プローブ用治具・アダプタ・PCBアクセサリの選び方
オシロスコープ測定では、プローブ本体の性能だけでなく、測定対象との接続方法も測定結果へ大きく影響します。
プローブホルダー、ポジショナ、変換アダプタ、はんだ付け式リード、PCBテストポイントなどを適切に使用すると、接触不良を防ぎ、測定の再現性と作業効率を向上できます。
一方、接続部が長いアクセサリや不適切な変換アダプタを使用すると、帯域幅の低下、リンギング、ノイズ、インピーダンス不整合などが発生します。
ここでは、代表的なプローブ用治具、アダプタ、PCBアクセサリの種類、用途、選定方法について解説します。
■プローブ用アクセサリの役割
プローブ用アクセサリは、測定対象とプローブを確実かつ適切に接続するために使用します。
主な役割は以下の通りです。
・ プローブを一定位置へ固定する
・ 小型部品や狭い端子へ接続する
・ 信号とグランドの接続を短くする
・ 複数のプローブを同時に保持する
・ 異なるコネクタ間を変換する
・ 測定を繰り返しても同じ接続条件を維持する
・ 高電圧測定時に必要な絶縁距離を確保する
・ 校正やデスキューを行う
適切なアクセサリを使用すると、手持ち測定による位置ずれや接触状態の変化を抑えられます。
■プローブホルダー
プローブホルダーは、プローブを一定の位置と角度へ固定するための保持具です。
アーム、クランプ、マグネット、吸着ベースなどを使用して、プローブ本体を測定ポイントへ保持します。
主な用途は以下の通りです。
・ 長時間の波形監視
・ 複数プローブによる同時測定
・ 小型部品の測定
・ 高密度基板の測定
・ 温度試験中の測定
・ 自動測定
・ 手を測定回路から離したい場合
プローブの重量とケーブルの張力に対応できるホルダーを選びます。
■プローブポジショナ
プローブポジショナは、プローブ先端を微細な測定ポイントへ正確に位置決めするための治具です。
多関節アーム、XYZステージ、微調整ノブなどを備えた製品があります。
主な特長は以下の通りです。
・ 細かい位置調整が可能
・ 接触圧を一定に保ちやすい
・ 手ぶれを防止できる
・ 測定位置の再現性を高められる
・ 複数のプローブを近接配置できる
・ ポゴピンやブラウザチップを安定して使用できる
高速アクティブプローブや差動ブラウザプローブは、先端が小さく機械的に繊細なため、ポジショナを使用すると安定した測定が行えます。
■プローブホルダーの固定方法
プローブホルダーには、以下のような固定方式があります。
・ 卓上ベース
・ マグネットベース
・ クランプ固定
・ 吸着固定
・ 基板固定
・ 測定器固定
・ 重量ベース
マグネットベースは金属製の作業台へ固定できますが、強い磁界の影響を受ける測定や磁気センサの測定には適さない場合があります。
クランプ固定では、基板、部品、ケーブルへ過度な力が加わらないようにします。
高電圧測定では、ホルダーの絶縁性能と必要な沿面距離・空間距離を確認します。
■フックチップとグラバクリップ
フックチップとグラバクリップは、部品リードや端子へプローブを固定するためのアクセサリです。
一般的な低周波測定や長時間測定では便利ですが、接続部が長くなるため、高速信号では寄生成分が増加します。
主な注意点は以下の通りです。
・ 隣接端子を短絡させない
・ 最大入力電圧を超えない
・ 接続部へ過度な力を加えない
・ クリップの金属部を露出させない
・ 高速信号では接続長を短くする
・ 高電圧測定では専用クリップを使用する
アクセサリの電圧定格がプローブ本体より低い場合、測定システム全体の定格も低下します。
■プローブチップ変換アダプタ
プローブチップ変換アダプタは、標準プローブチップを別の接続形式へ変換するために使用します。
代表的な種類は以下の通りです。
・ プローブチップ-BNC変換
・ プローブチップ-SMA変換
・ プローブチップ-スクエアピン変換
・ プローブチップ-バナナプラグ変換
・ プローブチップ-ワニ口クリップ変換
・ プローブチップ-同軸ケーブル変換
