動で帯域制限なしのときのノイズレベルです。

ACアダプタ駆動、帯域制限なしのノイズレベル

図 ACアダプタ駆動、帯域制限なしのノイズレベル

ここで実効値が124μVrmsとなっており、他の12ビットオシロスコープと比較しても遜色ない性能が得られていることが確認できます。このことからMHO1シリーズがエントリモデルのオシロスコープとはいえ、性能については妥協なく作られていることがわかります。

20MHz帯域

チャネル1に対して20MHzの帯域制限を掛けるとノイズレベルは100μVrms程度まで低下します。

ACアダプタ駆動、20MHz帯域のノイズレベル

図 ACアダプタ駆動、20MHz帯域のノイズレベル

これはノイズ電圧が帯域幅の平方根に比例するという関係によるものです。ただし計算値と理論値の間には若干の乖離が生じています。

ノイズ電圧が帯域幅の平方根に比例

この理由はオシロスコープ内部に帯域依存で減少するホワイトノイズ成分と、帯域に依存しないノイズフロア成分の2つが存在するためで、ここではノイズフロア成分が支配的となっているため、理論値通りの性能が得られていないものと考えられます。

30kHz帯域

MHO14-200ではデジタルフィルタによって任意のカットオフ周波数で帯域制限を掛けることができます。ここではデジタルフィルタの最小カットオフ周波数である30kHzとしたときのノイズレベルを測定してみます。

ACアダプタ駆動、30kHz帯域のノイズレベル

図 ACアダプタ駆動、30kHz帯域のノイズレベル

するとノイズレベルは90μVrmsまで低下するものの、やはり理論値通りの性能は得られません。

電源接続時のノイズレベル

このことから電源接続時のノイズレベルとしては100μVrms程度が限界と見ることができます。

バッテリー駆動駆動

ACアダプタを取り外して、バッテリー駆動としたときにノイズレベルも測定してみます。

フル帯域

まずは帯域制限をかけていないフル帯域時のノイズレベルです。結果としてはACアダプタ駆動時と同等のノイズレベル124μVrmsとなっています。

バッテリー駆動、帯域制限なしのノイズレベル

図 バッテリー駆動、帯域制限なしのノイズレベル

このことからMHO14-200においてはACアダプタによるスイッチングノイズは最小化されており、微小信号の測定においてACアダプタの有無はそこまで気にする必要はないと言えます。

20MHz帯域

20MHzの帯域制限をかけたときの挙動もACアダプタ駆動時と同じです。

バッテリー駆動、20MHz帯域のノイズレベル

図 バッテリー駆動、20MHz帯域のノイズレベル

ここでは120μVrmsとなっていますが、基本的には帯域制限の影響はそこまで大きくないことがわかります。なお実効値としてみたときのノイズレベルは変化していませんが、波形としてみると帯域制限によって線が細くなっている様子が確認できます。

30kHz帯域

30kHzにおいても同様に、実効値は100μVrmsと変化が小さいものの、波形の線は細くなっています。


バッテリー駆動、30kHz帯域のノイズレベル
図 バッテリー駆動、30kHz帯域のノイズレベル

そのため波形の見え方を変えるという意味では帯域制限が機能しているものの、ノイズレベルが実態として下がっているわけではないということは理解しておくべきです。

AC電源ラインの測定

ここからはグランドループの影響が大きい商用交流100Vラインの測定について検証していきます。一般的な据え置きタイプのオシロスコープで安全に測定するには、高価な高電圧差動プローブを使用して電位差として取り出すのが鉄則です。しかし前述の通りフローティング計測が可能なMHO14-200なら、パッシブプローブをダイレクトに接続して測定することが可能です。

MHO14-200の優位性

ここで重要になるのがMHO14-200の12ビット分解能です。一般的な8ビット機の垂直分解能は256階調ですが、12ビット機では4,096階調16倍の分解能を持ちます。
例えば、AC100V(ピーク値 約141V)を画面いっぱいに表示させて観測する場合、それぞれの最小分解能は、8ビット機では1.1V/LSBであるのに対して、12ビット機は69mV/LSBになります。この差は波形を拡大したときに顕著に現れます。12ビット機のMHO14-200であれば、100Vという大きな電圧の頂点付近に乗っている数100mV程度のインバータノイズや高周波の歪みを、波形を拡大しても滑らかな曲線として捉え続けることができます。

測定対象物(DUT)

