プローブの最大入力電圧とディレーティング

プローブの最大入力電圧は、プローブへ安全に加えることができる電圧の上限です。ただし、データシートに記載された最大値を、すべての周波数や使用条件で印加できるとは限りません。

信号周波数が高くなると、プローブ内部の抵抗、容量、絶縁構造などに加わる負担が変化します。そのため、周波数に応じて許容入力電圧を下げるディレーティングが必要です。

 
 
最大入力電圧とは

最大入力電圧とは、指定された条件下でプローブ入力へ印加できる電圧の上限です。

最大入力電圧を超えると、次のような危険があります。

・ プローブ内部部品の破損
・ 絶縁破壊
・ 異常発熱
・ アーク放電
・ オシロスコープの損傷
・ 測定対象回路の短絡
・ 感電や火災

最大入力電圧は、測定可能な範囲だけでなく、安全に関係する重要な仕様です。

 
 
最大入力電圧の表記方法

プローブの最大入力電圧は、次のような形式で表記されます。

・ 最大DC電圧
・ 最大AC RMS電圧
・ 最大ピーク電圧
・ DC+ピークAC電圧
・ ピーク・ツー・ピーク電圧
・ 最大差動入力電圧
・ 各入力から接地までの最大電圧
・ 非破壊最大入力電圧
・ 測定カテゴリ付き定格

これらは同じ意味ではありません。測定信号の種類と波形に合わせて、該当する定格を確認します。

 
 
DC電圧・RMS電圧・ピーク電圧の違い

直流電圧、実効値、ピーク値は、異なる方法で電圧を表します。

正弦波の場合、RMS値とピーク値には一定の関係があります。しかし、パルス波形、スイッチング波形、歪んだ交流波形では、単純な正弦波の換算を使用できない場合があります。

測定時には、次のすべてを確認します。

・ 直流成分
・ 交流成分の実効値
・ 正方向のピーク電圧
・ 負方向のピーク電圧
・ オーバーシュート
・ アンダーシュート
・ 過渡的なサージ電圧

信号の定常値が仕様内でも、過渡的なピークが最大入力電圧を超える可能性があります。

 
 
測定範囲と非破壊最大入力電圧の違い

測定範囲は、プローブが仕様どおりの精度で波形を測定できる電圧範囲です。

非破壊最大入力電圧は、直ちに破損しない入力上限を示す場合がありますが、その範囲で正確に測定できることを意味するものではありません。

測定範囲を超えると、プローブが破損していなくても、次の現象が発生します。

・ 波形のクリッピング
・ アンプの飽和
・ 振幅誤差
・ 波形歪み
・ 長いオーバードライブ回復時間
・ オフセット誤差の増加

通常の測定では、仕様が保証されている測定範囲内で使用します。

 
 
ディレーティングとは

ディレーティングとは、周波数、温度、高度、使用時間などの条件に応じて、機器へ加える電圧や電力を定格値より低く制限することです。

プローブでは、特に周波数に対する電圧ディレーティングが重要です。

データシートには、横軸を周波数、縦軸を許容入力電圧としたディレーティング曲線が記載される場合があります。この曲線より低い電圧範囲で使用する必要があります。

 
 
周波数が高くなると許容電圧が下がる理由

プローブ内部には、抵抗、コンデンサ、ケーブル、補償回路などが使用されています。

周波数が高くなると、入力容量を通じて流れる電流が増加し、プローブ内部の部品へ加わる電力や電圧分布が変化します。その結果、発熱、絶縁ストレス、部品負担などが増える場合があります。

このため、多くのプローブでは、低周波で最大入力電圧を使用できても、高周波では許容電圧が低くなります。

プローブの帯域幅内であっても、最大電圧を印加できるとは限りません。

 
 
帯域幅と最大入力電圧は別の仕様

帯域幅は、プローブが信号の振幅と波形をどの周波数まで伝送できるかを示します。

最大入力電圧は、安全および耐電圧に関する上限です。帯域幅が広いことは、高周波で高い電圧を測定できることを意味しません。

例えば、高い帯域幅を持つプローブでも、周波数の上昇に伴って最大入力電圧が大幅に低下する場合があります。

選定時には、次の両方を確認します。

・ 測定信号に必要な帯域幅
・ その周波数における許容入力電圧

最大入力電圧の代表値だけで判断しないことが重要です。

 
 
