この記事ではエンジャーさんよりアナログRF信号発生器のブロック図をもとに動作原理や変調機能の仕組みについて解説しています。

 

基本構成

最も基本的なアナログRF信号発生器の構成を見てみましょう。 下のブロック図は、信号発生器の内部を簡略化して示したもので、リファレンス(Reference)、シンセサイザ(Synthesizer)、出力(Output)の3つのセクションで構成されています。
 RF信号発生器のブロック図

図 RF信号発生器のブロック図

リファレンスとシンセサイズの2つのセクションを組み合わせることでPLL(Phase Locked Loop:位相同期ループ)として機能します。また出力セクションではALC(Automatic Level Control:自動レベル制御)によって出力レベルを安定化させています。

PLLの構成

PLLは信号発生器の出力周波数を調整するためのブロックです。基準周波数発振器(Reference Oscillator)とVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)を位相比較器(Phase detector)で強制的に同期させることで、出力周波数を自在に調整します。

基準周波数発振器(Reference Oscillator)

基準周波数発振器は全システムの基準となる非常に安定した発振器です。Siglent製の SSG5085AではOCXO(恒温槽付水晶発振器)が標準搭載され、温度ドリフトを最小限に抑えて極めて正確な基準周波数(通常10 MHz)を出力します。この基準信号は分周器(divide by X)でPLL用の比較周波数(例:100kHz = 10MHz/100)に変換され、シンセサイザ部の位相検出器に入力されます。

VCO

VCOは入力された制御電圧に応じて発振周波数が変化する発振器です。出力される周波数 は制御電圧 に比例して連続的に変化し、VCOの出力周波数がそのまま信号発生器の出力周波数となります。VCO単体では周波数が不安定で、温度や時間で変動(ドリフト)してしまいますが、他のブロックと組み合わせることで周波数安定性の高い信号を出力できるようになります。

分数N分周器(Frac-N divider)

分数N分周器はVCOの出力を整数ではなく分数比で分周できる回路です。これによって基準周波数の整数倍ではない微細な周波数ステップ(例:1 Hz単位など)で出力を設定できるようになります。

位相比較器 (Phase Detector)

位相比較器は2つの入力信号の位相のズレを比較し、そのズレに応じた誤差信号を出力します。ここでは基準周波数 と分数N分周器の出力の2つを比較して、位相や周波数のずれに応じてパルス信号を出力します。

ループフィルタ(LPF)

ループフィルタは位相比較器から出力されたパルス信号を平滑化して、安定した直流電圧に変換するための回路です。このループフィルタはOPアンプを用いたアクティブフィルタで構成されます。ループフィルタの出力電圧がVCOの制御電圧 になるため、実質的にPLLの出力周波数を調整する信号とも言えます。そしてPLLの安定性・応答速度・位相ノイズなどの性能はループフィルタの帯域幅によって変化します。

出力セクションの構成

出力セクションはPLLから出力された信号電力をALCによって安定化させるブロックです。VCOやアンプの出力レベルは周波数や周囲温度によって変動してしまうため、この変動をフィードバック制御で抑制します。

ALC変調器(ALC Modulator)

ALC変調器は出力信号のレベルを電圧制御で変化させる可変ゲインアンプ(VGA)または可変アッテネータで構成されます。ALCドライバからの制御電圧を受けて、出力レベルを連続的に調整します。

出力アンプ(AMP)

出力アンプはALC変調器で制御された信号を外部出力に十分なレベルまで増幅するためのブロックです。RF信号発生器に適した広帯域・低歪のアンプが使用され、周波数によるゲインの違いは内部の校正テーブルをもとに補正されます。

出力アッテネータ(Output attenuator)

出力アッテネータは外部への出力レベルを広範囲に設定するためのメインとなる減衰器です。5~10dB刻みのステップアッテネータで構成されます。ALC変調器と出力アンプでの出力レベルを微調整し、出力アッテネータでは出力範囲を調整するようなイメージです。このように2段階の調整を加えることで、高い確度と広いダイナミックレンジが実現できるようになっています。

方向性結合器(Directional Coupler)

方向性結合器は出力信号の一部を取り出し、後段の検出器(ALC Detector)に送るための回路です。-20 dB~-30 dB程度の順方向信号(Forward Power)だけを取り出すため、出力ポート側にはほとんど影響を与えません。

検出器(ALC Detector)

検出器は方向性結合器からの信号を検波します。検波方式には対数検波を採用することで、広いダイナミックレンジで出力電力を正確に検出できます。

ALCドライバ(ALC Driver)

ALCドライバは検波器の出力レベルと設定値を比較して、ALC変調器をフィードバック制御するためのコントローラです。実測値と設定値の誤差に応じた制御電圧を出力し、出力セクション全体のレベルを調整する役割を担います。このレベル調整がフィードバックループによって自動的に制御されるため、出力レベルは設定値に常にロックされ続けます。

変調機能の仕組み

アナログRF信号発生器は、純粋なCW信号だけでなく、AM(振幅変調)やFM(周波数変調)といった変調をかける機能も持っています。変調とはRF信号(キャリア:搬送波)に、音声やデータなどの情報を乗せることです。これは先ほど解説したフィードバックループの適切な箇所に、意図的に変調信号を注入することで実現されます。


変調ありのRF信号発生器のブロック図
図 変調ありのRF信号発生器のブロック図

基本的なPLL部とALC部は同じですが、変調信号源 (Modulation Source)が追加され、各ブロックに接続されている点が異なります。ここではアナログ信号の代表的な変調方式であるAM、FM、PM、パルス変調について説明します。

AM(振幅変調)

AMはRF信号の振幅を変調信号の形に合わせて変化させる方式です。振幅を制御するため、出力セクションのALCドライバに変調信号を加えます。ALCはもともと出力レベルを一定に保つためのものですが、ここに意図的に変調信号(例: 1kHz のサイン波)を加えることで、設定値自体が 1kHz周期で変動することになります。するとALCは、この変動する設定値を忠実に追従しようと動作するため、結果として出力信号のレベルが 1kHzのサイン波の形に合わせて変化することとなります。

FM(周波数変調)

FMはRF信号の周波数を、変調信号の形に合わせて変化させる方式です。周波数を変化させるため、VCOの制御電圧に変調信号を加えます。PLLがロックしている状態のVCOの制御電圧は安定した直流電圧ですが、ここに変調信号(例:1kHz のサイン波)を重畳させると、VCOの出力周波数も 1GHz を中心に、1kHz の周期でわずかに高く(例: 1.0001GHz)なったり低く(例: 0.9999GHz)なったりします。

PM(位相変調)

PMはRF信号の位相を変調信号の形に合わせて変化させる方式です。位相を表すΦをもとにΦMと表記されることもあります。PMもFMと同じくPLLの中に変調信号を加えますが、その対象となるのは位相比較器です。これは基準周波数と比較するタイミング、すなわち位相を変調信号によって意図的にズラす操作に相当します。PLLループはこの意図的なズレを補正しようと動作するため、結果としてVCOの出力信号の位相が変調信号に応じて変化することとなります。

パルス変調

パルス変調はレーダー信号のように、RF信号をON/OFFさせる方式です。これは最も単純な原理で、PLLとALCで作られた連続的なRF信号パスに高速なRFスイッチを配置し、外部からのパルス信号に合わせてRF信号をON/OFFさせることで実現されます。

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