光アイソレーションプローブとは?高電圧測定での利点

光アイソレーションプローブは、測定信号を光信号へ変換し、測定対象とオシロスコープの間を電気的に分離して伝送するプローブです。

大きなコモンモード電圧が高速で変化する環境でも、微小な差動信号を高い忠実度で測定しやすいため、SiCやGaNなどのパワー半導体、スイッチング電源、インバータ、モータドライブの評価に使用されています。

ここでは、光アイソレーションプローブの基本的な仕組み、一般的な高電圧差動プローブとの違い、主な性能、選定方法、使用上の注意点について解説します。

 
 
光アイソレーションプローブとは

光アイソレーションプローブは、プローブヘッドで検出した電気信号を光信号へ変換し、光ファイバを通して受信部へ伝送する測定システムです。

受信部では光信号を再び電気信号へ変換し、オシロスコープへ出力します。

プローブヘッドとオシロスコープの間に導電性の信号経路を持たないため、測定対象とオシロスコープをガルバニック絶縁できます。

製品によっては、プローブヘッドの駆動電力も光ファイバを通して供給するPoF(Power over Fiber)方式を採用しています。これにより、信号経路だけでなく電源経路も電気的に分離できます。

 
 
光アイソレーションの仕組み

一般的な光アイソレーションプローブは、以下の部分で構成されています。

・ 測定対象へ接続するプローブチップ
・ 入力信号を処理するプローブヘッド
・ 電気信号を光信号へ変換する光変換回路
・ 光信号を伝送する光ファイバ
・ 光信号を電気信号へ戻す受信ユニット
・ オシロスコープへ接続するインターフェース

測定ポイントで取得した信号は、プローブヘッド内部で光信号へ変換されます。光信号は光ファイバによって受信ユニットへ伝送されるため、測定対象からオシロスコープへコモンモード電流が流れる経路を抑制できます。

この構造により、グランドループや高周波コモンモードノイズの影響を受けにくい測定が可能になります。

 
 
一般的な差動プローブとの違い

一般的な高電圧差動プローブも、2つの入力端子間の電位差を測定できます。ただし、すべての差動プローブが測定対象とオシロスコープの間をガルバニック絶縁しているわけではありません。

一般的な差動プローブでは、内部の差動アンプによって両入力に共通する信号を除去します。一方、光アイソレーションプローブでは、測定信号を光で伝送することにより、測定対象とオシロスコープの間の電気的な接続を分離します。

主な違いは以下の通りです。

・ 光アイソレーションプローブは信号伝送経路を電気的に絶縁
・ コモンモード電流の帰還経路を抑制しやすい
・ 高速なコモンモード変化に対して高いCMRRを維持しやすい
・ 大きなコモンモード電圧上の微小信号測定に適している
・ 光ファイバによってプローブヘッドと受信部を離して配置可能
・ 一般的な差動プローブよりシステム構成が複雑
・ 専用のプローブチップや受信ユニットが必要

差動プローブと光アイソレーションプローブは、どちらも2点間の電位差を測定しますが、絶縁方式とコモンモード信号への対応能力が異なります。

 
 
コモンモード電圧とは

コモンモード電圧は、差動プローブのプラス入力とマイナス入力に共通して加わる対地電圧成分です。

プラス入力の電圧をV+、マイナス入力の電圧をV-とすると、コモンモード電圧は一般的に以下の式で表されます。

コモンモード電圧=(V++V-)÷2

例えば、V+が805V、V-が800Vの場合、差動電圧は5Vですが、コモンモード電圧は802.5Vです。

このような測定では、5Vの差動信号を測定できるだけでなく、約800Vのコモンモード電圧に対応できるプローブが必要です。

 
 
高速なコモンモード変化の影響

スイッチング電源やインバータでは、コモンモード電圧が非常に短い時間で大きく変化します。この電圧変化の速さは、一般的にdv/dtで表されます。

SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体は高速でスイッチングするため、非常に大きなdv/dtが発生する場合があります。

高速なコモンモード変化が測定系へ結合すると、以下のような問題が発生します。

・ 本来存在しないスパイクが表示される
・ ゲート電圧波形にリンギングが重畳する
・ 波形の基準レベルが変動する
・ 立上り直後の波形が乱れる
・ 微小な信号がコモンモードノイズに埋もれる
・ スイッチング損失の演算誤差が増加する

