インバータのSiC化やモータの超高回転化が進むe-Axleにおいて、制御面からアプローチする低NV(騒音・振動)技術の筆頭が「キャリア位相シフト制御」です。

これは、ハードウェア(遮音材やギヤ精度)に頼らず、インバータのスイッチングのタイミングをソフトウェアでインテリジェントにずらす(シフトする)ことで、特定の電磁ノイズや振動を打ち消す、あるいは分散させる技術です。

主に「マルチインバータ(多相・多系統)システムでの位相シフト」と、単一インバータでノイズを分散させる「ランダムキャリア周波数制御(厳密には位相・周期の変調)」の2つの文脈で語られます。それぞれのメカニズムと効果について解説します。

1. マルチインバータ・多系統モータにおけるキャリア位相シフト

現在の高出力e-Axleや、フロント/リアに独立したモータを持つ4WDシステム、あるいは1つのモータ内に2組の3相巻線を持つ「ダブル3相(6相)モータ」では、複数のインバータが同時に動作します。

メカニズム

各インバータは、電流を制御するために「キャリア信号(三角波など)」を用いてPWM(パルス幅変調)を行っています。

  • 対策前: すべてのインバータのキャリア信号が同期(同位相)していると、スイッチングのタイミングが完全に重なります。これにより、特定の周波数(キャリア周波数の倍数成分)のコモンモード電流や電磁放射ノイズ、そしてステータコアを揺らす電磁力が同位相で足し合わされ、巨大なピーク(ノイズの山)となって現れます。

  • キャリア位相シフトの導入: インバータAとインバータBのキャリア信号の位相を、意図的に$180^\circ$(またはシステムの相数に応じた最適な角度)ずらします。

メリット・効果

  1. 高周波リップルの相殺(インターリーブ効果):

    インバータAの電流リップルの「山」と、インバータBの「谷」が重なるため、モータ全体、あるいはDCリンク(平滑コンデンサ側)に流れる総電流リップルが劇的に相殺されます。

  2. 高周波NV(電磁音)の低減:

    スイッチングに起因する「キーン」という不快な高周波の電磁うなり音が、互いの位相差によって空間的・電気的に打ち消し合い、車内静粛性が大幅に向上します。

  3. DCリンクコンデンサの小型化:

    リターン電流のピークが分散されるため、コンデンサに要求される許容リプル電流が下がり、X-in-1システムの小型・軽量化に直結します。

2. 単一インバータにおける「ランダムキャリア周波数・位相制御」

系統が1つしかない一般的な3相インバータであっても、キャリア信号の周期や位相を動的に変化させることで低NV化を達成できます。

メカニズム

通常、インバータは固定されたキャリア周波数(例:$10\,\text{kHz}$$15\,\text{kHz}$)でスイッチングを行います。これは特定の周波数にエネルギーが集中するため、鋭いノイズピークが発生します。

  • ランダム変調(RPWM):

    キャリア信号の周波数、あるいはパルスの発生位相を、マイクロ秒単位で擬似ランダム(ホワイトノイズ状)に変調させます。

メリット・効果

  • ノイズの「拡散(スペクトラム拡散)」:

    特定の周波数に突っ立っていた電磁振動・ノイズのエネルギーが、広い周波数帯域へフラットに薄く引き延ばされます(ピークが下がる)。

  • 聴感上の改善:

    人間の耳に「キーン」と刺さる単一トーンの不快な音が、サーという「心地よい風切り音(ホワイトノイズ)」に近い音質へと変化するため、車内の快適性が劇的に向上します。

3. 実装における課題と設計のブレークスルー

キャリア位相シフト技術は非常にエレガントな解法ですが、高周波を扱うパワエレ設計においては以下のトレードオフが発生します。

  • スイッチング損失(デッドタイム)の影響

    位相をずらすことで、上下アームの短絡を防ぐ「デッドタイム」のタイミングが他相のスイッチングと干渉し、モータ電流の基本波成分にわずかな歪み(高調波歪み)が生じることがあります。これが逆に低次のNV(ゴロゴロ音など)を誘発しないよう、高度なデッドタイム補償アルゴリズムと組み合わせる必要があります。

  • 高精度な同期タイミング制御

    SiCベースのインバータはナノ秒単位でスイッチングが行われるため、制御MCU(マイコン)のタイマー回路には極めて高い分解能と、コア間での超高速な同期(低ジッタ)が要求されます。現在の車載MCUは、マルチチャネルで高度に同期可能なタイマーユニット(例:RenesasのGTMやTSG3など)を搭載することでこれをクリアしています。

  • EMC(電磁両立性)とのバランス

    ランダムキャリア制御によってNVは改善する(聴感上は静かになる)ものの、全帯域にノイズが広がるため、CISPR 25などの車載EMC規格(特に平均値評価:Averageライン)において、特定の帯域で規格値を超えてしまうケースがあります。そのため、NV対策とEMCフィルタ(コモンモードチョークコイル等)の設計は、常にセットで最適化されます。

 

 

下記資料では「キャリア位相シフト制御」について詳しく解説されています。

https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2021/05/05a01/index.html

「パワートレインの電動化による環境負荷低減」 日立評論アーカイブ

 

 

出典:Google Gemini (Gemini は AI であり、間違えることがあります。)

 

 

 

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