この記事では、伝達インピーダンス測定における誤差要因について、実測結果をもとに解説します。
GNDループの影響
伝達インピーダンスは、信号源と受信器を組み合わせて測定します。このとき、信号源の種類や治具の接続方法によって測定結果が変化することがあります。
測定系の構成は、信号源と受信器を別に用意する構成(信号発生器とスペアナの組み合わせ。以下 SG+SA)と、1 台でまかなう構成(ネットワークアナライザやトラッキングジェネレータ付きのスペアナ。以下 VNA、TG付きSA)の 2 つに分けられます。
伝達インピーダンスの規格(IEC 62153-4-6)も、SG+SA と VNA の 2 通りを挙げています。このうち SG+SA 構成では、GNDループの影響によってシールドケーブルの特性に関係ない偽のピークが現れることがあります。
GNDループの経路
GNDループとは、2 台の計測器の GND が 2 つ以上の経路で接続されたときにできる、本来の経路とは別のリターン経路のことを指します。そして SG+SA 構成では、2 台の筐体間に 3 つの経路が存在します(図1)。

図1 GNDループの経路
1 つ目は 10 MHz の基準ケーブルによる経路です。この基準ケーブルは、信号発生器とスペアナの基準周波数の同期を取るためのもので、外導体を通じて GND 間が接続されます。
2 つ目は電源の保護接地、いわゆるアースを介した経路です。アース端子を通じて、2 台の GND が接続されます。
3 つ目は信号発生器の出力ケーブルのシールドを介する経路です。ここが伝達インピーダンス測定で意図されたリターン経路で、すべてのリターン電流がここに流れることが理想的です。
この 3 つの経路のうち 1 つ目と 2 つ目は本来想定されたリターン経路ではなく、測定系固有の GNDループです。そしてこの GNDループの長さに応じて共振が発生し、測定結果に偽のピークを生じさせます。
ピークの周波数の変化
今回の測定では、供試ケーブル(CUT:Cable Under Test)に RG58 の同軸ケーブルを使い、結合長は 0.23 m としました。図2 は、遠端の伝達インピーダンスを 3 つの条件で測定した結果です。
SG+SA・10 MHz の基準ケーブルあり
SG+SA・10 MHz の基準ケーブルなし
TG付きSA

図2 信号源の構成による遠端の伝達インピーダンスの比較
SG と SA 間を基準ケーブルで接続すると、約 50 MHz にピークが現れます。ここで基準ケーブルを外すと、ピークは 37 MHz へと変化します。
またピークの値は、基準ケーブルありで 140.0 mΩ/m(@50.1 MHz)、基準ケーブルなしで 255.9 mΩ/m(@37.2 MHz)です。
このように基準ケーブルの有無によってピーク周波数やピークレベルが変化することから、ピークの発生原因は GNDループによる共振と考えられます。
一方で、TG付きSA は 1 台の筐体なので、構造的に GNDループができません。図2 でも、TG付きSA の測定結果にはピークが発生していないことが確認できます。
つまり SG+SA で生じるピークは、2 台の筐体間を接続する GNDループの共振によるものだということです。
接触抵抗の影響
今回の治具では、注入線の外導体と CUT の編組を銅箔テープで接続しています。この銅箔テープの接触抵抗によって、低い周波数の測定値が変化する可能性があります。
銅箔テープの接触抵抗

図3 銅箔テープの接触抵抗によるリターン電流の経路
今回の治具の銅箔テープの接触抵抗は、約 0.24 Ω です。この値は、テスタの読み値 0.3 Ω から、リードを短絡したときの読み値 0.06 Ω を差し引いて求めたものです。
ここで銅箔テープの接触抵抗が大きいと、リターン電流の一部が本来の経路を通らず、遠端から受け側のケーブルのシールドへ流れる可能性があります。
そしてシールドに流れた電流は、受信器側のリターン経路を介してスペアナの入力に電圧を生じさせます。これが接触抵抗による誤差要因となります。
低周波数への影響
今回の実測では、銅箔テープの接触抵抗の影響が低い周波数に現れた可能性があります。
図2 の 1 MHz 以下では、TG付きSA の値が SG+SA(10 MHz の基準ケーブルなし)の約 4 倍となっています。一方で 10 MHz では、両者は近い値を示しています。
このことから、SG+SA では GNDループ(図1)を通ってリターン電流が流れているのに対して、TG付きSA では筐体の中で信号源へ戻ったことでリターン電流の漏れが多くなり、それが低周波での伝達インピーダンスを上昇させたと考えられます。
つまり注入線と CUT の編組を接続する銅箔テープの接触抵抗が大きいと、低周波での誤差が大きくなるということです。
近端と遠端の違い
伝達インピーダンスは、CUT の近端と遠端のどちらでも測定できます。

図4 近端と遠端の伝達インピーダンスの比較
図4 は、SG+SA(10 MHz の基準ケーブルなし)で、近端と遠端を 100 kHz〜100 MHz で測定した結果です。両者を比較すると、周波数が高くなるにつれて伝達インピーダンスの差が大きくなっている様子が確認できます。
具体的には 100 kHz〜10 MHz の範囲では両者の差が最大 7.7 mΩ/m(遠端の値の 2 割以内)となっており、測定値はほぼ一致しているといえます。
一方で 10 MHz 以上の範囲では、遠端に 11 MHz と 37 MHz、近端に 85 MHz 付近のピークが現れており、そのピーク値にも差があります(表1)。
表1 ピークの位置での近端と遠端の差

ピークの原因の違い
遠端の 37 MHz のピークは、10 MHz の基準ケーブルを付けると約 50 MHz へ変化します。そのため、このピークは GNDループによる偽のピークといえます。
一方で近端の 85 MHz 付近のピークは、TG付きSA でも現れます。つまり、このピークは治具かケーブルの側の共振の可能性があるということです。
このように測定箇所の違いによってピーク周波数が変わるため、両者を測定し測定系の影響を確認しておくことが重要になります。
繰り返し誤差の確認
今回の測定系で、接続し直したときに最も影響が出やすいと考えられる箇所は銅箔テープです。銅箔テープは手で貼って接続するため、貼るたびに接触の状態が変わります。そこで、銅箔テープを同じ位置・同じ長さで貼り直しながら、遠端の伝達インピーダンスを 3 回測定しました。

図5 銅箔テープの貼り直しによる遠端の伝達インピーダンスの変化
図5 は、3 回の測定結果を重ねたものです。下段は、1 回目の測定値との差を dB 表記したものです。この差を見てみると、繰り返しによる差の最大値は 2.7 dB(@12.6 MHz)となりました。
これは、この治具で測定した値の差が 2.7 dB 以内であれば、その差は銅箔テープの貼り直しによるばらつきと区別できないことを意味します。















