シングルエンド測定と差動測定の違い

オシロスコープで電圧を測定する方法には、主にシングルエンド測定と差動測定があります。

シングルエンド測定は回路のGNDを基準として1点の電圧を測定し、差動測定は2つの測定ポイント間の電位差を測定します。

測定方法を誤ると、波形が正しく表示されないだけでなく、回路の短絡、測定器の損傷、感電などにつながる可能性があります。

ここでは、シングルエンド測定と差動測定の違い、それぞれに適したプローブ、代表的な用途、安全上の注意点について解説します。

 
 
シングルエンド測定とは

シングルエンド測定は、測定対象のGNDを基準として、1つの測定ポイントの電圧を測定する方法です。

一般的なパッシブプローブは、プローブチップとグランドリードの2つの接続部を持ちます。

プローブチップを信号へ接続し、グランドリードを回路のGNDへ接続します。

測定される電圧は以下のように表されます。

測定電圧=信号ポイントの電圧-GNDの電圧

回路の基準電位がオシロスコープの保護接地と同じ場合に使用できる、最も一般的な測定方法です。

 
 
シングルエンド測定の主な用途

シングルエンド測定は、以下のような信号の測定に使用されます。

・ マイコンのGPIO信号
・ 接地基準のクロック信号
・ アナログ回路の入出力
・ 低電圧電源ライン
・ センサ出力
・ オーディオ信号
・ 接地基準の制御信号
・ 接地基準の高電圧信号

一般的な電子回路では、パッシブプローブまたはシングルエンド型アクティブプローブを使用します。

高電圧のシングルエンド測定には、電圧定格と測定カテゴリに適合した高電圧プローブが必要です。

 
 
シングルエンドプローブのグランド

一般的なベンチトップ型オシロスコープでは、BNCコネクタの外部導体が電源コードの保護接地へ接続されています。

そのため、接続したシングルエンドプローブのグランドリードも保護接地と同じ電位になります。

グランドリードを接地電位以外のポイントへ接続すると、そのポイントが保護接地へ短絡されます。

これにより、以下の危険が生じます。

・ 回路に大電流が流れる
・ 部品や配線が損傷する
・ プローブやオシロスコープが損傷する
・ 火花やアーク放電が発生する
・ 測定者が感電する
・ 火災が発生する

シングルエンドプローブのグランドリードは、回路の接地基準点へ接続します。

 
 
複数チャンネルのグランド

一般的なオシロスコープでは、複数の入力チャンネルに接続されたBNCコネクタの外部導体が、内部で共通接続されています。

したがって、各チャンネルのプローブグランドも同じ電位です。

チャンネル1のグランドを回路上のGNDへ接続し、チャンネル2のグランドを別の電位へ接続すると、その2点がオシロスコープ内部で短絡される可能性があります。

複数のシングルエンドプローブを使用する場合は、すべてのグランドリードを同じ基準電位へ接続します。

 
 
差動測定とは

差動測定は、2つの測定ポイント間の電位差を測定する方法です。

プラス側の測定ポイントをV+、マイナス側の測定ポイントをV-とすると、差動電圧は以下の式で表されます。

差動電圧=V+-V-

例えば、V+が12V、V-が10Vの場合、差動電圧は2Vです。

2つの測定ポイントが接地電位にない場合や、両方の信号線が変化する差動信号を測定する場合に使用します。

 
 
差動測定の主な用途

差動測定は、以下のような信号の測定に使用されます。

・ 差動クロック
・ 差動データ信号
・ USB、HDMI、PCI Expressなどの高速インターフェース
・ スイッチング電源のハイサイド回路
・ インバータやモータドライブ
・ ハーフブリッジ回路
・ 電流検出抵抗の両端電圧
・ ブリッジセンサ
・ オーディオ回路のバランス出力
・ 接地電位の異なる2点間の電圧

測定電圧、コモンモード電圧、周波数帯域に適した差動プローブを使用します。

 
 
差動信号とは

差動信号は、2本の信号線の電位差によって情報を伝送する信号です。

一方の信号が上昇すると、もう一方の信号が下降する相補的な動作をする場合があります。

差動伝送には、以下のような利点があります。

・ 外来ノイズの影響を抑えやすい
・ グランド電位差の影響を受けにくい
・ 高速信号を伝送しやすい
・ 放射ノイズを抑えやすい
・ 小さい電圧振幅で動作できる

差動信号の評価では、差動電圧だけでなく、各信号のシングルエンド波形、コモンモード電圧、信号間スキューも確認する場合があります。

 
 
