プローブのダイナミックレンジとオフセット範囲

アクティブプローブや差動プローブを選定する際は、「ダイナミックレンジ」と「オフセット範囲」を正しく理解することが重要です。

どちらも測定可能な電圧範囲に関係する仕様ですが、意味は異なります。オフセット範囲が広くても、大きな振幅の信号をそのまま測定できるとは限りません。

ここでは、ダイナミックレンジ、オフセット範囲、最大入力電圧、コモンモード範囲の違いと、測定時の注意点について解説します。

 
 
ダイナミックレンジとは

ダイナミックレンジは、プローブ内部のアンプが規定された直線性と精度を維持して測定できる信号振幅の範囲です。

アクティブプローブや差動プローブでは、プローブ先端に入力された信号が内部アンプによって処理されます。

入力信号がダイナミックレンジを超えると、内部アンプが飽和し、正確な波形を出力できなくなります。

代表的な波形異常は以下の通りです。

・ 波形の上部または下部が平坦になる
・ ピーク電圧が正しく表示されない
・ 波形がクリップする
・ 振幅が圧縮される
・ 立上りや立下りが歪む
・ 飽和後の回復に時間がかかる
・ 測定値が不安定になる

ダイナミックレンジは、プローブが壊れない範囲ではなく、正常に測定できる範囲を示します。

 
 
入力ダイナミックレンジの表記

ダイナミックレンジは、以下のように表記されます。

・ ±1V
・ ±4V
・ 8Vp-p
・ 10Vp-p
・ -2V~+3V

「±4V」の場合、中心電圧を基準として、正方向と負方向へそれぞれ4Vの範囲を測定できます。

この場合、全体の入力幅は8Vp-pです。

ただし、ダイナミックレンジの基準位置はオフセット設定によって移動できる場合があります。

 
 
オフセット範囲とは

オフセット範囲は、大きな直流成分を電気的に相殺し、その上に重畳した小さな変動成分を測定するために使用できる電圧範囲です。

例えば、48Vの直流電源に重畳した100mVのリップルを測定する場合、そのままでは大きな直流成分によってオシロスコープの垂直感度を上げられないことがあります。

プローブまたはオシロスコープのオフセット機能で48Vの直流成分を相殺すると、100mVのリップル成分を拡大して表示できます。

オフセット機能は、測定画面上で波形を移動するだけの表示位置機能とは異なります。入力信号経路の早い段階で直流成分を相殺することで、測定システムの分解能を小さな変動成分へ有効に使用できます。

 
 
位置調整とオフセットの違い

オシロスコープには、波形の表示位置を上下へ移動する位置調整機能があります。

位置調整は、取り込んだ波形を画面上で移動する機能です。入力回路へ加わる信号電圧や、A/Dコンバータが使用する範囲は基本的に変わりません。

一方、オフセット機能は、入力信号に含まれる直流成分を入力段で相殺します。

主な違いは以下の通りです。

・ 位置調整:画面上の表示位置を変更
・ オフセット:入力信号の直流成分を相殺
・ 位置調整:入力範囲は基本的に変化しない
・ オフセット:小さな変動成分を高感度で観測しやすい
・ 位置調整:飽和した信号を回復できない
・ オフセット:定格範囲内でアンプの飽和を防げる場合がある

製品によって機能の構成が異なるため、取扱説明書で確認します。

 
 
ダイナミックレンジとオフセット範囲の関係

ダイナミックレンジは測定できる信号振幅、オフセット範囲は測定範囲の中心を移動できる範囲です。

例えば、以下の仕様を持つアクティブプローブを考えます。

・ ダイナミックレンジ:±1V
・ オフセット範囲:±10V

オフセットを0Vに設定した場合、測定できる信号範囲は概ね-1Vから+1Vです。

オフセットを+8V付近に設定できる構成であれば、8V付近を中心とする小さな信号変化を測定できます。

ただし、±10Vのオフセット範囲があるからといって、20Vp-pの信号を測定できるわけではありません。測定できる瞬時信号振幅は、ダイナミックレンジによって制限されます。