アダプタを追加すると接続が便利になりますが、寄生容量、寄生インダクタンス、接触抵抗などが増加する可能性があります。
使用するアダプタの帯域幅、入力インピーダンス、最大入力電圧を確認します。
■BNC-プローブチップアダプタ
BNC-プローブチップアダプタは、BNC同軸信号をプローブチップへ入力したり、プローブの周波数特性を校正したりする用途に使用します。
主な用途は以下の通りです。
・ 信号発生器からの既知信号入力
・ プローブの周波数応答確認
・ 立上り時間の評価
・ 補正状態の確認
・ 校正治具との接続
アダプタの入力インピーダンスが50Ωか高インピーダンスかを確認します。
50Ω信号源と高インピーダンスプローブを接続する場合、信号発生器の表示振幅と実際の出力振幅が異なる場合があります。
■SMAアダプタ
SMAアダプタは、高周波信号を同軸構造で接続するために使用します。
SMAコネクタは、数百MHzからGHz帯の測定で広く使用されています。
主な用途は以下の通りです。
・ 高速デジタル信号
・ RF信号
・ クロック信号
・ 高速パルス
・ 電源レール
・ 校正信号
・ プローブ評価用治具
SMA接続は測定再現性に優れますが、一般的に50Ω系として使用されます。
測定対象が50Ω負荷に対応していない場合、信号振幅や回路動作が変化する可能性があります。
■MCX・MMCXアダプタ
MCXとMMCXは、SMAより小型の同軸コネクタです。
高密度基板や小型機器の測定ポイントへ実装し、プローブを着脱する用途に使用されます。
主な特長は以下の通りです。
・ 小型で基板面積を抑えられる
・ 信号とグランドを同軸構造で接続できる
・ 高周波特性を維持しやすい
・ 繰り返し接続の再現性を高められる
・ はんだ付けリードより接続が安定する
MMCXはスナップオン式で、比較的自由に回転できます。
頻繁な着脱、斜め方向からの力、ケーブルの引っ張りなどによって、基板側コネクタを損傷する場合があります。
■N型コネクタ変換アダプタ
N型コネクタは、スペクトラムアナライザ、信号発生器、高周波測定器などで広く使用される同軸コネクタです。
オシロスコープやプローブで使用されるBNC、SMAなどへ接続する場合は、変換アダプタを使用します。
代表的な変換には以下があります。
・ N-SMA変換
・ N-BNC変換
・ N-TNC変換
変換アダプタを使用する際は、コネクタの特性インピーダンス、周波数帯域、最大入力電力、最大電圧を確認します。
50Ωと75Ωのコネクタを混在させると、インピーダンス不整合が発生します。
■はんだ付け式プローブリード
はんだ付け式プローブリードは、細い信号線とグランド線をプリント基板へ直接はんだ付けして使用します。
主な特長は以下の通りです。
・ 接続を安定して維持できる
・ 手持ち測定が不要
・ 接続リードを短くできる
・ 高速信号の測定に適している
・ 小型部品へ接続できる
・ 長時間測定の再現性を高められる
信号線とグランド線を長くすると、寄生インダクタンスとループ面積が増加します。
差動測定では、プラス側とマイナス側のリードを同じ長さにし、できるだけ近接して配線します。
■はんだ付け式同軸リード
はんだ付け式同軸リードは、信号線の周囲をグランドで囲む構造を持つ小型接続アクセサリです。
一般的な2本のリード線より、外来ノイズと寄生インダクタンスを抑えやすくなります。
主な用途は以下の通りです。
・ 電源リップル
・ 高速クロック
・ 高速スイッチング波形
・ RF信号
・ 低ノイズ測定
・ 高いCMRRが必要な測定
同軸シールドをどの位置で基板GNDへ接続するかによって、測定ループと周波数特性が変わります。
メーカーが指定するはんだ付け方法に従います。
■PCBテストポイント
PCBテストポイントは、プローブや測定治具を接続するためにプリント基板上へ設ける専用の接続部です。
代表的な形状は以下の通りです。
・ 露出銅パッド
・ テストピン
・ ループ端子
・ スクエアピン
・ ポゴピン用パッド
・ SMAコネクタ
・ MCXコネクタ
・ MMCXコネクタ
・ 専用プローブパッド
