プローブのノイズとは?微小信号測定で確認すべき仕様
プローブには、測定信号とは無関係な電気的ノイズが存在します。
大きな信号を測定する場合は問題にならなくても、電源リップル、センサ出力、微小電流、高速デジタル信号のジッタなどを測定する場合、プローブ自身のノイズが測定結果へ大きく影響します。
ここでは、プローブノイズの種類、入力換算ノイズ、ノイズ密度、帯域幅との関係、S/N比を改善する方法について解説します。
■プローブのノイズとは
プローブのノイズは、測定対象に実際には存在しないにもかかわらず、プローブ出力へ現れる不規則な電圧変動です。
特にアクティブプローブ、差動プローブ、電流プローブにはアンプや電源回路が内蔵されているため、プローブ自身が一定のノイズを発生します。
測定画面に表示されるノイズには、以下の要素が含まれます。
・ 測定対象自身のノイズ
・ プローブ内部回路のノイズ
・ オシロスコープ入力回路のノイズ
・ 外部から誘導された電磁ノイズ
・ グランド接続によるノイズ
・ 電源やUSBから混入するノイズ
・ 量子化ノイズ
・ プローブとオシロスコープの接続不良
実際の信号ノイズを評価するには、プローブとオシロスコープが加えるノイズを区別して考える必要があります。
■入力換算ノイズとは
入力換算ノイズは、プローブ出力で観測されるノイズを、プローブ先端の入力電圧へ換算した値です。
一般的に以下の単位で表されます。
・ µVrms
・ mVrms
・ µVp-p
・ mVp-p
入力換算ノイズが小さいほど、プローブ先端における微小な信号を識別しやすくなります。
プローブの減衰比が高い場合、オシロスコープ入力側のノイズをプローブ先端へ換算した値も大きくなります。
例えば、オシロスコープ入力ノイズが1mVrmsの場合、減衰比による入力換算値は概算で以下のようになります。
・ 1:1プローブ:約1mVrms
・ 10:1プローブ:約10mVrms
・ 100:1プローブ:約100mVrms
実際にはプローブ自身のノイズとオシロスコープのノイズが加わるため、単純な倍率だけでは決まりません。
■出力換算ノイズとの違い
出力換算ノイズは、プローブからオシロスコープへ出力される側で表したノイズです。
入力換算ノイズは、プローブ先端でどの程度のノイズに相当するかを表します。
同じプローブでも、減衰比や利得によって入力換算ノイズと出力換算ノイズの関係が変わります。
製品を比較する際は、ノイズ仕様が以下のどちらで表されているかを確認します。
・ 入力換算値
・ プローブ出力における値
異なる基準で記載されたノイズ値を、そのまま比較することはできません。
■RMSノイズとピーク・ツー・ピークノイズ
ノイズは、RMS値またはピーク・ツー・ピーク値で表されます。
RMSノイズは、ノイズの実効値を示します。測定器やプローブの仕様では、mVrmsやµVrmsとして記載されることがあります。
ピーク・ツー・ピークノイズは、一定時間内に観測された最大値と最小値の差です。
ランダムノイズのピーク値は測定時間が長いほど大きくなる可能性があるため、ピーク・ツー・ピーク値は観測時間、サンプル数、帯域幅などに影響されます。
RMS値とピーク・ツー・ピーク値を単純に同じ基準として比較することはできません。
■ノイズ密度とは
ノイズ密度は、単位帯域幅当たりのノイズ量を表す仕様です。
電圧ノイズ密度は、一般的に以下の単位で表されます。
nV/√Hz
ノイズ密度が一定の白色雑音に近い場合、帯域幅内のRMSノイズは概算で以下の式から求められます。
RMSノイズ≒ノイズ密度×√帯域幅
例えば、ノイズ密度が10nV/√Hzで、測定帯域幅が100MHzの場合、概算ノイズは以下のようになります。
10nV/√Hz×√100MHz≒100µVrms
実際のノイズには、低周波の1/fノイズ、周波数応答、フィルタの等価雑音帯域幅などが影響するため、この計算は概算です。
■帯域幅とノイズの関係