コモンモード電圧とは

コモンモード電圧は、差動入力のプラス側とマイナス側に共通して加わる対地電圧成分です。

一般的には以下の式で表されます。

コモンモード電圧=(V++V-)÷2

例えば、V+が402V、V-が400Vの場合、差動電圧は2V、コモンモード電圧は401Vです。

この測定には、2Vの差動信号を測定できるだけでなく、401Vのコモンモード電圧へ対応した差動プローブが必要です。

 
 
コモンモード除去比(CMRR)

コモンモード除去比(CMRR:Common Mode Rejection Ratio)は、差動プローブが両入力に共通する信号をどの程度除去できるかを示す性能です。

CMRRが高いほど、大きなコモンモード信号の中から小さな差動信号を正確に測定できます。

実際の差動プローブでは、コモンモード信号を完全に除去することはできません。

また、CMRRは一般的に周波数が高くなるほど低下します。

高電圧スイッチング回路や高速差動信号では、CMRRの値だけでなく、その値が規定されている周波数も確認します。

 
 
シングルエンド測定の利点

シングルエンド測定には、以下のような利点があります。

・ 接続方法が簡単
・ 一般的なパッシブプローブを使用できる
・ 幅広い周波数帯域に対応しやすい
・ 比較的低価格で測定できる
・ 複数チャンネルを使用しやすい
・ 高い入力抵抗を得やすい
・ 広い電圧範囲を測定しやすい

回路のGNDを基準とする一般的な信号では、シングルエンド測定が適しています。

 
 
シングルエンド測定の制限

シングルエンド測定には、以下の制限があります。

・ グランドリードを接地電位へ接続する必要がある
・ 接地電位にない2点間の測定には適さない
・ 長いグランドリードがノイズを拾いやすい
・ グランドループが発生する場合がある
・ 高いコモンモード電圧へ対応できない
・ 差動信号を直接測定できない

接地されていない信号をシングルエンドプローブで測定するために、オシロスコープの保護接地を切断してはいけません。

 
 
差動測定の利点

差動測定には、以下のような利点があります。

・ 2点間の電位差を直接測定できる
・ 差動信号を1チャンネルで観測できる
・ 共通するノイズを抑制できる
・ 接地電位にない信号を測定できる
・ ハイサイド回路を測定できる
・ 入力間のバランスを維持しやすい
・ 2本のシングルエンドプローブによる演算より精度を得やすい

ただし、測定電圧と安全条件に適した差動プローブを選ぶ必要があります。

 
 
差動測定の制限

差動プローブには、以下の制限があります。

・ 差動入力範囲が規定されている
・ コモンモード入力範囲が規定されている
・ 最大入力電圧を超えて使用できない
・ CMRRが周波数によって低下する
・ シングルエンドプローブより高価な場合が多い
・ 電源が必要な場合がある
・ 対応するオシロスコープが限定される場合がある

差動電圧が小さくても、各入力端子の対地電圧が定格を超えている場合は使用できません。

 
 
2本のプローブによる差動測定

2本のシングルエンドプローブを使用し、オシロスコープの演算機能でチャンネル間の差を求める方法があります。

チャンネル1をV+、チャンネル2をV-へ接続し、以下の演算を行います。

差動電圧=CH1-CH2

この方法は簡易的な差動測定として使用できますが、以下の誤差要因があります。

・ プローブ間の減衰比誤差
・ チャンネル間の利得誤差
・ プローブ間の伝搬遅延差
・ 入力容量の差
・ 補正状態の差
・ チャンネル間スキュー
・ オシロスコープ入力間の差
・ CMRRの不足

大きなコモンモード電圧から小さな差動信号を求める測定には適していません。

 
 
2本のプローブのグランド接続

2本のシングルエンドプローブで差動演算を行う場合も、両方のグランドリードは同じ接地基準点へ接続します。

それぞれのグランドリードをV+とV-へ接続してはいけません。

一般的なオシロスコープではチャンネル間のグランドが内部で共通接続されているため、2つの測定ポイントが短絡されます。

差動演算で測定できるのは、V+とV-の両方がオシロスコープの接地基準に対して安全な電圧範囲にある場合だけです。

 
 
差動プローブと絶縁プローブの違い

差動プローブは2点間の電位差を測定しますが、すべての差動プローブが測定対象とオシロスコープを電気的に絶縁しているわけではありません。

一般的な差動プローブは、差動アンプによってコモンモード信号を除去します。

絶縁プローブや光アイソレーション差動プローブは、測定対象とオシロスコープの信号伝送経路を電気的に分離します。

高いコモンモード電圧や高いdv/dtが存在する測定では、一般的な差動プローブより光アイソレーション差動プローブが適している場合があります。

 
 
