Si5351Aのコアテクノロジーである「MultiSynth(マルチシンセ)」は、分数分周(Fractional-N Division)をハードウェアレベルで極めて高速かつ精密に行うための回路です。
通常、デジタル回路で周波数を「割り算」する場合、整数(2で割る、3で割る…)でしか割ることができません。しかしMultiSynthは、「8.5で割る」「32.4567で割る」といった小数を交えた割り算を、ジッタ(波形の揺らぎ)を極限まで抑えながら実現しています。
その仕組みと、なぜこれほど精密な周波数が出せるのかを解説します。
なぜ「分数」で割る必要があるのか?
例えば、内部のVCO(PLL)が 600 MHz でロックしているとします。
ここから、アマチュア無線などでよく使われる 7.05 MHz を作りたい場合を考えてみます。
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600 MHz ÷ 85 = 7.0588 MHz(高すぎる)
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600 MHz ÷ 86 = 6.9767 MHz(低すぎる)
このように、整数分周だけでは狙った周波数に「一番近い、大雑把な周波数」しか作れません。
しかし、分数分周が使えれば、
となり、ターゲットにミリヘルツ単位でピタッと一致させることができます。
MultiSynthが分数を作るトリック(パルス・スワロー方式の進化型)
デジタル回路は本質的に「0」か「1」しか扱えないため、本当に時間を1/2.5に分断することはできません。そこでMultiSynthは、「整数での割り算を、猛烈な勢いで切り替える」という手法をとっています。
例えば、「2.5分周」をしたい場合:
1回目は「2」で割る。2回目は「3」で割る。これを交互に繰り返します。
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このように、出力されるパルスをマクロ(長い時間軸)で見ると、綺麗に「2.5分周」された周波数が出現します。
課題となる「ジッタ(位相雑音)」の克服
この方法を愚直にやると、「2で割った波形」と「3で割った波形」の継ぎ目で、波形の位置がわずかに前後にズレてしまいます。これが「周期ジッタ」となり、高周波信号としては致命的なノイズ(スプリアス)の原因になります。
Si5351AのMultiSynthの中には、このズレを相殺するために「ΔΣ(デルタ・シグマ)モジュレータ」と呼ばれる高度なノイズシェーピング(ノイズの周波数を可聴・使用帯域外へ追いやる技術)回路が組み込まれています。これにより、分数分周でありながら、まるで1つの安定した整数で割ったかのようなピュアなクロックを維持しています。
Si5351Aの「分数」のスケール
Si5351Aのデータシートを見ると、MultiSynthの分周比は以下の数式で定義されています。
ここで設定できる値の範囲が驚異的です。
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a(整数部): 6 ~ 1800
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b(分子): 0 ~ 1,048,575(220-1)
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c(分母): 1 ~ 1,048,576(220)
分母(c)に約100万という巨大な数字を設定できるため、「100万分の1単位」の超高精度な分数を作ることができます。これが、先ほどのプログラム例で「10.000000 MHz」のように、小数点以下まで完璧に指定して発振させられる理由です。
唯一の制限:3つ独立して動かすときのルール
これほど強力なMultiSynthですが、Si5351A(3出力版)では内部のPLLが「2つ(PLLA, PLLB)」に対し、出力(MultiSynth)が「3つ(CLK0〜2)」あります。
そのため、3チャネルすべてを完全にバラバラの周波数(例えば、10MHz、14.1MHz、50MHzなど)で動かしたい場合は、どのCLKがどちらのPLLをシェアするかをパズルのように割り振る必要があります(ライブラリが自動計算してくれますが、VCOの可変範囲 600〜900MHz の制約に引っかかるとエラーになります)。
この超微細な割り算アルゴリズムを電子回路のハードウェアだけでやってのけているのが、Si5351Aの「MultiSynth」の凄さです。
出典:Google Gemini (Gemini は AI であり、間違えることがあります。)
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