SiC MOSFETの最新技術である「二重トレンチ(Double Trench)」や「電界緩和層(シールド層)」は、トレンチ型の弱点である「ゲート酸化膜の破壊」を防ぎつつ、極限までオン抵抗を下げるための高度な構造です。
主にローム(ROHM)や三菱電機などがこの分野で世界をリードしています。
1. 二重トレンチ構造(Double Trench)
通常のトレンチ構造はゲート用の溝が1つだけですが、二重トレンチでは「ゲート用トレンチ」の両脇に「ソース用トレンチ」を配置します。
構造: 中央の深い溝(ゲート)の横に、さらに深い、または同等の深さのソース電極に直結した溝を掘ります。
メリット:
電界の遮蔽: 高いドレイン電圧がかかった際、両脇のソーストレンチ(およびその底部にあるp型領域)が電界を「横取り」し、中央のゲート酸化膜に強い電界が届かないようにガードします。
ゲート容量の低減: ゲート面積を最適化できるため、スイッチングスピードが速くなります。
2. 電界緩和層(シールド層 / ボトム保護層)
トレンチ底部に不純物(主にp型)を深く注入し、電界を物理的にブロックする構造です。メーカーによって「ボトムプロテクション」や「シールド構造」と呼ばれます。
仕組み:
ドレインに高電圧がかかると、トレンチ底部のp型領域から空乏層が広がり、ゲート酸化膜の角(コーナー部)に電界が集中するのを防ぎます。
これにより、SiCの限界に近い高い電圧(例えば1200Vや3300V)をかけても、薄いゲート酸化膜が破れずに済みます。
課題と対策:
このp型層が厚すぎると、今度は電流の通り道が狭くなり、抵抗が上がってしまいます。
最新技術: 三菱電機の「斜めイオン注入」などの技術を用いて、トレンチの「底」だけに精密に保護層を作り、抵抗上昇を最小限に抑えています。
3. なぜこの構造が重要なのか?(物理的理由)
SiCは材料自体の絶縁破壊電界強度がSi(シリコン)の約10倍と非常に高いのが特徴です。
高電界設計: SiCの能力を活かすには、デバイス内部で高い電界をかける設計にします。
酸化膜の限界: しかし、ゲート絶縁膜()自体の強度はSiもSiCも変わりません。
矛盾の解消: 「SiCには高い電界をかけたいが、酸化膜にはかけたくない」という矛盾を解決するために、二重トレンチや電界緩和層によって電界をデザイン(マネジメント)する必要があるのです。
4. 各社の独自アプローチ
メーカー | 特徴的な構造 | 狙い |
ローム (ROHM) | 第4世代(二重トレンチ) | 電界緩和と低抵抗化を両立。車載インバータで実績。 |
三菱電機 | 独自のボトムプロテクション | 高耐圧(3.3kV以上)での信頼性を重視。鉄道等に強み。 |
インフィニオン | 半トレンチ(CoolSiC) | トレンチの片側だけを使うことで、信頼性と製造性を両立。 |
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