光アイソレーションプローブは、コモンモード電流の経路を抑制することで、こうした測定誤差を低減します。

 
 
コモンモード除去比(CMRR)

コモンモード除去比(CMRR:Common Mode Rejection Ratio)は、両入力に共通して加わる信号をプローブがどの程度除去できるかを示す性能です。

CMRRが高いほど、大きなコモンモード電圧の中から小さな差動信号を正確に取り出せます。

CMRRは周波数によって変化し、一般的には周波数が高くなるにつれて低下します。そのため、データシートに記載された最大CMRRの値だけでなく、実際に測定する周波数におけるCMRRを確認する必要があります。

高速スイッチング回路では、直流や低周波でのCMRRが高くても、高周波でのCMRRが不足すると大きな測定誤差が発生する可能性があります。

 
 
プローブチップとCMRR

光アイソレーションプローブのCMRRは、プローブ本体だけで決まるものではありません。

プローブチップ、入力ケーブル、接続方法、プラス側とマイナス側の配線バランスなどもCMRRに大きく影響します。

プラス側とマイナス側の接続長が異なると、両入力に時間差やインピーダンス差が生じ、コモンモード信号の一部が差動信号として表示されます。

高いCMRRを維持するためには、以下の点が重要です。

・ メーカー指定のプローブチップを使用する
・ プラス側とマイナス側の接続長を揃える
・ 測定ポイントまでの配線を短くする
・ ループ面積を小さくする
・ プローブチップをスイッチングノードから適切に配置する
・ 可能な場合は同軸構造の接続方法を使用する

プローブチップを変更すると、減衰比、帯域幅、入力容量、最大入力電圧、CMRRも変化する場合があります。

 
 
ハイサイドゲート測定

光アイソレーションプローブの代表的な用途の一つが、ハイサイド・パワー半導体のゲート・ソース間電圧測定です。

ハイサイド素子のソース電位は、スイッチング動作に伴って数百Vから数kVの範囲で高速に変化する場合があります。一方、測定したいゲート・ソース間電圧は、数Vから数十V程度です。

この測定では、大きく高速に変化するコモンモード電圧上に存在する小さな差動電圧を観測する必要があります。

一般的な高電圧差動プローブでは、CMRRの不足によってスパイクやリンギングが表示され、ゲート電圧の詳細を正しく観測できない場合があります。

光アイソレーションプローブを使用することで、ターンオン、ターンオフ、ミラー・プラトー、ゲートリンギング、負電圧などの波形をより正確に評価できます。

 
 
主な測定用途

光アイソレーションプローブは、以下のような測定に使用されます。

・ SiC MOSFETのゲート・ソース間電圧測定
・ GaN HEMTのゲート電圧測定
・ IGBTのハイサイドゲート測定
・ スイッチングノードの電圧測定
・ ハーフブリッジ回路の評価
・ フルブリッジ回路の評価
・ インバータやモータドライブの測定
・ スイッチング電源の動作解析
・ ダブルパルステスト
・ 高電位側シャント抵抗の電圧測定

高電圧測定だけでなく、高いコモンモード電圧下で微小な差動信号を測定する用途に適しています。

 
 
差動入力範囲とコモンモード範囲

光アイソレーションプローブを選定する際は、差動入力範囲とコモンモード範囲を区別して確認します。

差動入力範囲は、プラス入力とマイナス入力の間で測定できる電圧範囲です。

コモンモード範囲は、プローブヘッドおよび入力部が対地電位に対して許容できる範囲です。

差動電圧が小さくても、コモンモード電圧が定格を超えている場合は使用できません。また、コモンモード範囲内であっても、各入力端子の最大入力電圧や絶縁定格を超えてはいけません。

プローブチップの減衰比によって差動入力範囲とコモンモード範囲が変化する製品もあるため、使用するチップを含めて仕様を確認します。

 
 
オフセット範囲とダイナミックレンジ

光アイソレーションプローブには、大きな直流成分に重畳した小さな信号を拡大して測定するためのオフセット機能を備えた製品があります。

オフセット範囲は、測定画面から移動または相殺できる直流電圧の範囲です。

ダイナミックレンジは、プローブ内部のアンプが正常に測定できる信号振幅の範囲です。

オフセット範囲が広くても、ダイナミックレンジを超える信号を正確に測定できるとは限りません。オフセット範囲、差動入力範囲、最大入力電圧は、それぞれ異なる仕様として確認する必要があります。

