この記事ではエンジャーさんよりSDS5108X HDの性能についてレビューしています。
チャネル数とサンプリングレート
SDS5108X HDの最大サンプリングレートは5GSa/sですが、すべての動作条件でこのサンプリングレートが実現できるわけではありません。動作チャネル数やチャネル番号の組み合わせによって最大サンプリングレートが変化します。ここでは動作条件ごとに、サンプリングレートがどのように変化するのかを確かめてみます。
確認方法
サンプリングレートの確認方法は AcquireのMemory Managementから Fixed Smpl Rateを選択し、選択可能な最大の Sample Rateから判断します。
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図 Acquireの設定画面
上図においては Sample Rateが5GSa/sとなっており、最大サンプリングレートの条件で動作していることがわかります。
1CH動作
まずは1CHだけ動作させたときのサンプリングレートです。SDS5108X HDは全8CHあるため、各CHを単独動作させてサンプリングレートを確認しました。結果としては、すべてのCHで単独動作時に 5GSa/sで動作しました。
ここでは代表例として、チャネル1動作時の Sample Rateの選択画面を示しますが、Sample Rateが 5GSa/sとなっています。
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図 チャネル1単独動作時の最大サンプリングレート
2CH動作
2CH動作時のサンプリングレートは組み合わせによって変化します。ここではチャネル1を基準として、その他のチャネルを起動したときのサンプリングレートを確認してみます。
チャネル1+チャネル2
チャネル1とチャネル2を同時に動作させたときの最大サンプリングレートは 2.5GSa/sとなります。
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図 2CH(チャネル1+チャネル2)動作時の最大サンプリングレート
これは単独チャネル動作時に使用されている インターリーブ方式が使えなくなるためです。インターリーブ方式とは複数のADコンバータのクロックタイミングをずらして動作させることで、実効的なサンプリングレートを引き上げる技術です。
ここでは2つのADコンバータに 180°ずらしたクロックを与え、サンプルタイミングを交互に配置することで、2倍のサンプリングレートが実現されていました。
一方で2CH動作時は各チャネルが単独のADコンバータを使用するためインターリーブ方式が適用できず、ADコンバータ本来のサンプリングレートである 2.5GSa/s が適用されています。
チャネル1+チャネル3
チャネル1とチャネル3を同時に動作させたときの最大サンプリングレートは 5GSa/sです。
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図 2CH(チャネル1+チャネル3)動作時の最大サンプリングレート
ここでサンプリングレートが低下しない理由は、チャネル1とチャネル3のADコンバータが独立しているためです。つまりチャネル1はチャネル2とだけインターリーブ動作しており、チャネル3はチャネル4とインターリーブ動作しているということです。オシロスコープのチャネル数が2CH刻みでラインナップされているのもこれが理由で、多くの場合は2CHごとにペアとしてインターリーブ動作するようになっています。
4CH動作
4CH動作時はインターリーブ動作に該当するかどうかによってサンプリングレートが変化します。
チャネル1+チャネル2+チャネル3+チャネル4
チャネル1~4までを使用する場合は、最大サンプリングレートが 2.5GSa/sとなります。
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図 4CH(チャネル1~4)動作時の最大サンプリングレート
この理由は2CH動作時と同じで、チャネル1とチャネル2、チャネル3とチャネル4それぞれでインターリーブ動作できないためです。
チャネル1+チャネル3+チャネル5+チャネル7
一方で奇数チャネルだけで4CH動作させたときの最大サンプリングレートは 5GSa/sとなります。
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図 4CH(チャネル1, 3, 5, 7)動作時の最大サンプリングレート
これはインターリーブ動作のためのADコンバータの重複を回避できているためで、見かけ上は4CHですが、実際は8CH分のADコンバータが動作していることになります。
チャネル2+チャネル4+チャネル6+チャネル8
もちろん偶数チャネルだけで4CH動作させたときの最大サンプリングレートも 5GSa/sとなります。
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図 4CH(チャネル2, 4, 6, 8)動作時の最大サンプリングレート
このようにチャネルの組み合わせによって最大サンプリングレートが変化するため、測定の目的に応じて使用チャネルを使い分けることも大事です。