設計段階で適切なテストポイントを設けると、測定作業の安全性、再現性、効率を向上できます。
■信号とGNDのテストポイント
高速信号を測定する場合は、信号テストポイントの近くにGNDテストポイントを設けることが重要です。
信号とGNDが離れていると、長いグランド接続が必要になり、測定ループ面積と寄生インダクタンスが増加します。
代表的な配置方法は以下の通りです。
・ 信号パッドの隣にGNDパッドを配置
・ グランドスプリングの間隔に合わせて配置
・ 信号ピンとGNDピンを並べる
・ 同軸コネクタを使用
・ 差動信号の両側へ対称なパッドを配置
測定に使用するプローブチップの寸法と間隔を確認して設計します。
■テストポイントによるスタブ
高速信号線へテストポイントを追加すると、分岐した配線がスタブとして動作する場合があります。
スタブが長いと、信号反射、リンギング、インピーダンス不整合などの原因になります。
テストポイントを設計する際は、以下を考慮します。
・ 分岐配線を短くする
・ 信号線のインピーダンスを維持する
・ 不要なパッド面積を小さくする
・ ビアによる不連続を抑える
・ プローブ接続時の容量を考慮する
・ 測定ポイントを受信端付近へ配置する
数GHz以上の高速信号では、テストポイント自体を伝送線路の一部として設計する必要があります。
■差動信号用PCBアクセサリ
差動信号の測定では、プラス側とマイナス側の配線バランスを維持する必要があります。
差動プローブ用テストポイントでは、以下を考慮します。
・ プラス側とマイナス側のパッド形状を揃える
・ プローブチップまでの配線長を揃える
・ 差動ペアの間隔を急激に変えない
・ 共通のGND構造を適切に配置する
・ 不要なスタブを短くする
・ 専用差動コネクタを検討する
非対称なテストポイントは、差動信号のモード変換やCMRR低下の原因になります。
■プローブ校正治具
プローブ校正治具は、既知の信号をプローブへ入力し、利得、オフセット、周波数応答などを確認するために使用します。
代表的な用途は以下の通りです。
・ プローブ補正
・ DC利得確認
・ オフセット確認
・ 周波数応答確認
・ 立上り時間確認
・ 差動入力のバランス確認
・ 電圧プローブと電流プローブのデスキュー
校正治具の周波数帯域と接続構造が測定対象に対して十分であることを確認します。
■デスキュー治具
デスキュー治具は、電圧プローブと電流プローブ、または複数のプローブ間の伝搬遅延差を補正するために使用します。
同じタイミングで変化する既知の電圧信号と電流信号を各プローブへ入力し、オシロスコープ上で波形の時間位置を合わせます。
主な用途は以下の通りです。
・ スイッチング損失測定
・ 電力測定
・ 複数相のタイミング比較
・ 差動信号測定
・ 複数チャンネルの時間相関
プローブ間の遅延差を補正しないと、電圧と電流の積から求める瞬時電力に大きな誤差が生じる場合があります。
■50Ω終端アダプタ
50Ω終端アダプタは、オシロスコープの高インピーダンス入力へ50Ω終端を追加するために使用します。
主な用途は以下の通りです。
・ 50Ω同軸信号
・ 信号発生器の出力
・ 電流トランス
・ RF検出器
・ 50Ω出力のプローブ
終端アダプタを使用すると、測定対象から電流が流れ、消費電力が発生します。
入力電圧が高い場合、終端抵抗の定格電力を超える可能性があります。最大入力電圧と最大電力を確認します。
■フィードスルー終端
フィードスルー終端は、BNC入力と出力を持ち、信号経路へ規定の終端抵抗を接続するアダプタです。
オシロスコープ入力で50Ω終端を形成する用途などに使用します。
信号源、ケーブル、終端をすべて同じ特性インピーダンスへ合わせることで、信号反射を抑えられます。
ただし、終端アダプタ、ケーブル、変換コネクタの帯域幅が不足すると、測定システム全体の性能が低下します。
■高電圧用アクセサリ
高電圧測定には、絶縁構造と安全定格を持つ専用アクセサリを使用します。
代表的なアクセサリは以下の通りです。
・ 高電圧用ワニ口クリップ
・ 絶縁フッククリップ
・ 格納式テストチップ
・ 絶縁延長リード
