この記事ではEMC試験に関連する知識について解説しています。

 

EMC試験サイト

ここでは各種EMC試験を実施するための代表的な試験サイトについて紹介します。

オープンサイト

オープンサイトは、外来電波が届きづらい山奥に存在する屋外の試験サイトです。EMC試験はもともとオープンサイトが基本とされていましたが、アクセスの悪さや電波環境の悪化によって近年はサイト数が減少しています。オープンサイトは、周囲に電波を反射・遮断するものが存在しないため、理想的な電波伝搬特性が得られます。一方で外来電波が混入するため、測定にあたってはノイズと外来電波の切り分けや受信機への過入力など、オープンサイトならではの問題点もあります。

電波暗室

電波暗室はオープンサイトの電波伝搬特性を模擬した人工の試験サイトです。金属製の壁によって外来電波をシールドしつつ、壁面や天井に設置された電波吸収体によって電波が吸収される構造となっています。

壁面と天井に電波吸収体が設置されたサイトを5面電波暗室(SAC:Semi Anechoic Chamber)、床面も含めてすべての面に電波吸収体が設置されたサイトを6面電波暗室(FAC:Fully Anechoic Chamber)と呼びます。EMC試験においては5面電波暗室を使用することがほとんどですが、1GHz超の放射エミッション試験や放射イミュニティ試験では6面電波暗室を使用します。

        

 

シールドルーム

シールドルームは、壁面が金属板で覆われた構造の試験サイトで、外部からの電波を遮断します。ただし室内で電波が反射するため、放射性のEMC試験には適しておらず、伝導性のEMC試験に使用されます。シールドルームは電波暗室と比較して安価に設置できることから、規格適合試験(コンプライアンステスト)を行う前段階の予備試験(プリコンプライアンステスト)サイトとしても使用されます。

 

試験装置

ここではEMC試験で使用する試験装置の概要について紹介します。

 

EMIレシーバ

 

        

EMIレシーバはエミッション試験で限度値への適合性を評価するために使用する計測器です。内部の構成はスペクトラムアナライザと似ていますが、追加でプリセレクタが搭載されています。プリセレクタはミキサーの前段に存在する帯域制限用のフィルタ回路です。広帯域ノイズがミキサーに入力されると歪みや相互変調が生じる可能性があるため、エミッション試験の適合性評価においてはプリセレクタが必須となります。このプリセレクタは周波数帯ごとに回路が分かれており、測定周波数に応じてフィルタ回路が切り替わります。


アンテナ

放射エミッション試験では、ノイズの種類(電界、磁界)や周波数帯に応じて様々なアンテナを使用します。



バイコニカルアンテナ

バイコニカルアンテナは電界測定用のアンテナです。バイコニカルアンテナは、バイが「ふたつの」、コニカルが「円錐」という意味を持っており、バイコニアンテナとも呼ばれます。ダイポールアンテナと比較して広帯域で使用でき、同軸ケーブルと接続するときにはバランが必要となります。

        

 

  • 測定対象:電界
  • 周波数帯域:30MHz~300MHz

 

ログペリオディックアンテナ

ログペリオディックアンテナも電界測定用のアンテナです。ログペリアンテナとも呼ばれ、放射エミッション試験においては、バイコニアンテナが低周波用、ログペリアンテナが高周波用として使い分けされています。アンテナエレメントが対数周期で共振するように設計されているため、広い周波数帯で使用できます。

        

 

  • 測定対象:電界
  • 周波数帯域:200MHz~1000MHz


バイログアンテナ

バイログアンテナは、バイコニアンテナとログペリアンテナを組み合わせたアンテナです。2つのアンテナの特徴が組み合わさっていることから、ハイブリッドアンテナとも呼ばれます。バイログアンテナの特徴は広帯域なことで、30MHz~1000MHzの周波数帯をひとつのアンテナで測定できます。

   

        

 

  • 測定対象:電界
  • 周波数帯域:30MHz~1000MHz


ダブルリッジドガイドホーンアンテナ

ダブルリッジドガイドホーンアンテナは、1GHz超の放射エミッション試験で使用されるアンテナです。一般的にはホーンアンテナと呼ばれており、導波管の先端を連続的に大きくした構造となっています。導波管の特性を改良したものなので、電波の位相が揃っており、ゲインが高く、指向性の鋭いことが特徴です。

        

 