オフセットの符号や設定方法はメーカーによって異なるため、実際の測定可能範囲は製品の仕様書で確認します。

 
 
オフセットを使用した測定例

12Vの電源ラインに、200mVp-pのリップルが重畳している場合を考えます。

プローブのダイナミックレンジが±0.5V、オフセット範囲が±15Vであれば、12Vの直流成分をオフセット機能で相殺し、その周囲にある200mVp-pの変動成分を測定できます。

この測定では、以下の点を確認します。

・ 12Vがプローブのオフセット範囲内であること
・ 200mVp-pがダイナミックレンジ内であること
・ 瞬間的な過渡電圧もダイナミックレンジ内であること
・ 12Vが最大入力電圧以内であること
・ 必要な帯域幅とノイズ性能を満たすこと

通常動作時のリップルが小さくても、起動時や負荷変動時に大きな過渡電圧が発生すると、ダイナミックレンジを超える場合があります。

 
 
最大入力電圧との違い

最大入力電圧は、プローブを損傷させずに入力できる上限電圧です。

ダイナミックレンジ、オフセット範囲、最大入力電圧は、それぞれ異なる仕様です。

例えば、以下のような仕様を持つプローブがあります。

・ ダイナミックレンジ:±4V
・ オフセット範囲:±10V
・ 最大非破壊入力電圧:±30V

この場合、±30V以内であれば直ちに破損しない可能性がありますが、±4Vのダイナミックレンジと設定可能なオフセット範囲を超えた信号は正確に測定できません。

最大入力電圧は、測定可能範囲を示すものではありません。

 
 
最大非破壊入力電圧とは

最大非破壊入力電圧は、プローブへ印加しても直ちに損傷しないとされる上限電圧です。

ただし、最大非破壊入力電圧には、以下の条件が指定される場合があります。

・ 直流+交流ピーク
・ 短時間のパルス
・ 特定の周波数範囲
・ 特定の測定カテゴリ
・ 指定されたプローブチップの使用
・ 規定された温度や高度

最大非破壊入力電圧以内であっても、ダイナミックレンジを超えると波形はクリップし、正しい測定値を得られません。

また、最大非破壊入力電圧を繰り返し印加してよいとは限りません。通常の測定では、規定された測定範囲内で使用します。

 
 
オーバーレンジとは

オーバーレンジは、入力信号がプローブまたはオシロスコープの測定範囲を超えた状態です。

オーバーレンジが発生すると、以下のような現象が見られます。

・ 波形が画面上端または下端で切れる
・ 波形のピークが平坦になる
・ 測定値が「Over」などと表示される
・ オーバーレンジ警告が表示される
・ アンプが飽和する
・ 飽和からの回復中に波形が歪む

一部のプローブにはオーバーレンジ表示機能があります。

ただし、すべてのオーバーレンジ状態を検出できるとは限りません。特に高電圧差動プローブでは、差動入力範囲の超過を検出できても、コモンモード入力範囲や各入力端子の対地電圧超過を検出できない場合があります。

 
 
飽和回復時間

入力信号がダイナミックレンジを大きく超えると、プローブ内部のアンプが飽和します。

信号が再び測定範囲内へ戻っても、アンプ出力が直ちに正常へ戻らない場合があります。この回復に必要な時間を飽和回復時間またはオーバードライブ回復時間と呼びます。

飽和回復中には、以下のような波形異常が発生する可能性があります。

・ 基線がずれる
・ 振幅が徐々に回復する
・ 波形の一部が欠落する
・ 過渡現象を正しく観測できない
・ 測定値が不安定になる

大きな過渡電圧の直後に発生する微小信号を測定する場合は、ダイナミックレンジと飽和回復特性を確認します。

 
 