フローティング測定

フローティング測定は、測定ポイントのどちらも接地電位に固定されていない状態で2点間の電圧を測定する方法です。

代表的な測定対象は以下の通りです。

・ ハイサイドスイッチ
・ ブリッジ回路
・ モータドライブ
・ 絶縁電源の二次側
・ 接地されていないセンサ
・ 高電位側の電流検出抵抗

フローティング測定には、適切な差動プローブ、絶縁プローブ、または絶縁入力オシロスコープを使用します。

一般的なオシロスコープの保護接地を切断してフローティングさせる方法は危険です。

 
 
差動測定時の入力範囲

差動プローブを使用する際は、以下の電圧範囲を確認します。

・ 差動入力範囲
・ コモンモード入力範囲
・ 各入力端子の対地電圧
・ 最大非破壊入力電圧
・ オフセット範囲
・ 測定カテゴリ(CAT)
・ 周波数に対する電圧ディレーティング

これらの仕様は互いに異なります。

差動入力範囲内であっても、コモンモード入力範囲や対地電圧定格を超えている場合は測定できません。

 
 
差動信号の接続方法

高速差動信号を測定する場合は、プラス側とマイナス側の接続を対称にすることが重要です。

以下の点を確認します。

・ 両入力のリード長を揃える
・ 両入力を近接させる
・ 接続ループを小さくする
・ 同じ種類のチップを使用する
・ 片側だけに長い延長リードを使用しない
・ 差動ペアの近くへ接続する
・ 不要なスタブを短くする

接続が非対称になると、コモンモード信号が差動信号へ変換され、CMRRが低下します。

 
 
単端信号を差動プローブで測定する場合

差動プローブを使用して、接地基準の単端信号を測定することもできます。

プラス入力を信号へ接続し、マイナス入力を回路のGNDへ接続します。

この方法は、グランドループや高周波ノイズの影響を抑えたい場合に有効なことがあります。

ただし、差動プローブの入力範囲、コモンモード範囲、入力容量、ノイズなどが測定目的に適していることを確認します。

 
 
シングルエンド測定を選ぶ場合

以下の条件では、シングルエンド測定が適しています。

・ 測定信号が回路のGNDを基準としている
・ 測定ポイントと保護接地の電位差が小さい
・ 一般的な低電圧信号を測定する
・ 多数のチャンネルを同時に測定する
・ 広いダイナミックレンジが必要
・ 高い入力抵抗が必要
・ 特別な絶縁が不要

最初にグランド電位を確認し、安全に接続できることを確認します。

 
 
差動測定を選ぶ場合

以下の条件では、差動測定が適しています。

・ 2点間の電位差を測定する
・ 測定ポイントが接地されていない
・ 差動信号を測定する
・ ハイサイド回路を測定する
・ 大きなコモンモード電圧が存在する
・ 共通ノイズを除去したい
・ グランドループを抑えたい
・ 電流検出抵抗の両端を測定する

測定対象の電圧、周波数、CMRR、安全規格に適した差動プローブを選びます。

 
 
測定方法を選ぶ際の確認項目

シングルエンド測定と差動測定を選ぶ際は、以下の項目を確認します。

・ 測定ポイントの基準電位
・ 測定する2点間の電圧
・ 各測定ポイントの対地電圧
・ コモンモード電圧
・ 信号の周波数と立上り時間
・ 必要なCMRR
・ 必要な入力抵抗と入力容量
・ 最大入力電圧
・ 測定カテゴリ(CAT)
・ 絶縁の必要性
・ オシロスコープとの互換性

測定電圧が低い場合でも、対地電圧やコモンモード電圧が高い場合があるため注意が必要です。

 
 
まとめ

シングルエンド測定は、回路のGNDを基準として1つの測定ポイントの電圧を測定する方法です。

差動測定は、2つの測定ポイント間の電位差を測定する方法です。

接地基準の一般的な信号にはシングルエンドプローブ、差動信号、ハイサイド回路、フローティング信号には差動プローブを使用します。

一般的なオシロスコープのプローブグランドは保護接地へ接続されているため、高電位側へ接続してはいけません。また、2本のシングルエンドプローブによる差動演算には、利得差、スキュー、CMRRなどの制限があります。

正確で安全な測定を行うには、差動電圧だけでなく、対地電圧、コモンモード電圧、周波数帯域、安全定格を確認し、測定対象に適した方法を選択することが重要です。

 
 
T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ

T&Mコーポレーション株式会社では、パッシブプローブ、アクティブプローブ、差動プローブ、高電圧差動プローブ、光アイソレーション差動プローブなど、シングルエンド測定と差動測定に対応した各種プローブを取り扱っております。

測定ポイントの基準電位、差動電圧、コモンモード電圧、周波数帯域、絶縁性能、安全規格、使用するオシロスコープなどに応じて、適切な測定方法とプローブをご提案いたします。プローブの選定、製品仕様、対応機種、お見積りなどについては、T&Mコーポレーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。

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