 
 
周波数帯域と立上り時間

光アイソレーションプローブを選定する際は、測定対象のスイッチング周波数だけでなく、立上り時間と立下り時間を考慮します。

スイッチング周波数が比較的低くても、立上り時間が非常に短い場合は、高い周波数成分が含まれています。

帯域幅が不足すると、以下のような測定誤差が発生します。

・ 立上り時間が遅く表示される
・ ピーク電圧が小さく表示される
・ オーバーシュートを正しく観測できない
・ リンギングの周波数や振幅が変化する
・ スイッチング損失の演算誤差が増加する

プローブとオシロスコープを組み合わせた測定システム全体の帯域幅を確認することが重要です。

 
 
入力インピーダンスと回路への影響

光アイソレーションプローブも、測定対象へ接続すると入力抵抗と入力容量による負荷を与えます。

特にGaNデバイスのゲート回路など、低電荷で高速に動作する回路では、プローブの入力容量が回路動作に影響を与える場合があります。

入力容量が大きいと、ゲートの充放電時間が変化し、スイッチング速度、リンギング、損失などが測定前とは異なる状態になる可能性があります。

プローブ本体だけでなく、使用するプローブチップを含めた入力抵抗と入力容量を確認し、測定対象への負荷が許容できるかを判断します。

 
 
光アイソレーションプローブの選定ポイント

光アイソレーションプローブを選定する際は、以下の項目を確認します。

・ 差動入力範囲
・ コモンモード電圧範囲
・ 最大入力電圧
・ 絶縁定格
・ 測定カテゴリ(CAT)
・ 周波数帯域
・ 立上り時間
・ CMRRとその周波数特性
・ 対応可能なコモンモード過渡変化
・ 入力抵抗と入力容量
・ オフセット範囲
・ ダイナミックレンジ
・ ノイズ
・ プローブチップの種類と減衰比
・ オシロスコープとの互換性
・ 光ファイバの長さ

測定電圧が定格内であることだけでなく、スイッチング速度、dv/dt、必要な感度、使用するプローブチップの性能も確認する必要があります。

 
 
使用上の注意点

光アイソレーション方式であっても、入力部の電圧定格や絶縁定格を超えて使用することはできません。

プローブヘッドが高電位になるため、通電中にプローブヘッドやプローブチップへ触れてはいけません。製品によっては、手持ちでの測定を想定していない場合があります。指定されたプローブホルダーや固定治具を使用します。

測定対象への接続は、原則として回路の電源を切り、蓄積された電荷が十分に放電された状態で行います。

また、光ファイバを過度に曲げたり、引っ張ったり、押しつぶしたりすると、信号伝送性能の低下や破損につながります。メーカーが指定する最小曲げ半径と取り扱い方法を守る必要があります。

使用前には、プローブチップ、入力ケーブル、光ファイバ、プローブヘッド、受信ユニットに損傷がないことを確認します。

 
 
まとめ

光アイソレーションプローブは、測定信号を光信号へ変換し、測定対象とオシロスコープの間をガルバニック絶縁して伝送するプローブです。

コモンモード電流の帰還経路を抑制できるため、大きく高速に変化するコモンモード電圧上の微小信号を、高いCMRRで測定する用途に適しています。

特にSiCやGaNなどの高速パワー半導体のハイサイドゲート測定では、一般的な高電圧差動プローブで発生しやすいコモンモードノイズや波形歪みの低減に有効です。

正確で安全な測定を行うには、差動入力範囲、コモンモード範囲、絶縁定格、CMRRの周波数特性、帯域幅、入力容量、プローブチップの仕様を確認し、すべての定格範囲内で使用することが重要です。

 
 
T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ

T&Mコーポレーション株式会社では、光アイソレーション差動プローブ、高電圧差動プローブ、電流プローブ、ロゴスキーコイル電流プローブなど、高電圧・高速スイッチング回路の測定に対応した各種プローブを取り扱っております。

測定する差動電圧、コモンモード電圧、周波数帯域、dv/dt、絶縁性能、使用するオシロスコープなどに応じて、適切なプローブをご提案いたします。プローブの選定、製品仕様、対応機種、お見積りなどについては、T&Mコーポレーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。

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