差動プローブのダイナミックレンジ

差動プローブのダイナミックレンジは、プラス入力とマイナス入力間の差動電圧として規定されます。

プラス入力の電圧をV+、マイナス入力の電圧をV-とすると、差動電圧は以下の式で表されます。

差動電圧=V+-V-

差動入力範囲が±5Vの場合、2つの入力間の電圧差が-5Vから+5Vの範囲内である必要があります。

各入力端子の対地電圧が定格内であっても、差動電圧がダイナミックレンジを超えると正確に測定できません。

 
 
コモンモード範囲との違い

差動プローブでは、ダイナミックレンジに加えてコモンモード入力範囲も確認する必要があります。

コモンモード電圧は、一般的に以下の式で表されます。

コモンモード電圧=(V++V-)÷2

例えば、V+が402V、V-が400Vの場合、差動電圧は2V、コモンモード電圧は401Vです。

この場合、プローブには以下の両方の性能が必要です。

・ 2Vの差動電圧を測定できるダイナミックレンジ
・ 401Vに対応できるコモンモード入力範囲

差動電圧が小さいという理由だけで、低電圧差動プローブを使用することはできません。

 
 
オフセット範囲とコモンモード範囲の違い

オフセット範囲は、測定したい信号に含まれる直流成分を相殺するための範囲です。

コモンモード範囲は、差動プローブの両入力に共通して加わる対地電圧の許容範囲です。

両者は似ているように見えますが、異なる仕様です。

オフセット範囲が±15Vであっても、コモンモード範囲が同じ±15Vとは限りません。

また、コモンモード範囲が非常に広い高電圧差動プローブでも、オフセット機能を持たない場合があります。

測定対象に応じて、差動入力範囲、オフセット範囲、コモンモード範囲を個別に確認します。

 
 
減衰比による変化

切替式プローブでは、減衰比によってダイナミックレンジ、オフセット範囲、ノイズ、感度が変化する場合があります。

一般的な傾向は以下の通りです。

・ 低い減衰比:高感度、狭い入力範囲
・ 高い減衰比:低感度、広い入力範囲
・ 低い減衰比:入力換算ノイズが小さい
・ 高い減衰比:入力換算ノイズが大きい

例えば、1Xレンジでは微小信号を測定しやすく、10Xレンジではより大きな信号を測定できます。

必要以上に高い減衰比を使用すると、微小信号がノイズに埋もれる可能性があります。

 
 
ダイナミックレンジとノイズ

測定したい信号がダイナミックレンジ内であっても、信号振幅がプローブのノイズに近い場合は正確に測定できません。

例えば、ダイナミックレンジが±5Vのプローブでも、数百µVの信号を十分なS/N比で測定できるとは限りません。

微小信号測定では、以下の仕様を確認します。

・ 入力換算ノイズ
・ ノイズ密度
・ 使用する減衰比
・ オシロスコープの垂直感度
・ 測定帯域幅
・ オフセット精度
・ ゼロ点ドリフト

大きなダイナミックレンジと低ノイズ性能は、必ずしも同時に得られるものではありません。

 
 
オフセット精度とドリフト

オフセット機能には、設定誤差と温度ドリフトがあります。

例えば、12Vのオフセットを設定して微小信号を測定する場合、オフセット誤差が数十mVあると、測定画面の基準位置がずれる可能性があります。

長時間測定や温度変化の大きい環境では、オフセット値が徐々に変化する場合もあります。

高精度な測定では、以下を確認します。

・ オフセット設定精度
・ オフセット利得精度
・ 温度係数
・ ゼロ点ドリフト
・ ウォームアップ時間
・ オートゼロ機能
・ 校正条件

測定前にプローブを十分にウォームアップし、必要に応じてゼロ調整や校正を行います。

 
 
