全ディジタル位相雑音計測において、ENOB(有効ビット数)は「量子化雑音」の大きさを決定し、それがそのまま測定できる位相雑音の底(ノイズフロア)に直結します。
アパーチャ・ジッタが「タイミングのゆらぎ」による誤差なら、ENOBは「電圧分解能」による誤差です。
1. 量子化雑音とSNRの関係
ADCの理想的な量子化雑音による信号対雑音比(SNR)は、ビット数 N を用いて以下の式で表されます。
SNRquant≈ 6.02N + 1.76 [dB]
しかし、実際のADCには非直線性や内部雑音があるため、カタログスペックの N(物理ビット数)ではなく、実力値である ENOB を用いて計算する必要があります。
2. 位相雑音フロア L(f) の導出
量子化雑音はナイキスト帯域(0 から fs/2)に一様に分布すると仮定します。このとき、1 Hz あたりの位相雑音フロアは以下の計算で求められます。
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具体的な試算例
例えば、14ビットの高速ADC(ENOB ≈ 12ビットと仮定)を 500 MSPS で動作させた場合:
SNRの計算:
SNR = 6.02 x 12 + 1.76≈ 74 dB
帯域補正(10 log(BW)):
10 log10(250 x 106) ≈ 84 dB
ノイズフロア:
Lfloor = -(74 + 84) = -158 dBc/Hz
結論: > この条件では、単一のADCで測れる限界は -158 dBc/Hz 付近になります。これより低い(例えば -170 dBc/Hz の)水晶発振器などを測定したい場合、ENOBが不足していることになります。
3. 「ジッタ」と「ENOB」どちらが支配的か?
全ディジタル計測では、入力信号の周波数によって支配的な要因が変わります。
低域周波数の入力: 信号の変化が緩やかなため、アパーチャ・ジッタの影響は小さく、ENOB(量子化雑音)がフロアを決定します。
高域周波数の入力: 信号のスルーレートが高いため、アパーチャ・ジッタによる電圧誤差が量子化雑音を上回り、ジッタがフロアを決定します。
4. 相互相関法による「ビット数の壁」の突破
相互相関法(Cross-correlation)を用いる最大のメリットは、この ENOBによる量子化雑音さえも相殺できる 点にあります。
各ADCが発生させる量子化誤差は互いに無相関であるため、平均化回数 を増やすことで、理論上はADCのビット数以上の分解能で位相雑音を抽出できます。
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