測定帯域幅を広くすると、より多くの周波数成分を取り込むため、表示されるノイズも増加します。
白色雑音に近い場合、帯域幅を4倍にするとRMSノイズは概算で2倍になります。
帯域幅とRMSノイズの関係は、おおよそ帯域幅の平方根に比例します。
例えば、測定帯域幅を以下のように変更するとします。
・ 100MHzから25MHzへ制限
・ 帯域幅は4分の1
・ RMSノイズは概算で2分の1
微小信号を測定する場合、必要な信号成分を失わない範囲で帯域幅を制限すると、S/N比を改善できます。
■プローブとオシロスコープの合成ノイズ
測定画面に表示されるノイズには、プローブとオシロスコープの両方のノイズが含まれます。
互いに相関のないランダムノイズであれば、合成ノイズは概算で以下の式から求められます。
合成ノイズ≒√{プローブノイズ²+オシロスコープノイズ²}
例えば、入力換算したプローブノイズが2mVrms、オシロスコープノイズが1.5mVrmsの場合、合成ノイズは概算で以下のようになります。
√{2²+1.5²}=2.5mVrms
プローブのノイズだけが小さくても、オシロスコープの入力ノイズが大きい場合は、測定システム全体として十分な感度を得られません。
■減衰比とノイズ
パッシブプローブ自体は、アクティブ回路による大きなノイズを発生しません。しかし、信号を減衰させることで、オシロスコープの入力ノイズが測定対象側で大きく換算されます。
10:1プローブでは信号が10分の1、100:1プローブでは100分の1になります。
そのため、同じオシロスコープを使用した場合、減衰比が高いほど微小信号に対するS/N比が低下する傾向があります。
ただし、低い減衰比のプローブは入力容量が大きく、測定対象へ強い負荷を与える場合があります。
微小信号測定では、以下のバランスを考慮します。
・ 減衰によるS/N比の低下
・ 入力容量による回路負荷
・ 必要な周波数帯域
・ 最大入力電圧
・ オシロスコープの垂直感度
必要以上に高い減衰比を使用しないことが重要です。
■アクティブプローブのノイズ
アクティブプローブには、FET、バッファアンプ、電源回路などが内蔵されているため、プローブ自身のノイズが存在します。
広帯域アクティブプローブでは、帯域幅が広いほど多くのノイズが測定帯域へ入る場合があります。
アクティブプローブを選定する際は、以下のノイズ仕様を確認します。
・ 入力換算RMSノイズ
・ ノイズ密度
・ 測定帯域幅
・ 使用する減衰比
・ オフセット設定時のノイズ
・ 温度による変化
・ オシロスコープと組み合わせたシステムノイズ
GHz帯の高速信号測定に適したプローブが、必ずしも低周波のµVレベル信号測定に適しているとは限りません。
■差動プローブのノイズ
差動プローブでは、内部の差動アンプがノイズを発生します。
また、プラス入力とマイナス入力のバランスが崩れると、コモンモードノイズの一部が差動信号として表示されます。
差動測定時には、以下の要素がノイズへ影響します。
・ プローブ内部アンプのノイズ
・ 入力換算ノイズ
・ CMRR
・ プラス側とマイナス側の接続長
・ 入力チップのバランス
・ 高周波コモンモード電圧
・ 外部電磁界
・ グランドやシールドの状態
大きなコモンモード電圧上の微小信号を測定する場合、ノイズ仕様だけでなく、高周波におけるCMRRも重要です。
■電流プローブのノイズ
電流プローブのノイズは、一般的に電流へ換算して表されます。
代表的な単位は以下の通りです。
・ µArms
・ mArms
・ µA/√Hz
・ mA/√Hz
AC/DC電流プローブでは、ホール素子、アンプ、電源回路、磁気コアの残留磁気などが測定値へ影響します。
微小電流を測定する場合は、以下を確認します。
・ プローブの最小測定電流
・ 入力換算電流ノイズ
・ 使用する電流レンジ
・ 消磁状態
・ ゼロ点ドリフト
・ 温度変化
・ オシロスコープのノイズ
