MultiGBASE-T1(IEEE 802.3ch)の評価において、H-MTD(High-Speed Modular Twisted-Pair Data)から 2.92mm(Kコネクタ)への変換アダプタは、最もクリティカルな接続ポイントの一つです。
10GBASE-T1では最高 15GHz〜20GHz 程度の帯域まで、差動信号の「平衡度」を崩さずにVNAへ導く必要があります。
1. H-MTD コネクタの特性と2.92mm変換の意義
H-MTDはRosenberger社が開発した、車載イーサネット(最大20GHz/28Gbps)向けのデファクトスタンダードです。
完全シールド構造: 360度シールドにより、同軸コネクタに近い特性を持ちつつ、差動ペアを保持します。
2.92mmを採用する理由: SMA(26.5GHz)でも帯域は足りますが、2.92mm(40GHz)のアダプタは内部構造がより精密で、モード変換(SCD11/SDC11)の測定フロア(誤差)を低く抑えるために、ハイエンドな測定環境では2.92mmが選ばれます。
2. アダプタの構成形式
主に以下の2種類が存在しますが、MultiGBASE-T1のコンプライアンステストでは用途が分かれます。
A. リジッド(一体型)変換アダプタ
H-MTDのプラグ/ジャックと、4つの2.92mmジャック(P/N、Dual Portなら計4本)が金属ハウジングに固定されたものです。
メリット: 経路が最短で、挿入損失と反射が最小。AFR(Automatic Fixture Removal)での補正が非常に安定します。
用途: 基板単体やチップの評価。
B. 変換ケーブルアセンブリ
片端がH-MTD、もう片端が2.92mm(オス/メス)の高性能極細同軸ケーブル(4本束など)です。
メリット: 実車ハーネスや、筐体に入ったECUなど、物理的にコネクタへ直接VNAケーブルを繋げない場合に柔軟に対応できます。
注意: ケーブルの「曲げ」による位相変化が無視できないため、Phase Stable(位相安定)ケーブルである必要があります。
3. VNA測定における「Skew(スキュー)」の厳密な管理
H-MTDから2.92mmへ変換する際、ペア内遅延差(Intra-pair Skew)が最大の敵となります。
1ps(ピコ秒)の重み: 10GHzを超えると、わずか数ピコ秒の長さの違いが、SDD21(通過特性)を悪化させるだけでなく、SCD21(モード変換)として現れ、「規格不合格(Fail)」の原因になります。
対策: 4ポートVNAで測定する際、アダプタのP側とN側の電気長が完全に一致しているか、あらかじめVNAのポート・エクステンション機能で 100fs(フェムト秒)単位の微調整を行うのがプロフェッショナルの手法です。
4. コンプライアンステストでの運用フロー
VNAの校正: 2.92mmケーブルの先端でフル4ポート校正(電子校正モジュールなどを使用)。
アダプタのAFR: H-MTD - 2.92mm アダプタを接続し、AFRを実行してアダプタの損失と位相を除去。
DUT測定: 校正面が「H-MTDコネクタの嵌合面」にある状態で測定。
TDR確認: 100Ωのインピーダンス・プロファイルを確認し、H-MTDコネクタの接続部で大きなドロップがないかチェックします。
5. 変換アダプタ・ケーブル (H-MTD / HFM to 2.92mm)
測定器の2.92mm (K) または SMAポートに直接、あるいは高性能ケーブルを介して接続するための製品です。
メーカー | 製品カテゴリ | 型番・シリーズ例 | 特徴 |
Rosenberger | H-MTD to 2.92mm アダプタ | 99S1AS-40ML5 (例) | H-MTDプラグ/ジャックから2.92mmへの変換。非常に高いリターンロス特性。 |
Rosenberger | HFM to 2.92mm アダプタ | AM1S1AS-40ML5 (例) | 小型FAKRA-Miniから2.92mmへの変換。20GHz対応。 |
Rosenberger | Test Cable Assemblies | LU8 / LU7 シリーズ | 片端がH-MTD、他端がSMA/2.92mmの位相安定ケーブル。 |
Hirose (ヒロセ電機) | MAV シリーズ | MAV-BP-2.92J (例) | H-MTD互換の車載高速コネクタ用テストソリューション。 |
機械的校正キット:
Rosenberger 02CK10A-150: 2.92mm 精密校正キット (SOLT)。
このアダプタを使用して、実際の基板(DUT)のリターンロス(SDD11)やモード変換を測定される際、期待した値(例:-20dB以下など)が出ないといったトラブルはありますでしょうか?
もしあれば、VNAのタイムドメイン・ゲート機能を使った「フィクスチャ反射の特定と除去」の具体的な手順を解説いたします。
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