パッシブプローブの最大入力電圧

パッシブプローブでは、プローブ本体だけでなく、オシロスコープ入力の最大電圧も確認します。

プローブの減衰比によってオシロスコープへ入力される電圧は低くなりますが、プローブ先端、補償回路、ケーブルおよびコネクタにはそれぞれ電圧定格があります。

次のうち、最も低い定格が測定システム全体の上限になります。

・ プローブ本体
・ プローブチップ
・ グランドリード
・ 入力ケーブル
・ BNCコネクタ
・ オシロスコープ入力
・ 使用するアダプタやアクセサリ

10Xまたは100Xの減衰比であっても、無制限に高い電圧を測定できるわけではありません。

 
 
差動プローブで確認すべき電圧

差動プローブでは、単一の最大入力電圧だけでなく、複数の電圧定格を確認します。

・ 最大差動入力電圧
・ 差動測定範囲
・ コモンモード電圧範囲
・ プラス入力から接地までの最大電圧
・ マイナス入力から接地までの最大電圧
・ 非破壊最大入力電圧
・ 過渡過電圧に対する定格

差動電圧が小さくても、各入力から接地までの電圧が定格を超える場合があります。

例えば、2つの入力が接地に対してそれぞれ1,000Vと990Vであれば、差動電圧は10Vです。しかし、各入力には約1,000Vが加わっているため、その電圧に対応したプローブが必要です。

 
 
コモンモード電圧と最大入力電圧

コモンモード電圧は、差動プローブの両入力に共通して加わる電圧成分です。

コモンモード電圧範囲を超えると、差動電圧が測定範囲内であっても、正確な波形を得られません。入力回路が飽和したり、CMRRが低下したりする可能性があります。

安全確認では、次の条件をすべて満たす必要があります。

・ 差動電圧が許容範囲内である
・ コモンモード電圧が許容範囲内である
・ 各入力から接地までの電圧が定格内である
・ 周波数ディレーティング後の電圧範囲内である
・ 過渡電圧を含めて安全定格内である

いずれか一つでも超える場合、その構成では測定できません。

 
 
オフセット範囲と最大入力電圧の違い

オフセット機能は、大きな直流成分を表示上で差し引き、小さな変動成分を拡大して観測するために使用します。

ただし、オフセットを設定しても、プローブ入力へ実際に加わる電圧は変わりません。

例えば、50Vの直流電圧へ-50Vのオフセットを設定しても、プローブには50Vが入力されています。そのため、次の条件をすべて確認します。

・ プローブの最大入力電圧
・ 測定可能なダイナミックレンジ
・ オフセット設定範囲
・ オシロスコープの表示範囲

オフセット範囲が広いことは、最大入力電圧が高いことを意味しません。

 
 
過渡電圧とオーバーシュートへの注意

スイッチング回路では、定常状態の電圧より高いオーバーシュートやサージが発生します。

最大入力電圧を判断するときは、公称電圧ではなく、最悪条件におけるピーク電圧を使用します。

過渡電圧が大きくなりやすい条件には、次のものがあります。

・ 負荷電流が大きい
・ スイッチング速度が速い
・ 配線の寄生インダクタンスが大きい
・ 回生動作が発生する
・ モーターやトランスを接続している
・ 電源投入または遮断を行う
・ 雷サージや開閉サージが侵入する

測定前に低い電圧条件で波形を確認し、予想される過渡電圧を含めて余裕のあるプローブを選択します。

 
 
パルス信号の最大入力電圧

短時間のパルスであっても、最大入力電圧を超えてよいとは限りません。

プローブによっては、パルス幅、デューティ比、繰返し周波数などの条件付きで、過渡的な入力定格が規定されている場合があります。条件が明記されていない場合は、独自に許容できると判断してはいけません。

パルス測定では、次の項目を確認します。

・ パルスのピーク電圧
・ パルス幅
・ 繰返し周波数
・ デューティ比
・ 立上り時間と立下り時間
・ 直流バイアス電圧
・ 周波数ディレーティング
・ メーカーが規定するパルス定格

繰返しパルスでは、平均的な発熱も考慮する必要があります。

 
 
アクセサリによる定格低下

プローブ本体が高い電圧に対応していても、使用するアクセサリの定格が低い場合があります。

特に注意が必要なアクセサリには、次のものがあります。

・ ワニ口クリップ
・ フックチップ
・ テストリード
・ 延長リード
・ グランドリード
・ バナナ変換アダプタ
・ BNC変換アダプタ
・ PCB接続アクセサリ

アクセサリを交換すると、最大入力電圧、CAT定格、帯域幅、沿面距離などが変わることがあります。

測定システム全体の定格は、構成部品の中で最も低い定格によって決まります。

 
 