測定前に消磁とゼロ調整を行うことで、残留磁気とオフセットによる誤差を抑えられます。
■電源リップル測定とノイズ
電源リップルは、大きな直流電圧に重畳した小さな交流信号です。
一般的な10:1プローブでは信号が10分の1に減衰するため、数mVのリップルがオシロスコープのノイズに埋もれる場合があります。
電源リップル測定では、以下の方法が有効です。
・ 低減衰比のプローブを使用する
・ 低ノイズの電源レールプローブを使用する
・ オフセット機能で直流成分を相殺する
・ 20MHzなどの帯域制限を使用する
・ グランド接続を短くする
・ 同軸接続を使用する
・ 不要な外来ノイズを遮蔽する
ただし、帯域制限を使用すると、高周波スパイクや高速過渡現象が見えなくなる場合があります。
測定結果には、使用した帯域幅を明記することが重要です。
■外来ノイズの拾い込み
プローブが表示するノイズのすべてが、プローブ内部で発生したものとは限りません。
長いグランドリードや接続リードはアンテナとして動作し、周囲の電磁ノイズを拾う場合があります。
代表的な外来ノイズ源は以下の通りです。
・ 商用電源
・ スイッチング電源
・ モータやインバータ
・ 無線通信機器
・ 蛍光灯やLED照明
・ USBケーブル
・ パソコン
・ 他の測定器
・ 静電気放電
プローブチップとグランドを短絡した状態でノイズが表示される場合は、測定システム自身のノイズまたは外来ノイズの影響が考えられます。
■グランドループによるノイズ
複数の測定器や接地ポイントを接続すると、グランド間に電位差が生じ、グランドループ電流が流れる場合があります。
この電流が測定信号へ重畳すると、50Hzまたは60Hzのハム、高調波、スイッチングノイズなどとして表示されます。
グランドループを避けるには、以下の点を確認します。
・ 複数の接地経路を作らない
・ プローブグランドを適切な基準点へ接続する
・ 信号とグランドのループ面積を小さくする
・ 必要に応じて差動プローブを使用する
・ 絶縁が必要な場合は絶縁プローブを使用する
保護接地を切断してオシロスコープをフローティングさせる方法は、感電や機器損傷の危険があるため使用してはいけません。
■帯域制限によるノイズ低減
オシロスコープの帯域制限機能を使用すると、不要な高周波ノイズを減らせます。
例えば、500MHz帯域のオシロスコープを20MHzへ制限すると、20MHzを超えるノイズ成分が減衰します。
帯域制限は、以下の測定に有効です。
・ 電源リップル
・ 低周波センサ信号
・ オーディオ信号
・ 低速制御信号
・ 直流電圧の変動
・ 低周波電流
一方、スイッチングスパイク、リンギング、高速立上りなどを測定する場合、帯域制限によって必要な信号成分も失われます。
ノイズ測定では、帯域幅を必ず記録します。
■平均化機能
平均化機能は、複数回取得した波形を平均することで、信号と同期していないランダムノイズを低減します。
理想的なランダムノイズの場合、平均回数をN回とすると、ノイズは概算で1÷√Nに低減します。
例えば、平均回数を以下のように設定した場合の概算は次の通りです。
・ 4回平均:約2分の1
・ 16回平均:約4分の1
・ 64回平均:約8分の1
平均化は繰り返し信号の測定に有効ですが、単発現象や信号と同期したノイズは除去できません。
また、平均化によって間欠的なスパイクが見えにくくなる可能性があります。
■高分解能モード
オシロスコープの高分解能モードは、複数のサンプルを演算処理して、ランダムノイズを低減し、実効的な垂直分解能を向上させます。
平均化と異なり、単発波形へ使用できる場合があります。
ただし、高分解能モードでは実効帯域幅が低下する場合があります。
測定対象の立上り時間、高周波成分、必要な時間分解能を確認して使用します。
■ノイズフロアを確認する方法
測定前に、プローブとオシロスコープを組み合わせた測定システムのノイズフロアを確認すると、測定可能な最小信号の目安を把握できます。