8CH動作
すべてのチャネルをアクティブにした状態の8CH測定においては、インターリーブ動作できないため最大サンプリングレートは 2.5GSa/sに制限されます。
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図 8CH動作時の最大サンプリングレート
制限されるとはいえ、一般的なオシロスコープと比較すると非常に高速なサンプリングレートではあるので、ほとんどの用途においては十分な性能と言えます。
ノイズレベル
SDS5000X HDシリーズはSiglentの高分解能オシロスコープ(HD系列)に位置付けられますが、本体のノイズレベルが高いと高分解能も意味をなしません。
確認方法
ここではチャネル1に50Ω終端を接続した状態でのノイズレベルを測定します。
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図 チャネル1に50Ω終端を接続した状態
なおSDS5108X HDは入力インピーダンスを1MΩと50Ωから選択でき、今回はインピーダンス整合を考慮して50Ω入力での結果を示します。
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また入力チャネルの設定パネルから帯域制限(20MHz、200MHz)を掛けることも可能なため、帯域制限時のノイズフロアも確認してみます。
データシートでは入力電圧範囲が5mV/div以下の条件、かつ50Ω入力での実効電圧rmsが Noise Floorの特性値として記載されており、SDS5108X HDは140μVとなっています。
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図 データシートより抜粋したノイズフロア
今回はデータシートに記載されている実効値Vrmsに加えて、ピークツーピークVpk-pkも測定します。
フル帯域動作
フル帯域動作時のノイズフロアはピークツーピークで1.4mVpk-pk、実効値で140μVrmsとなっており、データシートに示された通りの性能が得られていることが確認できます。
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図 フル帯域動作時のノイズレベル
140μVrmsをデシベルで表すと -77dBV程度となります。狭帯域用の受信機としては若干物足りなさもありますが、1GHz帯域の超広帯域受信機として見れば十分な低ノイズと言えます。また周波数変換FFTを掛けると1ポイントあたりのノイズ密度が低下するため、ノイズフロアもそれに応じて低下します。
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図 フル帯域動作時のノイズレベルとFFT波形
ここではリファレンスレベルを-80dBV、スケールを10dB/divとしていますが、これだけノイズレベルが低ければノイズ対策・デバッグ用の計測器としても問題なく使用できます。オシロスコープを使ったノイズ対策では広帯域測定によるノイズの取りこぼしを抑制できるため、効率的な課題解決にもつながりやすいのが利点です。
200MHz帯域制限
200MHzの帯域制限を掛けるとノイズレベルは70μVrms程度まで低下します。
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図 200MHz帯域制限時のノイズフロア
帯域幅が1/5(1GHz→200MHz)に対してノイズレベルが1/2になるという結果は、ノイズ電圧が帯域幅の平方根に比例するという関係とも概ね一致します。
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なお理論値と実測値に若干の差がある理由としては、フリッカノイズやフィルタ特性の違いによる影響などが考えられます。
20MHz帯域制限
帯域制限を20MHzまで掛けるとノイズレベルは40μVrmsまで低下します。
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図 20MHz帯域制限時のノイズフロア
ここでもノイズレベルと帯域幅の関係性は成り立ちますが、理論値との差はさらに大きくなっています。
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この理由は先に示した2つの要因に加えて、オシロスコープ内部のアンプのベースノイズの影響も含まれるためです。ただし40μVrmsでも十分低ノイズであるため、高性能なLDOの出力ノイズの評価にも十分使用できるレベルです。
ハイレゾモードの適用
SDS5108X HDにはハイレゾモード機能が実装されており、これによって更にノイズレベルを低下させることが可能です。
ハイレゾモードとは
ハイレゾモードとはADコンバータがサンプリングしたデータに対して、移動平均処理を行うことでランダムノイズを相殺する機能です。これによって量子化ノイズやサーマルノイズが平均化され、見かけ上の分解能が 13ビット ~ 16ビット 相当に向上します。ただし移動平均を掛けるということは、周波数領域で帯域制限を掛けることと同義です。つまり帯域制限にさらに上書きして帯域制限を掛けることになるため、実質的な帯域幅がさらに狭くなります。そのためDCに近い、周波数の低い信号を精密に測定したい場合にのみ使用する機能になります。
