この記事では信号伝送において重要となる平衡回路と不平衡回路の違いについて解説しています。
伝送線路とは
伝送線路は電気エネルギー、あるいは電磁波を伝搬するための媒体の総称です。電気を流すものや電磁波を通すものであれば、何でも伝送線路として機能します。ただし以前の記事(集中定数回路と分布定数回路)で言及したように、信号の波長と線路の長さの関係によって伝送線路の捉え方が変化します。
集中定数回路と分布定数回路の違い
伝送線路を集中定数回路として捉える場合は、伝送線路の物理的な寸法は信号に対して何も影響を与えないため、単純に信号を伝搬するための線として考えます。一方で伝送線路を分布定数回路として捉える場合は、伝送線路をコイルとコンデンサが分布した回路と考えます。ただし、集中定数回路であれ分布定数回路であれ、どちらも電気エネルギーを伝達するための媒体という役割は同じです。
シングルエンドと差動の違い
電気信号の伝送方式は、シングルエンド伝送と差動伝送に分かれます。シングルエンド伝送は、1本の信号線とGNDをペアとして伝送する方式です。差動伝送は、2本の信号線をペアとして信号を伝送する方式です。差動伝送の場合、2本の信号線間の電位差がデータとして機能します。
平衡回路とは
平衡は英語の「Balanced」を和訳したもので、電気回路では電圧の釣り合いが取れていることを意味します。電気信号を伝送する場合、送信側(ドライバ)と受信側(レシーバ)を導体で接続しますが、このときに線を1本だけ接続しても信号は伝送できません。これは閉ループが存在しないと電流が流れないためです。そのため平衡回路では、信号を伝送するためにドライバとレシーバ間を2本の導体で接続し、それぞれの線を信号の行き道と帰り道とします。
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平衡回路ではGNDを基準電位として、信号の行き道と帰り道に正負逆向きの電圧が掛かり、両者の電圧の和は 0 になります。つまり電圧の釣り合いが取れているということです。
交流でも考え方は同じ
交流の場合は行き道の信号に対して振幅が等しく、位相が180°ズレた電圧が帰り道の方に掛かります。そして平衡回路では、両者にコモンモードノイズが重畳しても、差分が信号として機能するためノイズの影響を打ち消すことができます。これが平衡回路がノイズに強い伝送方式と言われる理由です。
平衡回路の用途
平衡回路は高速通信や高周波信号の伝送で使用されることが多いです。伝送線路としてみると、ケーブルであればツイストペアケーブル、アンテナであればダイポールアンテナなどは平衡回路です。また通信方式でみると、RS-485、USB、Ethernet、HDMIなどの高速通信規格も平衡回路です。
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ダイポールアンテナはエレメントが2本あって、それぞれにプラスとマイナスの電荷が帯電して電界が発生するため、平衡回路としての機能が理解しやすいです。一方でUSBなどの高速通信の伝送線路は、一見すると1本のケーブルに見えるので平衡回路と言われてもイメージしづらいかもしれません。しかし断面を見てみると複数の信号線が存在しており、さらにその信号線が平衡回路というパターンがよくあります。
不平衡回路とは
不平衡回路は平衡回路のように電圧の釣り合いがとれていない回路のことで、信号の行き道と帰り道の電圧の和が 0 になりません。不平衡回路ではドライバとレシーバを1本の行き道で接続し、GNDを帰り道として信号を伝送します。
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ここで電圧に着目すると、行き道の信号線には電圧が掛かっているのに対して、帰り道となるGNDには電圧が掛かっておらず、両者は釣り合いが取れていません。これが不平衡回路を呼ばれる理由です。一般的な電気信号の多くは不平衡回路によって信号を伝送しており、基準電位に対する電位差がそのまま信号として機能するため直感的にも理解しやすいです。
不平衡回路のメリット・デメリット
不平衡回路では 1本の信号線で信号を伝送できるため、平衡回路と比較すると省スペース・低コスト化しやすいことがメリットです。一方で外来ノイズや基準電位の変動の影響を受けやすく、ノイズ耐性という観点では平衡回路に劣ります。また平衡回路と比較して高い電圧が必要となるため、高速伝送においても不利です。
不平衡回路の用途
不平衡回路は汎用的に様々な場面で使用されています。伝送線路でみると、同軸ケーブルやパッチアンテナが不平衡回路です。また通信方式でみると、RS-232、I2C、SPI、GPIOなどプリント基板上で伝送する多くの信号線が不平衡回路です。
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不平衡回路の中で最も信号の流れがイメージしやすいのが同軸ケーブルです。同軸ケーブルは中心導体を通った信号が外導体から帰ってきます。このときに外導体はGNDに接続するため、中心導体に対して電位の釣り合いが取れていません。またマイクロストリップラインも、GNDプレーンを信号の帰り道としているため不平衡回路です。とりわけプリント基板では、複数の信号線に対して共通のGNDプレーンを帰り道として機能させることで、配線スペースを大幅に削減できます。
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