ADL5961から出力されるデータは、最終的にはデジタル信号としてFPGAやCPUに渡されますが、その間には「アナログ・デジタル変換(ADC)」と「複素数演算(ベクトル計算)」のプロセスが必要になります。
上位システムでの処理フローは、大きく分けて以下の4つのステップで行われます。
1. 信号のデジタル化(ADC)
ADL5961は、入力された高周波(RF)を低い中間周波数(IF)に変換して出力します。
出力形式: 差動のI信号(同相)とQ信号(直交位相)のペアで出力されます。
サンプリング: このI/Q信号を、2chのADC(例:AD9235など)でサンプリングします。サンプリング速度は、設定したIF周波数の数倍程度が必要です。
2. デジタル・ダウンコンバート(DDC)とフィルタリング
FPGAやCPU内での最初の処理は、データのノイズ除去と抽出です。
帯域制限: デジタルフィルタ(FIRフィルタなど)をかけ、測定に不要なノイズ成分をカットします。
振幅・位相の抽出: 取得した I と Q から、以下の式で振幅と位相を算出します。
振幅: A = sqrt(I^2 + Q^2)
位相: θ = arctan2(Q, I)
3. ベクトル誤差補正(校正の適用)
ここがVNA処理の肝です。生データには基板の配線やコネクタの誤差が含まれているため、あらかじめ取得しておいた校正係数を適用します。
12項誤差モデル: プロ用VNAで使われる計算手法です。
処理内容: 測定された「生のSパラメータ」に対し、複素数行列の演算を行い、配線による損失や位相回転を数学的に「差し引き」ます。
FPGA vs CPU: * FPGA: リアルタイム性が求められる場合(高速なフィードバック制御など)は、ハードウェア乗算器を使って高速処理します。
CPU: BISTのように数秒おきの監視で良い場合は、浮動小数点演算が得意なCPU側でC言語やPythonを用いて処理する方が開発コストを抑えられます。
4. 特性解析と判定(上位アプリケーション)
補正されたデータを用いて、最終的な「診断」を下します。
S11/S21の判定: 規定のマスク(閾値)と比較し、「Pass/Fail」を判定。
TDR変換: 逆高速フーリエ変換(IFFT)を実行し、インピーダンスの「位置(距離)」ごとのグラフを生成します。
劣化診断(AI/ML): 定期的に取得したSパラメータをデータベース化し、機械学習によって「1ヶ月後に故障する確率」を予測するような高度な処理も行われます。
システム構成のイメージ
構成要素 | 役割 |
ADL5961 | RF信号の分離(ブリッジ)とダウンコンバート |
ADC | アナログI/Q信号をデジタル値へ変換 |
FPGA (PL) | 高速フィルタリング、FFT、リアルタイム演算 |
CPU (PS) | 校正データの管理、UI表示、ネットワークへの異常通知 |
実装に向けたヒント
ADIからは、これらの処理をPC上で行うためのAPIや評価用ソフトウェアが提供されています。まずはPCでアルゴリズムを検証し、その後にFPGAのロジックへ落とし込むのが一般的な開発フローです。
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