10GHz帯のVCOのSSB位相雑音測定を「安価に」行うというのは、高周波エンジニアにとって非常に現実的かつ悩ましい課題です。KeysightのSSA、R&SのFSWPといった専用のシグナル・ソース・アナライザ(SSA)は数千万円クラスであり、個人や小規模プロジェクトでは手が届きません。
ターゲットとするVCOの位相雑音フロア(例えば10kHzオフセットで-80 dBc/Hzなのか、-110 dBc/Hz以下の高性能品なのか)や、手持ちの機材環境によっていくつかのアプローチがあります。コストパフォーマンスの高い順に4つの現実的なアプローチを提案します。
1. 外部ミキサを用いたダウンコンバージョン法(最も安価)
10GHz対応のスペクトラムアナライザ(あるいは安価なUSB型スペアナ)がない場合でも、「10GHz近辺の固定LO」と「低周波用の安価なスペアナ(数GHz品やSDR)」を組み合わせる手法です。
構成:
LO(ローカル発振器): 10GHz近辺のクリーンな固定周波数源。安価なPLLシンセサイザモジュール(Analog DevicesのADF4355/ADF5355搭載の評価ボードや、中国製のMAX2870モジュール等をオーバートーンで使う、または市販の固定DROなど)を用意します。LOの位相雑音はDUT(VCO)より十分に低い必要があります。
ミキサ: 10GHz帯対応のパッシブ・ダブルバランスド・ミキサ(ミニサーキット製など、数万円)。
測定器: 数百MHz〜1GHz程度を測定できる安価なスペアナ(SIGLENT SSA3000Xシリーズや、TinySA Ultra、場合によってはRTL-SDRなどのソフトウェアラジオ)。
メリット: 測定器自体を低周波用に抑えられるため、システム全体のコストを圧倒的に低く(数万円〜十数万円)抑えられます。
注意点: LO自体の位相雑音(特に近傍)がボトルネックになります。また、イメージ周波数やLOリークのケア、および測定系の損失(変換ロス)を補正(キャリブレーション)する必要があります。
2. 周波数分周器(プリスケーラ)によるダウンカウント法
10GHzの信号を、スタティック・プリスケーラ(分周IC)を用いて低周波に落としてから測定する方法です。
構成:
10GHz対応の分周IC(1/4や1/8分周。例:Analog Devices/HittiteのHMC365など、10GHz超対応のプリスケーラ評価ボード)を通し、2.5GHzや1.25GHzに落とします。
これを手持ちの数GHzクラスの汎用スペアナ(SIGLENT、あるいは中古のAdvantest/HPなど)の位相雑音測定機能で測定します。
メリット: 10GHz対応の高価なRFフロントエンドが不要になります。
理論的メリット: 周波数をN分周すると、位相雑音は理論上 20 \log_{10}(N) dB 改善(低下) します(1/4分周なら約12 dB、1/8分周なら約18 dB下がって表示されます)。
注意点: * 測定値を10GHz換算するために、測定結果に20 \log_{10}(N) dB を足す必要があります。
分周IC自体の付加位相雑音(Additive Phase Noise)の床(ノイズフロア)以下は測定できません。DUTの位相雑音が比較的大きい( など)場合には非常に有効ですが、超低ノイズなVCOには向きません。
3. 中堅クラスの汎用スペアナ+位相雑音オプション
もし社内やラボに、10GHz以上をカバーする汎用スペクトラムアナライザ(Keysight N9010A/B EXA、Anritsu MS2830A/MS2840A、SIGLENT SSA5000Aなど)が既にある、あるいは中古・レンタルで手に入る場合の王道です。
アプローチ: 専用の「位相雑音測定ユーティリティ(オプション)」を有効にして測定します。
メリット: マーカーの手計算が不要で、ログ・オフセット・プロット(10Hz〜10MHzオフセットなど)がワンボタンで綺麗に描画されます。
注意点: 「スペアナの内部LOの位相雑音」がDUTの測定限界(測定能力)を決めます。 10GHzキャリアにおけるそのスペアナのカタログスペック(カタログのPhase Noise性能)を確認してください。DUTがそのスペックよりクリーンな場合、スペアナのノイズフロアに蹴られて正確な値が測れません。
4. テストベンチのレンタル、または受託測定サービスの利用(最も確実)
開発が単発、あるいは最終的な評価データ(エビデンス)が必要な場合、ハードウェアを自作・購入するよりも総コストが安くなるケースです。
レンタル: Keysight E5052B などを数日間だけレンタルする。
受託測定: 測定器ベンダーや公的試作・開発支援センター(各都道府県の公設試など)の機器利用スペースにDUTを持ち込んで測定する。
メリット: 相互相関法(Cross-Correlation)を用いた最高峰の測定環境(内部ノイズを-160 dBc/Hz以下に落とせる環境)で、確実なデータが数万円〜十数万円(利用料)で手に入ります。
おすすめの選定基準
VCOのターゲット性能がそこそこ(-85 dBc/Hz @ 10kHz 程度)の場合:
「2. 分周器(プリスケーラ)」 を自作して数GHz帯の安価なスペアナで受けるのが、最も手軽でコストバランスが良いです。
VCOが非常に低ノイズ(-110 dBc/Hz @ 10 kHz 以下を狙う)の場合:
簡易なスペアナや自作LOではノイズフロアに埋もれます。「4. レンタルまたは公的機関の機器利用」 で本物の専用機(SSA)を使うか、あるいは10GHz帯の超低ノイズ基準信号源(DRO等)を用意して「1. ダウンコンバージョン法」 を極める必要があります。
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