測定カテゴリによる違い

同じ電圧値でも、測定する場所によって想定される過渡過電圧の大きさが異なります。

測定カテゴリは、配電系統における測定場所と過渡電圧への耐性を表します。一般にCAT II、CAT III、CAT IVの順に、より大きな過渡電圧への対応が求められます。

例えば、CAT II 1,000Vの定格があるプローブを、同じ1,000VのCAT III環境で使用できるとは限りません。

確認すべき項目は、次のとおりです。

・ 定格電圧
・ CAT区分
・ 接地に対する電圧
・ 想定される過渡過電圧
・ 使用するアクセサリのCAT定格
・ 測定器本体のCAT定格

CAT定格のない高電圧プローブは、カテゴリ測定環境で使用できない場合があります。

 
 
温度・高度・汚染度の影響

プローブの電圧定格は、規定された使用環境を前提としています。

高温では部品の発熱や絶縁材料の特性が変化する場合があります。また、高度が高くなると気圧が低下し、空気による絶縁性能が低下します。

ほこり、湿気、結露、導電性の汚染物質も、絶縁性能へ影響します。

使用前には、次の環境条件を確認します。

・ 動作温度範囲
・ 保管温度範囲
・ 使用高度
・ 相対湿度
・ 汚染度
・ 屋内または屋外使用の条件
・ 結露の有無

メーカーが規定する環境範囲を超えて使用しないでください。

 
 
ディレーティング曲線の読み方

ディレーティング曲線を確認するときは、測定信号に含まれる最も高い周波数成分と、その周波数における電圧を考慮します。

基本的な確認手順は、次のとおりです。

・ 測定する波形の最大ピーク電圧を確認する
・ 直流成分と交流成分を確認する
・ 信号の基本周波数を確認する
・ 立上り時間から高周波成分を考慮する
・ ディレーティング曲線上の許容電圧を確認する
・ 過渡電圧と測定誤差を考慮して余裕を確保する

方形波やスイッチング波形は、高調波成分を含みます。基本周波数だけで判断せず、波形の立上り時間も考慮します。

 
 
安全余裕の考え方

測定条件を最大定格ぎりぎりに設定すると、電源変動、負荷変動、部品ばらつき、過渡現象などによって定格を超える可能性があります。

プローブの選定では、通常動作時の電圧だけでなく、次の最悪条件を考慮します。

・ 電源電圧の上限
・ 無負荷時と最大負荷時
・ 起動時と停止時
・ 異常動作時
・ 回生時
・ スイッチングオーバーシュート
・ 予想されるサージ電圧
・ 測定環境の温度と高度

必要な安全余裕は用途や規格によって異なります。メーカーの取扱説明書と適用される安全規格に従ってください。

 
 
使用前の確認事項

高電圧測定を開始する前に、次の項目を確認します。

・ プローブ本体に損傷や汚れがない
・ 入力リードの絶縁被覆に亀裂がない
・ コネクタやクリップに変形がない
・ プローブとオシロスコープの定格が適合している
・ 測定電圧がディレーティング後の範囲内である
・ 使用するアクセサリが測定環境に対応している
・ 測定カテゴリが適切である
・ 接続方法が取扱説明書に適合している

高電圧回路への接続と取り外しは、可能な限り回路の電源を切り、残留電荷がないことを確認してから行います。

 
 
まとめ

プローブの最大入力電圧は、指定された条件下で許容される入力電圧の上限です。測定範囲、非破壊最大入力電圧、差動電圧範囲、コモンモード電圧範囲は、それぞれ異なる仕様です。

また、プローブの許容入力電圧は周波数の上昇に伴って低下する場合があります。プローブの帯域幅内であっても、最大電圧を測定できるとは限りません。

測定前には、ピーク電圧、過渡電圧、周波数、立上り時間、CAT定格、アクセサリおよび使用環境を確認し、ディレーティング曲線の範囲内で使用することが重要です。

 
 
T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ

T&Mコーポレーション株式会社では、高電圧測定に対応する高電圧パッシブプローブ、高電圧差動プローブ、光アイソレーションプローブ、絶縁測定システムおよび各種安全アクセサリを取り扱っています。

インバータ、スイッチング電源、モータードライブ、SiC・GaNパワー半導体など、測定対象のピーク電圧、周波数、コモンモード電圧、CAT定格およびディレーティング条件に応じた製品をご提案します。プローブの選定や安全な測定構成についても、お気軽にお問い合わせください。

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