電源リップル測定

電源リップル測定では、大きな直流電圧に重畳した小さな交流成分を測定します。

一般的な10:1パッシブプローブでは、信号が10分の1に減衰するため、微小なリップルに対するS/N比が低下する場合があります。

電源レールプローブやオフセット機能を備えたアクティブプローブは、大きな直流成分を相殺しながら、小さなリップルを広帯域で測定する用途に適しています。

選定時には、以下を確認します。

・ 電源電圧がオフセット範囲内であること
・ リップルと過渡変動がダイナミックレンジ内であること
・ 必要な周波数帯域を持つこと
・ 入力換算ノイズが十分に小さいこと
・ 測定対象へ与える負荷が小さいこと

AC結合を使用する方法もありますが、低周波成分や過渡応答が失われる可能性があります。

 
 
ゲート信号測定

パワー半導体のゲート信号には、直流バイアス、正負の駆動電圧、オーバーシュート、リンギングなどが含まれます。

通常のゲート電圧がダイナミックレンジ内であっても、スイッチング時のオーバーシュートによって範囲を超える場合があります。

特にハイサイドゲート測定では、以下を確認します。

・ ゲート・ソース間の差動電圧
・ 正側と負側のピーク電圧
・ コモンモード電圧
・ コモンモード過渡変化
・ オフセット範囲
・ ダイナミックレンジ
・ 最大入力電圧
・ 高周波におけるCMRR

オフセット機能だけでは、大きなコモンモード電圧へ対応できません。

 
 
ダイナミックレンジの選定方法

必要なダイナミックレンジを決める際は、通常動作時の信号振幅だけでなく、予想される最大・最小電圧を確認します。

確認する項目は以下の通りです。

・ 直流レベル
・ 交流振幅
・ リップル
・ オーバーシュート
・ アンダーシュート
・ 起動時の過渡電圧
・ 負荷変動時の電圧
・ 異常動作時の電圧
・ ノイズとリンギング

波形の最大値と最小値がダイナミックレンジ内に収まり、測定したい微小信号に対して十分なS/N比を得られるプローブを選定します。

 
 
選定時の確認項目

ダイナミックレンジとオフセット範囲を確認する際は、以下の項目を比較します。

・ 入力ダイナミックレンジ
・ オフセット範囲
・ 最大入力電圧
・ 最大非破壊入力電圧
・ 差動入力範囲
・ コモンモード入力範囲
・ 減衰比
・ 入力換算ノイズ
・ オフセット精度
・ ゼロ点ドリフト
・ 周波数帯域
・ 入力抵抗と入力容量
・ オーバーレンジ表示機能

一つの電圧仕様だけで判断せず、実際の測定条件に関係するすべての範囲を確認することが重要です。

 
 
まとめ

ダイナミックレンジは、プローブが規定された性能で測定できる信号振幅の範囲です。

オフセット範囲は、大きな直流成分を相殺し、その周囲にある小さな変動成分を拡大して測定するための範囲です。

オフセット範囲が広くても、大きな振幅の信号を測定できるとは限りません。また、最大非破壊入力電圧以内であっても、ダイナミックレンジを超えた信号は正確に測定できません。

差動測定では、差動入力範囲、コモンモード入力範囲、各入力端子の対地電圧も確認する必要があります。

正確な測定を行うには、信号の直流レベル、最大振幅、過渡電圧、ノイズ、必要な帯域幅を確認し、適切なダイナミックレンジとオフセット範囲を持つプローブを選定することが重要です。

 
 
T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ

T&Mコーポレーション株式会社では、アクティブプローブ、差動プローブ、高電圧差動プローブ、光アイソレーション差動プローブなど、さまざまなダイナミックレンジとオフセット範囲に対応したプローブを取り扱っております。

測定する直流レベル、信号振幅、過渡電圧、コモンモード電圧、必要なノイズ性能、周波数帯域、使用するオシロスコープなどに応じて、適切なプローブをご提案いたします。プローブの選定、製品仕様、対応機種、お見積りなどについては、T&Mコーポレーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。

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