差動プローブとは?差動測定の基本と選び方

差動プローブは、2つの測定ポイント間の電位差をオシロスコープで観測するためのプローブです。差動信号の測定、高速デジタル回路の評価、スイッチング電源やインバータの測定など、通常のシングルエンドプローブでは対応しにくい用途で使用されます。

ここでは、差動プローブの基本的な仕組み、差動電圧とコモンモード電圧、コモンモード除去比、主な種類、選定方法、使用上の注意点について解説します。

 
 
差動プローブとは

差動プローブは、プラス入力とマイナス入力の2つの端子を持ち、両端子間の電圧差を測定するプローブです。

プラス入力の電圧をV+、マイナス入力の電圧をV-とすると、差動電圧は以下の関係で表されます。

差動電圧=V+-V-

例えば、V+が12V、V-が10Vの場合、差動プローブで測定される電圧は2Vです。

通常のシングルエンドプローブは、オシロスコープの接地電位を基準として1つの測定ポイントの電圧を測定します。一方、差動プローブは2つの測定ポイント間の電位差を直接測定するため、グランド電位を基準としない信号の観測に適しています。

 
 
差動測定が必要な理由

電子回路では、すべての信号がGNDを基準としているとは限りません。2本の信号線によって情報を伝送する差動信号や、電源回路のスイッチングノードなどでは、2点間の電圧を測定する必要があります。

差動測定が使用される代表的な用途は以下の通りです。

・ 差動クロックや差動データ信号の測定
・ USB、HDMI、PCI Expressなどの高速差動信号の評価
・ スイッチング電源のハイサイド測定
・ インバータやモータ駆動回路の測定
・ 電流検出抵抗の両端電圧の測定
・ 大きな直流電圧に重畳した微小信号の観測
・ 接地電位の異なる2点間の電圧測定

2本のシングルエンドプローブとオシロスコープの演算機能を使用して差動電圧を求める方法もありますが、プローブ間の利得差、位相差、伝搬遅延差などが測定誤差の原因になります。正確な差動測定には、専用の差動プローブが適しています。

 
 
差動電圧とコモンモード電圧

差動プローブを使用する場合は、「差動電圧」と「コモンモード電圧」の両方を理解する必要があります。

差動電圧は、プラス入力とマイナス入力の電圧差です。

差動電圧=V+-V-

コモンモード電圧は、プラス入力とマイナス入力に共通して加わる電圧成分で、一般的に両入力電圧の平均値として表されます。

コモンモード電圧=(V++V-)÷2

例えば、V+が402V、V-が400Vの場合、差動電圧は2V、コモンモード電圧は401Vです。

このような信号を測定するには、2Vの差動電圧を測定できるだけでなく、401Vのコモンモード電圧に対応した差動プローブが必要です。

 
 
コモンモード除去比(CMRR)とは

コモンモード除去比(CMRR:Common Mode Rejection Ratio)は、プラス入力とマイナス入力に共通して加わる信号を、差動プローブがどの程度除去できるかを示す性能です。

CMRRが高いほど、大きなコモンモード電圧に含まれる共通信号やノイズを抑え、2点間の小さな電圧差を正確に測定できます。

実際の差動プローブでは、コモンモード成分を完全に除去することはできません。除去しきれなかった成分は、測定波形に誤差やノイズとして現れます。

また、CMRRは周波数が高くなるにつれて低下する傾向があります。そのため、CMRRの数値だけでなく、その値が規定されている周波数も確認する必要があります。

 
 
差動プローブの主な種類

差動プローブには、測定対象や電圧範囲に応じて複数の種類があります。

・ 低電圧差動プローブ
・ 高速差動プローブ
・ 高電圧差動プローブ
・ 光アイソレーション差動プローブ

低電圧差動プローブは、高速デジタル信号や半導体デバイスの微小信号測定に使用されます。入力容量が小さく、GHz帯に対応する製品もあります。

高電圧差動プローブは、スイッチング電源、インバータ、モータドライブなど、数百Vから数kVの電位差やコモンモード電圧が存在する回路の測定に使用されます。

光アイソレーション差動プローブは、測定信号を光信号へ変換して伝送することにより、測定対象とオシロスコープを電気的に分離します。高速で変化する大きなコモンモード電圧が存在する環境で、微小な差動信号を測定する用途に適しています。

 
 
差動入力範囲

差動入力範囲は、差動プローブが正常に測定できるプラス入力とマイナス入力間の電圧範囲です。

入力した差動電圧が差動入力範囲を超えると、内部アンプが飽和し、波形がクリップしたり、振幅が正しく表示されなかったりします。

差動入力範囲は、減衰比や感度設定によって変わる場合があります。微小信号を高感度で測定する設定では差動入力範囲が狭くなり、大きな信号を測定する設定では入力範囲が広くなるのが一般的です。

測定前には、定常状態の電圧だけでなく、起動時やスイッチング時に発生する過渡電圧も考慮する必要があります。

 
 