今回は測定対象物としてLED電球を使用します。

LED電球の入力端子電圧を測定している様子

図 LED電球の入力端子電圧を測定している様子

測定箇所は電球ソケットの電源コードの端子部で、LとNに対して受動プローブを接続します。

LED電球の入力端子電圧を測定している様子(拡大)

図 LED電球の入力端子電圧を測定している様子(拡大)

フローティング測定

実際に商用交流100Vラインの電源波形を測定してみると、実効値が106Vrmsでピークツーピークが294Vpk-pkとなっていることが確認できます。

フローティング測定による商用電源ラインの測定波形

図 フローティング測定による商用電源ラインの測定波形

商用電源の電圧範囲は95~107 Vと定められているため、正常の範囲内であることがわかります。また時間分解能を高くしてみても波形にガタつきが存在せず、12ビット分解能によって滑らかに描画されていることが確認できます。

フローティング測定による商用電源ラインの測定波形(拡大)

図 フローティング測定による商用電源ラインの測定波形(拡大)

なお200mVスケールまで拡大すると波形のがたつき(量子化誤差)を確認できますが、実務上は気にする必要がないレベルです。

フローティング測定による商用電源ラインの測定波形(超拡大)

図 フローティング測定による商用電源ラインの測定波形(超拡大)

周波数解析

オシロスコープで商用電源ラインを測定することで、マルチメータとは違った観点で電源を評価することができます。それがFFTによる周波数解析です。MHO14-200のFFT機能は設定方法に若干のクセがありますが、使えないわけではありません。ここではLED電球の駆動によって多くの電源高調波が発生している様子が確認できます。

フローティング測定による商用電源ラインの周波数解析

図 フローティング測定による商用電源ラインの周波数解析

スペクトラムアナライザのような専用機ではないため、スペクトル1つずつに対しての解析は難しいですが、相対的にどの程度の高調波が発生しているのかを把握するには十分です。

差動測定

MHO14-200ではバッテリー駆動によるフローティング測定が実現できますが、高電圧差動プローブを使った差動測定にももちろん対応できます。ここではMICSIGのDP10007を使用して同じく商用電源ラインを測定してみます。

LED電球の入力端子電圧を差動プローブ(DP10007)で測定している様子

図 LED電球の入力端子電圧を差動プローブ(DP10007)で測定している様子

実際に波形を測定してみると実効値が107Vrmsでピークツーピークが297Vpk-pkとなっており、フローティング測定の結果とほぼ一致していることが確認できます。

差動測定による商用電源ラインの測定波形

図 差動測定による商用電源ラインの測定波形

ただし高電圧差動プローブは基本的に周波数帯域が狭く、すべての場面で有効というわけではないので、用途に応じてフローティング測定と差動測定を使い分けできることはMHO14-200ならではの強みと言えます。

MHO14-200のメモリ性能

現場でのトラブル対応において、最も厄介なのはたまに発生するノイズです。50Hzや60Hzという長い周期の電源波形を数サイクル分眺めながら、その中に隠れた一瞬のスパイクを捕まえるには、膨大なメモリ容量が必要になります。

Memory(メモリ長)=SampleRate(サンプリングレート)×Time(観測時間)

多くの計測器はメモリ容量が不足すると、自動的にサンプリングレートを下げます。これは使い勝手という面では良いのですが、一方でサンプリングレートが下がるとエイリアシングが発生する可能性が高くなります。MHO14-200はエントリークラスとしては驚異的な110Mptsというメモリを搭載しています。

1GSa/s、110Mpts設定で商用電源を測定した様子

図 1GSa/s、110Mpts設定で商用電源を測定した様子

例えば、AC波形を5サイクル分(100ms)キャプチャしたい場合、110Mptsのメモリがあれば、1GS/sという高いサンプリングレートを維持したまま記録し続けることが可能です。これによりゆっくりとした交流の波形を追いかけつつ、その上に乗った数MHzオーダーのスイッチングスパイクや高周波のバーストノイズも高い精度で観測できます。これは不具合や誤動作の解決が求められるエンジニアにとって、非常に強力な武器となります。

おわりに

MHO14-200はタブレット型ならではの薄さと軽さはもちろんですが、12ビットの高分解能とバッテリー駆動による安全性の確保によって、非常に使い勝手の良いと感じました。
特に実際のトラブル現場では、このノイズは電源環境のせいか、それとも回路自体のせいかを見極めることは非常に重要です。さらにプローブを当てたことで回路を故障させないかなど安全面への配慮も欠かせません。そうした環境において、高分解能とフローティング測定を高いレベルで実現しているMHO14-200は、現場トラブルの強い味方となるはずです。

 

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