  • 測定対象:電界
  • 周波数帯域:1GHz~18GHz


ロッドアンテナ

ロッドアンテナは、車載向けの放射エミッション試験で使用されるアンテナです。伸縮可能な棒状のロッドアンテナとカウンターポイズと呼ばれるグランドプレーンで構成されており、垂直偏波の電界を測定するアンテナです。アンプが内蔵されたアクティブアンテナが使用されることが一般的ですが、過入力には注意が必要です。

               

 

  • 測定対象:電界
  • 周波数帯域:150kHz~30MHz


ループアンテナ

ループアンテナは磁界の放射エミッション試験で使用されるアンテナです。シールデッドループと呼ばれる構造で、同軸の外導体がシールドして機能しつつ、中央に設けられたスリットから磁界が検出できるようになっています。EMC試験ではループ径が60cmのアンテナを使用し、アンテナを回転させることでX軸とY軸の磁界強度を測定できます。

        

 

  • 測定対象:磁界
  • 周波数帯域:150kHz~30MHz


ラージループアンテナ

ラージループアンテナは、電子レンジや照明機器などの特定のアプリケーション向けに使用される磁界測定用のアンテナです。3軸アンテナの場合は、各エレメントからの出力をそれぞれX軸、Y軸、Z軸方向の磁界強度として測定できます。ループサイズはEUTのサイズによって変更することとなっていますが、通常はループ径が2mのものが使用されます。


        

 

  • 測定対象:磁界
  • 周波数帯域:150kHz~30MHz

 

LISN

        

LISN(Line Impedance Stabilization Network)は、日本語で擬似電源回路網と呼ばれており、伝導エミッション試験で使用されます。LISNには以下の3つの役割があります。



受信機への出力

LISNはEUTから漏れ出した電源ラインに重畳するノイズを取り出して、受信機(EMIレシーバ)へ出力します。LISNとEMIレシーバは同軸ケーブルで接続されますが、このときにただ単に接続するだけではインピーダンスの不整合によって正しいレベルが測定できないため、10dBのアッテネータを挿入する必要があります。


電源ノイズの抑制

伝導エミッション試験において、EUT以外のノイズの影響はできるだけ小さくしたいため、電源から流入するノイズを低減することは重要です。LISNは商用電源から見るとコンデンサとコイルによってローパスフィルタが構成されており、商用電源のノイズがEUT側へ流れないように作用します。

        

 

 

電源インピーダンスの安定化

試験サイトや電源装置のインピーダンスが規定されていなければ、測定場所によってEUTのノイズレベルが変化し、再現性が得られなくなります。そのためLISNには電源インピーダンスを一定に保つことが求められ、EUTから見た電源インピーダンスが測定対象の 1周波数帯で 50Ωになるよう規定されています。

 

 

CDN

CDN(Coupling and  Decoupling Network)は、イミュニティ試験においてノイズを注入する時に使用される試験装置です。イミュニティ試験では、EUTに対してノイズを結合(Coupling)させつつ、周辺機器に対してはノイズの影響を与えないように減結合(Decoupling)する必要があるためCDNが必要になります。CDNは、イミュニティ試験のノイズ発生装置内部に組み込まれていることもあれば、それ単体で機器間に接続することもあります。またLISNのようにインピーダンスを一定にする働きも持ち、多くの場合はコモンモードインピーダンスが150Ωになるように設計されています。

 

        


エミッション試験

ここでは代表的なエミッション試験の概要について紹介します。


伝導エミッション試験(電源ポート)

電源ポートの伝導エミッション試験は、各種エミッション規格でも採用されている電源ラインの伝導ノイズを評価する試験です。EUTの電源ラインにLISNを挿入し、電源ラインの各相に流れる伝導ノイズの大きさを測定します。


伝導エミッション試験(通信ポート)

通信ポートの伝導エミッション試験は、LANなどの通信ポートに流れる伝導ノイズを評価するための試験です。通信ポートの試験ではLISNではなくISN(Impedance Stabilization Network:インピーダンス安定化回路網)を使用します。ISNはコモンモードのインピーダンスを一定化しつつ、通信ラインに流れるコモンモードノイズを受信機へと出力します。なおISNは通信規格によってシールドやツイストの有無、更にはペア数などが異なるため、通信規格に合わせて適切なタイプを選択する必要があります。

 

放射エミッション試験(1GHz以下)