コモンモード入力範囲

コモンモード入力範囲は、差動プローブの両入力に共通して加えることができる電圧範囲です。

差動電圧が小さくても、プラス入力またはマイナス入力の対地電圧がコモンモード入力範囲を超えると、正確な測定ができません。また、プローブを損傷する可能性があります。

差動入力範囲、コモンモード入力範囲、最大非破壊入力電圧は、それぞれ異なる仕様です。差動プローブを選定する際は、これらを混同しないように確認することが重要です。

 
 
差動プローブと絶縁の違い

差動プローブは、2点間の電圧差を測定できますが、すべての差動プローブが測定対象とオシロスコープを電気的に絶縁しているわけではありません。

一般的な差動プローブは、入力回路によってコモンモード信号を抑制しますが、オシロスコープとの間が完全に絶縁されているとは限りません。一方、光アイソレーション差動プローブなどの絶縁型プローブは、信号伝送経路を電気的に分離しています。

フローティング測定や高電圧測定を行う場合は、差動測定が可能という理由だけで安全と判断せず、絶縁方式、最大入力電圧、コモンモード電圧範囲、測定カテゴリなどを確認する必要があります。

 
 
入力インピーダンスとプローブ負荷

差動プローブを接続すると、プラス入力とマイナス入力の両方が測定対象の回路に負荷を与えます。

入力抵抗が低い場合は信号振幅が変化し、入力容量が大きい場合は高速信号の立上り時間が遅くなることがあります。また、プラス側とマイナス側の入力特性が均等でない場合、コモンモード信号の一部が差動信号として現れることがあります。

高速差動信号を測定する場合は、以下の仕様を確認します。

・ 差動入力抵抗
・ 各入力からGNDまでの入力抵抗
・ 差動入力容量
・ 各入力からGNDまでの入力容量
・ プローブチップ間のバランス
・ 使用する接続アクセサリの寄生成分

プローブチップや接続リードをできるだけ短くし、プラス側とマイナス側の接続長を揃えることも重要です。

 
 
周波数帯域と立上り時間

差動プローブの周波数帯域は、測定対象の信号周波数だけでなく、信号の立上り時間を考慮して選定します。

高速なパルス信号やスイッチング波形には、基本周波数より高い周波数成分が含まれています。帯域幅が不足すると、立上りが遅く表示されたり、振幅が小さく表示されたりして、実際の波形を正しく評価できません。

オシロスコープ本体と差動プローブを組み合わせた場合、測定システム全体の帯域幅は、それぞれの帯域幅より低くなります。プローブ単体ではなく、オシロスコープを含めたシステム全体の性能を確認する必要があります。

 
 
差動プローブの選定ポイント

差動プローブを選定する際は、以下の項目を確認します。

・ 差動入力範囲
・ コモンモード入力範囲
・ 最大非破壊入力電圧
・ 測定カテゴリ(CAT)
・ コモンモード除去比(CMRR)
・ 周波数帯域
・ 立上り時間
・ 入力抵抗と入力容量
・ 減衰比
・ オフセット範囲
・ ノイズ
・ 絶縁方式
・ オシロスコープとの互換性
・ プローブチップと接続アクセサリ

特に電力変換回路では、測定する差動電圧が小さくても、コモンモード電圧や過渡電圧が非常に大きくなる場合があります。通常動作時の電圧だけでなく、異常時や起動時に発生する可能性がある最大電圧も考慮して選定します。

 
 
使用上の注意点

差動プローブを接続する前に、プラス入力、マイナス入力、対地電圧のすべてがプローブの定格範囲内であることを確認します。

プローブの入力端子間の電圧が差動入力範囲内であっても、各入力端子の対地電圧が最大入力定格やコモンモード入力範囲を超えている場合は使用できません。

また、差動プローブに付属するリード、クリップ、アダプタを変更すると、周波数特性、CMRR、最大入力電圧、安全性能が変化する場合があります。指定されたアクセサリを使用し、取扱説明書に記載された接続方法を守ることが重要です。

高電圧回路では、通電中にプローブを手で保持したり、接続位置を変更したりしないようにします。電源を切り、回路内の電荷が十分に放電されたことを確認してから接続作業を行います。

 
 
まとめ

差動プローブは、2つの測定ポイント間の電位差を直接測定するためのプローブです。高速差動信号、スイッチング電源、インバータ、モータ駆動回路など、シングルエンドプローブでは測定が難しい用途で使用されます。

正確で安全な差動測定を行うには、差動入力範囲だけでなく、コモンモード入力範囲、最大入力電圧、CMRR、周波数帯域、入力インピーダンス、絶縁方式を確認することが重要です。また、差動プローブと絶縁プローブは同じものではないため、測定対象の電圧と安全条件に適した製品を選定する必要があります。

 
 
T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ

T&Mコーポレーション株式会社では、差動プローブ、高電圧差動プローブ、光アイソレーション差動プローブ、電流プローブ、ロゴスキーコイル電流プローブなど、さまざまな測定用途に対応したプローブを取り扱っております。

測定する差動電圧、コモンモード電圧、周波数帯域、絶縁性能、使用するオシロスコープなどに応じて、適切なプローブをご提案いたします。プローブの選定、製品仕様、対応機種、お見積りなどについては、T&Mコーポレーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。

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