基本的な確認方法は以下の通りです。
・ プローブをオシロスコープへ接続する
・ プローブ先端とグランドを短絡する
・ 実際の測定と同じ減衰比を設定する
・ 実際の測定と同じ帯域幅を設定する
・ 同じ垂直感度とサンプルレートを設定する
・ RMSノイズまたはピーク・ツー・ピークノイズを測定する
アクティブプローブや差動プローブでは、メーカーが指定する終端方法やゼロ調整方法に従います。
ノイズフロアが測定したい信号と同程度の場合、測定結果の信頼性は低くなります。
■S/N比とは
S/N比は、信号レベルとノイズレベルの比率です。
S/N比が大きいほど、ノイズに対して信号を明確に識別できます。
電圧比をデシベルで表す場合、以下の式を使用します。
S/N比=20log₁₀(信号RMS値÷ノイズRMS値)
例えば、信号が100mVrms、ノイズが1mVrmsの場合、S/N比は40dBです。
測定器の分解能だけでなく、プローブとオシロスコープを組み合わせたシステム全体のS/N比を考慮します。
■ノイズ性能を比較する際の注意点
プローブのノイズ仕様を比較する際は、測定条件を揃える必要があります。
確認する項目は以下の通りです。
・ RMSまたはピーク・ツー・ピーク
・ 入力換算または出力換算
・ 測定帯域幅
・ 減衰比
・ 入力レンジ
・ オフセット設定
・ オシロスコープを含む値かプローブ単体か
・ 使用したフィルタ
・ 測定時間
・ 温度条件
例えば、20MHz帯域で測定されたノイズ値と、1GHz帯域で測定されたノイズ値をそのまま比較することはできません。
■微小信号測定のポイント
微小信号を測定する際は、以下の方法でS/N比を改善できます。
・ 必要以上に高い減衰比を使用しない
・ 低ノイズプローブを使用する
・ 入力容量と回路負荷を確認する
・ 必要な範囲まで帯域幅を制限する
・ グランド接続を短くする
・ 同軸接続を使用する
・ 平均化または高分解能モードを使用する
・ 外来ノイズ源から離す
・ プローブを適切にシールドする
・ 測定システムのノイズフロアを事前に確認する
ノイズを小さく見せることだけを目的に帯域幅を制限すると、測定したい過渡現象も失われる場合があります。
測定目的と必要帯域幅を明確にして設定します。
■プローブ選定時の確認項目
低ノイズ測定用プローブを選定する際は、以下の項目を確認します。
・ 入力換算ノイズ
・ ノイズ密度
・ 測定帯域幅
・ 減衰比
・ 入力ダイナミックレンジ
・ オフセット範囲
・ 入力抵抗と入力容量
・ 最小測定信号
・ オシロスコープとの合成ノイズ
・ ゼロ点ドリフト
・ 温度係数
・ オートゼロ機能
最も帯域幅の広いプローブが、最も低ノイズなプローブとは限りません。
■まとめ
プローブのノイズは、測定対象に存在しない不規則な電圧または電流変動として測定結果へ加わります。
測定画面に表示されるノイズには、測定対象、プローブ、オシロスコープ、外部環境からのノイズが含まれます。
微小信号を正確に測定するには、入力換算ノイズ、ノイズ密度、減衰比、測定帯域幅、オシロスコープとの合成ノイズを確認することが重要です。
帯域制限、平均化、高分解能モード、短いグランド接続などを適切に使用するとS/N比を改善できます。ただし、必要な高周波成分や単発現象を失わないように、測定目的に合わせて設定する必要があります。
■T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ
T&Mコーポレーション株式会社では、低ノイズアクティブプローブ、差動プローブ、電源レール測定用プローブ、光アイソレーション差動プローブ、高感度電流プローブなど、微小信号測定に対応した各種プローブを取り扱っております。
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