・ 高電圧用プローブホルダー
・ 安全バナナプラグ
・ 絶縁カバー
アクセサリごとに最大使用電圧と測定カテゴリが規定されています。
プローブ本体より定格の低いアクセサリを使用した場合、測定システム全体の定格はアクセサリの値へ制限されます。
■アクセサリによる帯域幅低下
プローブ本体が広帯域であっても、接続アクセサリによって実際の帯域幅が低下する場合があります。
特に影響が大きいものは以下の通りです。
・ 長い接続リード
・ 長いグランドリード
・ フックチップ
・ ワニ口クリップ
・ 複数の変換アダプタ
・ 低帯域の同軸ケーブル
・ 不適切なPCBテストポイント
アクセサリのデータシートに周波数特性が記載されている場合は、プローブ本体と組み合わせたシステム性能を確認します。
■アクセサリによる入力容量の増加
フックチップ、クリップ、延長リード、PCBパッドなどを追加すると、プローブ先端の入力容量が増加する場合があります。
入力容量が増えると、高周波における入力インピーダンスが低下し、測定対象への負荷が大きくなります。
高速信号では、以下の影響が発生する可能性があります。
・ 立上り時間の増加
・ 信号振幅の低下
・ リンギングの変化
・ 回路タイミングの変化
・ 発振条件の変化
測定ポイントへ接続できることだけでなく、アクセサリを含めた入力容量を確認します。
■コネクタの取り扱い
SMA、MCX、MMCXなどの小型同軸コネクタは、機械的な取り扱いによって性能が変化する場合があります。
主な注意点は以下の通りです。
・ コネクタを斜めに挿入しない
・ ケーブル部分を引っ張って外さない
・ 中心ピンを曲げない
・ 端子面へ汚れを付着させない
・ SMAは指定トルクで締め付ける
・ 不要な着脱を繰り返さない
・ ケーブルへ急な曲げを加えない
コネクタの損傷は、接触不良、反射、挿入損失、測定再現性の低下につながります。
■アクセサリの選定ポイント
プローブ用治具とアクセサリを選定する際は、以下の項目を確認します。
・ 使用するプローブとの互換性
・ 測定ポイントの形状と間隔
・ 必要な周波数帯域
・ 特性インピーダンス
・ 入力容量と寄生インダクタンス
・ 最大入力電圧
・ 測定カテゴリ(CAT)
・ 必要な絶縁性能
・ 機械的な保持力
・ 繰り返し着脱回数
・ ケーブル長
・ 校正の必要性
外形だけで判断せず、電気的性能と安全定格を確認します。
■まとめ
プローブ用治具、変換アダプタ、PCBアクセサリは、測定対象とプローブを安定して接続し、測定の再現性と作業効率を向上させるために使用します。
プローブホルダーとポジショナは接触位置を固定し、はんだ付け式リードや同軸アクセサリは高速・低ノイズ測定に適した短い接続を実現します。
SMA、MCX、MMCXなどの基板コネクタを設けると、繰り返し測定の再現性を高められます。一方、長いリードや複数の変換アダプタは、帯域幅の低下、入力容量の増加、反射、ノイズなどの原因になります。
適切なアクセサリを選ぶには、接続形状だけでなく、帯域幅、特性インピーダンス、入力容量、最大入力電圧、安全定格、プローブとの互換性を確認することが重要です。
■T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いアクセサリ
T&Mコーポレーション株式会社では、各種オシロスコープ用プローブに加えて、プローブホルダー、ポジショナ、変換アダプタ、グランドスプリング、はんだ付け式リード、同軸接続アクセサリ、校正・デスキュー治具などを取り扱っております。
測定ポイントの形状、必要な周波数帯域、接続方法、最大電圧、安全規格、使用するプローブとオシロスコープなどに応じて、適切な治具とアクセサリをご提案いたします。製品の選定、仕様、対応機種、お見積りなどについては、T&Mコーポレーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。













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