ハイレゾモードの適用方法
ハイレゾモードは Acquireの Acquisitionから Hi-Resを選択し、Enhanced Bitsから拡張するビット数を選択します。拡張ビット数を高くするほど分解能が高くなりますが、その分だけ帯域制限もきつくなります。
ハイレゾモード16ビット(12ビット+4ビット拡張)
ハイレゾモードで16ビットまで拡張すると、ノイズレベルは35μVrmsまで低下しました。
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図 20MHz帯域制限+ハイレゾモード16ビットのノイズフロア
このケースではすでにアンプなどのアナログノイズが支配的となっているため、ノイズレベルが劇的に低減するわけではありませんが、少しでもノイズレベルを改善したい場合は有効な手立ての1つとなるはずです。
またハイレゾモード使用時は、ベースのサンプリングレートをあえて低くすることでノイズレベルを下げる方法もあります。ここではサンプリングレートを 2.5GSa/s → 2.5MSa/sまで低下させると、ノイズレベルが10μVrmsまで低下しています。
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図 20MHz帯域制限+ハイレゾモード+サンプリングレート2.5MSa/sのノイズフロア
ただしここまでサンプリングレートが低い状態でハイレゾモードを使用すると、測定可能な信号はかなり限られてしまうため、優先事項を十分に理解したうえで使用することが重要です。
周波数帯域
周波数帯域はオシロスコープの入力チャネルをローパスフィルタに見立てたときに、振幅が3dB減衰する周波数として定義されています。すなわちSDS5108X HDの周波数帯域が1GHzだからといって、1GHzの信号を正確に測定できるというわけではありません。このことから経験則として、正弦波は基本波の5倍、矩形波は基本波の10倍程度の周波数帯域がないと波形を正しく表示できないと言われています。
また周波数帯域が広いことによる弊害も存在します。それがエイリアシングの影響です。エイリアシングとはナイキスト周波数(サンプリングレートの半分の周波数)を境にして、その差分だけ周波数の低い信号として波形が表示される現象のことです。周波数帯域の広いことでサンプリングレートを下げたときにエイリアシングが発生しやすくなります。
確認方法
周波数帯域の確認方法としては、SDS5108X HDのチャネル1を50Ω入力とした状態で、信号発生器から0dBmの正弦波を出力して波形を測定します。
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図 周波数帯域の測定風景
またエイリアシングの影響を確認するため、サンプリングレートは最大の5GSa/sと2CH動作時の 2.5GSa/sで実施します。
サンプリングレート 5GSa/s
まずはSDS5108X HDの最大サプリングレートである 5GSa/sで動作させた状態で周波数帯域を確認します。
100MHz
ファンクションジェネレータから周波数100MHz、出力レベル0dBmの正弦波を出力したときの波形です。
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図 100MHz正弦波の測定波形(5GSa/s)
Measurement機能によると周波数は100MHzで、ピークツーピークが627mVpk-pk、実効値が220mVrmsとなっています。50Ω系のシステムで0dBmの実効値は以下のように計算できます。
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またピークツーピーク電圧は、ピーク電圧を2倍することで計算できます。
いずれの値とも測定値と計算値が概ね一致しており、100MHzの正弦波が正確に測定できていることがわかります。
1GHz
つづいて1GHzの正弦波です。
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図 1GHzの正弦波の測定波形(5GSa/s)
Measurement機能の周波数は1GHzで、ピークツーピークが525mVpk-pk、実効値が184mVrmsとなっています。振幅が3dB低下すると電圧は1/√2(約 0.707 倍)になり、以下のように計算できます。
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実測値と計算値を比較すると、実測値のほうがやや電圧が高くなっています。これは信号発生器の出力レベルが適切に調整されていない測定システムが原因で、SDS5108X HDは1GHzの信号も十分測定できていると言えます。
1.3GHz
ここからは周波数帯外となるため、単純に0dBmの正弦波を観測できるかどうかだけを確認します。周波数を1.3GHzまで高くすると、ピークツーピークの振幅が100mVpk-pk程度とかなり小さくなります。