放射エミッション試験も各種エミッション規格において採用されている、放射性の電界ノイズを評価する試験です。EUTを設置しているターンテーブルを360°回転させつつ、アンテナの高さを1mから4mまで掃引し、周波数ごとにノイズの最大放射向きを特定します。またアンテナは水平偏波と垂直偏波のそれぞれで測定を行います。EUTとアンテナ間の距離は、EUTの仮想外周円(周辺機器も含めた最外殻)からアンテナの給電点までの距離で規定されており、10mまたは3mです。

 

放射エミッション試験(1GHz超)

1GHz超の放射エミッション試験は、マルチメディア機器でかつ最高動作周波数が108MHzを超える場合に行われる放射ノイズの試験です。1GHz超の放射エミッション試験では、使用するアンテナ、測定距離、測定場所などが1GHz以下の場合と異なります。測定場所に関しては、5面電波暗室の床面に電波吸収体を敷き、簡易的な6面電波暗室とすることが多いです。

 

磁界エミッション試験(ラージループアンテナ)

ラージループアンテナによる磁界エミッション試験はIH調理器や照明機器などに対して実施されており、近傍界での磁界ノイズを評価する試験になります。EUTに対してX軸、Y軸、Z軸の3軸それぞれで限度値への適合性を評価します。

 

妨害電力試験

妨害電力試験は吸収クランプを使用して電源ラインに流れる伝導ノイズを測定します。走行台と呼ばれる台の上に電源ケーブルを配置し、そのケーブルに流れるコモンモードノイズを吸収クランプで測定します。妨害電力試験は放射エミッション試験の代替評価として実施されることもありますが、実際に妨害電力試験と放射エミッション試験との間に相関性はありません。

 

イミュニティ試験

ここでは代表的なイミュニティ試験の概要について紹介します。


放射イミュニティ試験(IEC61000-4-3)

放射イミュニティ試験は、テレビ・ラジオなどの放送波、無線機の電波に対するノイズ耐性を評価する試験です。連続的な妨害波をEUTに照射してノイズ耐性を評価します。試験レベルは最大30V/mですが、試験時の電波はAM変調(1kHz、80%)が掛かっているため、規定された試験レベルに対してピークトゥピークで1.8倍の電界強度が照射されます。また電波の照射は、水平偏波と垂直偏波の両偏波に加えて、EUTの前後左右の4面、または上面と底面を加えた6面に対して照射する必要があります。


伝導イミュニティ試験(IEC61000-4-6)

伝導イミュニティ試験も放送波に対するノイズ耐性を評価する試験で、ノイズがケーブルに重畳した場合のノイズ耐性を評価します。伝導イミュニティ試験は、他のイミュニティ試験と比較すると試験電圧が低いですが、連続的にノイズが印加されるため一概に易しい試験とはいえません。試験波形は、放射イミュニティ試験と同じくAM変調(1kHz、80%)です。ノイズの重畳にはCND、またはEMクランプを使用します。


静電気放電試験(IEC61000-4-2)

静電気放電試験は、人体を模擬した回路(150pFと330Ω)を介して静電気ノイズを印加して、EUTのノイズ耐性を評価します。印加方法は、「接触放電」「気中放電」「間接放電」の3つが存在します。接触放電では、EUTの導電部に対して、ESDガンを接触した状態で静電気ノイズを印加します。気中放電では、EUTの絶縁部に対して、少し離れた箇所からESDガンを素早く近づけて絶縁破壊を発生させます。間接放電では、垂直結合板と水平結合板に対して静電気を印加し、結合板から電界ノイズを照射します。

 

雷サージ電試験(IEC61000-4-5)

雷サージ試験は、雷サージによる誘導雷を模擬した試験です。誘導雷は、雷サージが発生した時に電磁誘導の作用によって、屋外の電線や電話線などの導体に発生する大きな電圧・電流です。雷サージ試験ではノーマルモードとコモンモードそれぞれに対して試験を行う必要があります。また雷サージのエネルギーが非常に大きいため、最悪の場合にはEUTが破壊されることもあります。


ETF/B電試験(IEC61000-4-4)

ETF/B(Electrical Fast Transient / Burst )試験は「バースト試験」とも呼ばれています。バースト試験は、誘導性負荷のスイッチのギャップ放電を模擬した試験です。試験波形は、間欠的な繰り返し放電を模擬するために「パルス周期」と「バースト周期」が規定されています。雷サージ試験と同じく、ノーマルモードとコモンモードそれぞれに対して試験を行う必要があり、ノイズの印加時間は1分以上となっています。またノイズの印加方法は、CDN結合とクランプ結合(容量性クランプ)の2通りの方法があります。


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