実務において、入力側(Fixture A)と出力側(Fixture B)の特性が一致しない「非対称(Asymmetric)フィクスチャ」のケースは非常によく発生します。

例えば、基板上の物理的なレイアウトの制約で「片方の引き回し線路だけが長い」「片方にだけコーナーの折り返し(クランク)がある」「ICのピン配置の都合でファンアウトの形状が左右で異なる」といった場合です。

特性が一致しないフィクスチャに対して、一般的な(左右対称を前提とした)2x-Thruディエンベディングを無理やり適用すると、「Fixture Aの誤差をFixture Bに押し付ける」またはその逆が起き、DUTの真のSパラメータ(特に反射特性 S11, S22)が完全に狂います。

この問題を解決するためには、非対称性に対応した3つのアプローチのいずれかをとる必要があります。

アプローチ1:1x-Reflect法(Open/Short)の併用

左右のフィクスチャが異なる場合、2x-Thru構造「だけ」では、どちらのフィクスチャがどれだけの損失や反射を持っているかを数学的に分離(一意に決定)できません。

そこで、IEEE 370でも標準化されている「1x-Reflect(1x-Open または 1x-Short)」構造をそれぞれのフィクスチャ専用に基板上へ用意します。

  • 用意するテストクーポン:

    1. Fixture A 専用の1x-Reflect: コネクタ + Fixture A と全く同じ線路 + 先端を「Open(またはShort)」で開放(隔離)した構造

    2. Fixture B 専用の1x-Reflect: コネクタ + Fixture B と全く同じ線路 + 先端を「Open(またはShort)」で開放した構造

  • 仕組み:

    VNAで1x-Reflectを測定すると、信号は先端のOpen/Shortで100%全反射して戻ってきます。この往復のデータ($S_{11}$)の位相と振幅を解析することで、ソフトウェアは「Fixture A単体」および「Fixture B単体」の電気長とインピーダンスを個別に、完全に独立して算出できます。

アプローチ2:マルチクーポン法(2x-Thru + 1x-Reflect)

前述の ISD(In-Situ De-embedding) などの高度なソフトウェアを使用する場合、複数のテストクーポンを組み合わせて読み込ませることで、非対称なフィクスチャを完璧にモデリングできます。

最もメジャーな組み合わせは、「1つの2x-Thru + 2つの1x-Reflect」、あるいは「長さの異なる2つの非対称Thru」です。

【ISD等での非対称処理のイメージ】

[データ1: 2x-Thru]      ── Fixture A と Fixture B が直結されたデータ(全体の特性)
[データ2: 1x-Reflect A] ── Fixture A 単体のインピーダンス・遅延情報
[データ3: 1x-Reflect B] ── Fixture B 単体のインピーダンス・遅延情報
        │
        ▼(ソフトウェアによる一意の数学的分解)
 [Fixture A モデル]  と  [Fixture B モデル] を個別に高精度に抽出!

ソフトウェアは、1x-Reflectからそれぞれのフィクスチャの「骨格(時間遅延とインピーダンスプロファイル)」を掴み、2x-Thruのデータを使って「全体の通過損失(挿入損失)」をフィッティングします。これにより、左右で構造が違っていても、それぞれのフィクスチャ成分を綺麗に剥ぎ取ることができます。

アプローチ3:伝送線路モデリングによるアプローチ

もし基板上に1x-Reflectなどの追加クーポンを配置するスペースがない場合の「最終手段」として、「2x-Thruの測定データ」と「基板の設計値(CADデータやスタックアップ)」を組み合わせるハイブリッド手法があります。

  1. セグメント分割:

    Fixture A と Fixture B の回路トポロジー(コネクタ + マイクロストリップ線路 + ビア等)を、電磁界シミュレータや回路シミュレータ(Keysight ADSやANSYS AEDTなど)上で、実際の長さや幅に合わせてモデル化します。

  2. 2x-Thruデータによる最適化(チューニング):

    左右対称として仮作った2x-Thruのシミュレーション波形が、実際にVNAで測定した2x-Thruの生データ(Sパラメータ)と完全に一致するまで、誘電率($D_k$)や導電率、ロス($D_f$)のパラメータを微調整(キャリブレーション)します。

  3. 非対称モデルの生成:

    実測と一致した「信頼できる材料・構造パラメータ」を使って、今度は非対称な「Fixture A単体のシミュレーションモデル(.s2p/.s4p)」と「Fixture B単体のシミュレーションモデル」を個別に書き出します。

  4. ディエンベディングの実行:

    書き出したそれぞれのSパラメータファイルをVNAやポストプロセッサソフトに読み込ませ、実機の測定データから数学的に差し引きます。

非対称フィクスチャ評価での注意点(まとめ)

  • 差動(4ポート)のときは、左右だけでなく「ペア内スキュー」も非対称になる

    差動ラインのFixture AとFixture Bの長さが違う場合、ライン内の2本(P路とN路)の長さのわずかなミスマッチ(ペア内スキュー)も、左右で別々に発生している可能性が極めて高いです。アプローチ1や2のクーポンを作る際も、必ず4ポート(差動)に対応したクーポン形状にし、P/Nそれぞれの非対称性をソフトウェアに認識させてください。

  • ポートの割当てエラーに注意

    左右非対称なフィクスチャを剥ぎ取る際、ソフトウェアに対して「どちらがポート1(入力側)の治具で、どちらがポート2(出力側)の治具か」の入力を間違えると、悲惨な結果になります。ディエンベディング実行後は、必ずDUTデータのTDRを確認し、接続点でのインピーダンスに不自然な跳ね上がり(ミスマッチ)がないか目視で確認してください。

 

 

キーワード:ISD IEEE_P370 2x-Thru S4P TDR TDT AFR MultiGBASE-T1 H-MTD

 

出典:Google Gemini (Gemini は AI であり、間違えることがあります。)

 

 

 

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