IEEE 802.3ch (MultiGBASE-T1) のような高速通信(最大10Gbps)では、10GHzを超える帯域での測定が必要となるため、H-MTD (High-Speed Modular Twisted-Pair Data) や MATE-AX といった車載専用コネクタと、VNAの標準的なSMA/3.5mmコネクタを繋ぐ「テスト・フィクスチャ」の品質が測定結果を左右します。
4ポートVNAを用いた試験において、フィクスチャに関連する重要な技術的詳細を整理しました。
1. フィクスチャに求められる要件
MultiGBASE-T1のコンプライアンステストでは、フィクスチャ自体が「測定のボトルネック」にならないよう、以下の特性が求められます。
広帯域特性: 10GBASE-T1の評価には、ナイキスト周波数の2倍以上、少なくとも 15GHz 程度までフラットな特性を持つ基材(Rogers等の高周波基板)と設計が必要です。
低挿入損失 & 高リターンロス: フィクスチャ内での信号減衰や反射を最小限に抑える必要があります。
高い平衡度 (Mode Conversion): フィクスチャの左右のライン長がわずかでも異なると、本来デバイスで発生していない「モード変換(差動→コモン)」がフィクスチャ由来で発生し、規格不合格の原因となります。
2. 主要なコネクタとフィクスチャの例
車載イーサネット市場で標準的なコネクタに対応するフィクスチャには、以下のようなものがあります。
Rosenberger H-MTD: * 360度シールドされており、20GHzまで対応可能なシングルペア/マルチペアコネクタ。
VNA接続用には、H-MTD(プラグ/ジャック)から4つのSMA(または3.5mm)へ変換する専用ボードが使用されます。
Rosenberger MATE-AX: * 同軸ベースの小型コネクタ。高密度実装が必要な車載カメラ等の評価に使用されます。
TE Connectivity MATEnet:
既存の100/1000BASE-T1でも広く使われていますが、802.3ch対応の強化版も存在します。
3. フィクスチャ影響の除去技術 (De-embedding)
VNAで測定されるデータには「フィクスチャの特性」が含まれてしまいます。DUT(チップやECU)単体の特性を知るためには、以下の手法でフィクスチャの影響を取り除きます。
A. AFR (Automatic Fixture Removal)
最も一般的な手法です。
DUTを接続しない「スルー(2つのフィクスチャを直結)」状態などを測定。
VNA内のソフトウェアがフィクスチャのSパラメータを自動計算。
数学的にフィクスチャの影響を差し引く(De-embed)。
B. TRL (Thru-Reflect-Line) 校正
基板上に「校正キット」を直接作り込む手法です。
2.92mm/SMAコネクタからH-MTDコネクタまでのパターンと同じ特性を持つ校正パターン(Thru, Reflect, Line)をVNAで校正基準として読み込ませることで、校正面をH-MTDコネクタの先端(リファレンスプレーン)まで追い込むことができます。
4. 測定時の物理的注意点
トルク管理: 2.92mm/SMAコネクタの締め付けは、必ずトルクレンチを使用して一定(0.9Nm等)に保ってください。締めすぎや緩みは、数GHz以上で位相誤差の原因になります。
ケーブルの固定: VNAからフィクスチャまでの高性能RFケーブル(位相安定ケーブル)は、測定中に動かさないようクランプなどで固定してください。
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