スペクトラムアナライザ入門(3)測定パラメータと操作項目
■はじめに
スペクトラムアナライザを使いこなすうえで欠かせないのが、基本的な操作項目の理解です。画面に表示される周波数軸とレベル軸をどのように設定するかによって、観測できる範囲や精度、測定時間が大きく変わってきます。今回は、代表的なパラメータとその意味、測定結果に与える影響について詳しく解説します。
■中心周波数(Center Frequency)
画面の中央に表示される周波数を決める設定項目です。
・ 観測したい信号の周波数に合わせて中心周波数を設定する
・ 単体信号であれば、その信号の周波数を直接入力
・ 複数の信号が混在している場合は、信号の中心付近を狙って設定
中心周波数を変えても信号そのものは変わりませんが、画面に表示される周波数の「範囲」が変化します。
■スパン(Span)
画面に表示される周波数の幅(帯域)を決める設定です。
・ Span = 画面の左端から右端までの周波数幅
・ 広くすると複数の信号を一度に観測できる
・ 狭くすると特定の信号を高精度に観測できる
・ Spanを「0Hz」に設定すると、固定周波数における時間変化を表示する「ゼロスパンモード」になる
ゼロスパンは、パルス幅測定や変調信号の時間波形観測などで使用されます。
■スタート/ストップ周波数(Start / Stop Frequency)
スパンの代わりに、観測範囲を「開始と終了の周波数」で指定する方法です。
・ StartとStopの差がSpanになる
・ より直感的に測定範囲を指定したいときに便利
・ 中心周波数とスパンは自動的に調整される
どちらを使っても同じように測定できますが、信号の周波数帯が明確なときはStart/Stopの方が使いやすい場合があります。
■分解能帯域幅(RBW:Resolution Bandwidth)
IFフィルタの帯域幅を意味し、「どの程度周波数成分を分離して観測するか」を決めます。
・ RBWを狭くすると近接した信号を分離しやすい
・ RBWを広くすると表示が速くなる(スイープ時間が短くなる)
・ 一般的には1Hz〜1MHzの範囲で選択可能
・ ノイズフロアが下がって見える(実際にノイズが減るわけではない)
高精度な測定を行うときはRBWを狭めに、ざっくり全体を観測したいときは広めに設定するのが基本です。
■ビデオ帯域幅(VBW:Video Bandwidth)
検波後の信号に適用される平滑化フィルタの帯域幅です。画面に表示される波形の「なめらかさ」を調整します。
・ VBWを狭くすると波形がなめらかになり、ノイズも抑えられる
・ VBWを広くすると信号の変動を追いやすくなるが、表示が粗くなる
・ RBWよりVBWを小さくすると効果が出やすい
ノイズの多い信号を観測するときはVBWを狭く、動きの速い信号を観測するときは広めに設定すると良いでしょう。
■リファレンスレベル(Ref Level)
ディスプレイ上の「最上段」に表示されるレベル(電力)です。
・ 通常はdBm単位(50Ω系)で表示される
・ 入力信号の最大レベルに合わせて設定する
・ 過小設定すると信号が画面外になり見えなくなる
・ 過大設定するとノイズフロアが上がってしまい、小信号が埋もれることがある
信号のレベルに合わせて適切なRef Levelを設定することで、画面上の表示が見やすくなります。
■スイープ時間(Sweep Time)
画面全体を1回スキャンするのにかかる時間です。
・ スイープ時間が短いと高速表示されるが、ノイズの影響を受けやすくなる
・ スイープ時間が長いと信号の平均化が進み、安定した表示になる
・ RBWやVBWの設定により自動的に調整されることも多い
スイープ時間を手動で設定できる機種もありますが、通常は自動設定で問題ありません。
■トレース設定(Trace Type)
表示される波形の更新方法を選ぶことができます。
・ Clear Write:毎回新しい波形に更新(基本)
・ Max Hold:最大値を保持し続ける(ピーク観測に便利)
・ Min Hold:最小値を記録(ノイズ底面の観察など)
・ Average:波形を一定回数平均して滑らかに表示(RMS測定など)
必要に応じてトレースモードを切り替えることで、測定目的に応じた波形観察が可能になります。
■マーカ(Marker)機能
表示された波形上に「測定点」を設定し、周波数やレベルを読み取るための機能です。
・ ピークを自動検出する「ピークマーカ」
・ 複数マーカを使って周波数差やレベル差を測定できる「デルタマーカ」
・ 特定周波数に固定して変動を観察する「トラッキングマーカ」
マーカを使えば、画面上の数値を目視せず正確に読み取ることができ、レポート作成やデータ比較に便利です。
■表示スケール(Log / Linear)
スペアナでは、通常は縦軸(レベル軸)をdB単位(対数表示)で表示しますが、線形スケールに変更できる場合もあります。
・ Logスケールは広いレベル差を視覚的に把握しやすい
・ Linearスケールは細かな変動やノイズを確認しやすい
・ 通信測定や規格試験ではLogスケールが標準
スケールは測定内容や目的に応じて適切に選びましょう。
■まとめ
スペクトラムアナライザの操作項目には、測定結果に大きく影響するものが多くあります。中心周波数、スパン、RBW、VBW、Ref Levelといった基本パラメータの意味を理解し、状況に応じて最適な設定を行うことで、より正確で信頼性の高い信号解析が可能になります。
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スペクトラムアナライザ入門 全9回 目次
第1回 スペクトラムアナライザとは?
スペアナの基本原理、周波数軸で見るという考え方、オシロスコープとの違いなどをやさしく解説。
第2回 基本構成と動作原理
RF入力からディスプレイ表示まで、ミキサ・フィルタ・LO・検波など内部構成要素の基本を整理。
第3回 測定パラメータと操作項目
中心周波数、スパン、分解能帯域幅(RBW)、ビデオ帯域幅(VBW)など、主要な設定の意味と使い方。
第4回 代表的な測定と読み取り例
信号強度、周波数、ノイズフロア、隣接チャネル干渉など、基本的な測定手順と結果の見方を具体的に紹介。
第5回 トレース機能と演算活用
最大値保持、平均化、ピークホールド、マーカ、演算トレースなど、表示の工夫と測定効率化のポイント。
第6回 実際のアプリケーション例
通信機器の信号観測、不要輻射の確認、RFアンプの特性評価、パワー測定など、実際の活用事例を紹介。
第7回 高調波・スプリアス・EMI対策への活用
ノイズ源の特定、高調波成分の可視化、EMC予備測定などへの活用例と注意点を解説。
第8回 トラブル事例とその対策
周波数ずれ、レベル不一致、感度不足など、現場で起きやすいトラブルとその原因・対策を具体的に解説。
第9回 発展的な使い方と技術動向
リアルタイムスペアナやベクトル解析機能の概要、FFT方式との比較、最新のスペアナ事情を紹介。