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図 1.3GHzの正弦波の測定波形(5GSa/s)
1.5GHz
周波数を1.5GHzにすると、ピークツーピークで6mVpk-pk程度まで振幅が低下し、ノイズの影響もかなり大きくなります。
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図 1.5GHzの正弦波の測定波形(5GSa/s)
実質的にはこのあたりが測定の限界とも言える周波数です。ちなみにこのときの入力端子の減衰量はおおよそ-40dBです。
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サンプリングレート 2.5GSa/s
サンプリングレートを2.5GSa/sに下げた状態での応答も確認してみます。周波数帯域が同じ状態で、サンプリングレートが下がるとエイリアシングのリスクが高まります。2.5GSa/sのサンプリングレートは2CH動作時(CH1とCH2)で適用されるため、比較的起こりやすい動作条件です。今回は1CH動作の状態で、固定サンプリングレートとすることで2.5GSa/sを実現しています。
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図 サンプリングレートを2.5GSa/sに設定している様子
1GHz
1GHzの正弦波に対してはエイリアシングが関係ないため、安定して波形を表示できます。ただしサンプリングレートが低下することでサンプルポイントが減少し、それによって補間(Interpolation)の程度が変化するため電圧が若干低下しています。
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図 1GHzの正弦波の測定波形(2.5GSa/s)
具体的にはピークツーピークが525mV→504mVに、実効値は184mV→176mVになっています。デフォルト設定ではSinc関数を使った補間が適用されますが、サンプリングポイントを直線でつなぐとサンプリングレートの影響が視覚的に理解できます。
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図 5GSa/sで直線補間した1GHzの正弦波の測定波形
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図 2.5GSa/sで直線補間した1GHzの正弦波の測定波形
これを見ると2.5GSa/sではサンプルポイントが足りずに、波形に歪みが生じていることがわかります。これが測定対象の信号に対して十分なサンプリングレートが必要と言われる理由です。つまり波形の観測だけであればナイキスト周波数をベースに考えればよいですが、波形を正確に測定するとなると十分なサンプリングレートが必要だということです。
1.3GHz
ナイキスト周波数(サンプリングレート2.5GSa/sのときは1.25GHz)よりも高い周波数を入力すると、エイリアシングが発生する様子が確認できます。
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図 1.3GHzの正弦波の測定波形(2.5GSa/s)
これまでは単一の正弦波が表示されていましたが、エイリアシングによって複数の周波数(1.3GHzと1.2GHz)が存在するため、いくつかの正弦波が重なった波形として表示されます。エイリアシングの影響を確認する方法としてはFFTかけてみるとわかりやすいです。
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図 1.3GHzの正弦波をFFTした波形(2.5GSa/s)
ここでは1GHz~1.25GHzの範囲のスペクトラムを表示していますが、1.2GHzに-30dBm程度のピークを持つことがわかります。これは1.3GHzの正弦波がナイキスト周波数1.25GHzを境に折り返されて1.2GHzの信号として観測されているためです。そしてスペクトラムには表示されませんが、SDS5108X HDは1.3GHzにおいても十分な感度を持つため、時間波形においては1.3GHzと1.2GHzが足し合わされた複数の波形となって表示されるということです。
1.5GHz
周波数を1.5GHzにしてもエイリアシングの影響が見えます。ここではナイキスト周波数を境に1GHzの信号として観測されています。
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図 1.5GHzの正弦波の測定波形(2.5GSa/s)
ただし感度自体が低下しているため、エイリアシングによる波形の振幅も非常に小さくなります。
2CH 動作時はエイリアシングに注意
SDS5108X HDは高サンプリングレートかつ広帯域でハイエンドモデルにふさわしい性能を有していますが、特に2CH動作時はサンプリングレートが2.5GSa/sに低下することでエイリアシングの影響が発生しやすくなっています。そのため高速信号を測定する場合はエイリアシングによる波形のひずみに注意してください。
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