ホール効果式電流プローブの原理
ホール効果式電流プローブは、導体を切断せずに交流電流と直流電流を測定できるプローブです。
導体の周囲に発生する磁界を磁気コアへ集め、ホール素子で検出して電圧信号へ変換します。電源回路、インバータ、モータードライブ、バッテリ、パワー半導体などの電流波形測定に広く使用されています。
■ホール効果とは
ホール効果とは、電流が流れている半導体や導体へ、その電流と直角方向の磁界を加えたとき、両方に直角な方向へ電圧が発生する現象です。
このとき発生する電圧をホール電圧と呼びます。ホール電圧は、加えられた磁界の強さに応じて変化します。
ホール効果式電流プローブでは、測定導体の周囲に発生する磁界をホール素子で検出し、導体を流れる電流値へ変換します。
■電流と磁界の関係
導体に電流が流れると、その周囲に磁界が発生します。磁界の向きは電流の方向によって変わり、磁界の強さは電流の大きさに応じて変化します。
電流プローブは、この磁界を利用して電流を測定します。
測定導体とプローブの入力回路は直接電気接続されないため、シャント抵抗を挿入する方法と比べて、測定回路へ与える電気的な影響を小さくできます。
■ホール効果式電流プローブの構造
一般的なホール効果式電流プローブは、次の部分で構成されます。
・ 開閉式の磁気コア
・ ホール素子
・ 補償コイル
・ 信号増幅回路
・ ゼロ調整回路
・ 消磁回路
・ 出力ケーブル
・ 電源回路
・ クランプ開閉機構
測定導体を磁気コアで囲むことによって、導体周辺の磁束を効率よくホール素子へ導きます。
■磁気コアの役割
磁気コアは、測定導体の周囲に発生する磁束を集め、ホール素子へ導く役割を持ちます。
開閉式の電流プローブでは、クランプを開いて導体を挟み、閉じた状態で磁気回路を形成します。
クランプの接合面に汚れ、異物、傷などがあると、磁気ギャップが増加して感度や周波数特性へ影響する場合があります。測定時には、クランプが完全に閉じていることを確認します。
■ホール素子の役割
ホール素子は、磁気コアに発生した磁束を電圧へ変換します。
磁束の方向が変わるとホール電圧の極性も変わるため、電流の大きさだけでなく方向も検出できます。このため、ホール効果式電流プローブは直流電流を測定できます。
交流専用の電流トランス方式では直流成分を測定できませんが、ホール素子を使用するとDCから一定の高周波範囲まで測定できます。
■オープンループ方式とは
オープンループ方式は、ホール素子が検出した磁界を直接増幅し、電流値として出力する方式です。
構造が比較的簡単で、大電流測定に適しています。一方、ホール素子の直線性、温度特性、磁気コアの特性などが測定精度へ影響します。
オープンループ方式の主な特徴は、次のとおりです。
・ 構造が比較的簡単
・ 大電流へ対応しやすい
・ 消費電力を抑えやすい
・ 直流と交流を測定できる
・ 温度ドリフトの影響を受ける場合がある
・ クローズドループ方式より精度が低い場合がある
製品によって性能が異なるため、用途に応じて仕様を確認します。
■クローズドループ方式とは
クローズドループ方式は、ホール素子が検出した磁束を打ち消す方向に、補償コイルへ電流を流す方式です。ゼロフラックス方式または磁束零位方式と呼ばれることもあります。
補償コイルに流れる電流は、測定導体を流れる電流に比例します。この補償電流を検出して、オシロスコープへ出力します。
クローズドループ方式の主な特徴は、次のとおりです。
・ 高い直線性
・ 高い測定精度
・ 低い温度ドリフト
・ 広い周波数帯域
・ 磁気コアの非線形性を抑えやすい
・ 外部電源または専用電源が必要
・ 補償回路の電流能力によって測定範囲が制限される
高速スイッチング電流や微小電流の測定には、クローズドループ方式がよく使用されます。
■直流電流を測定できる理由
電流トランス方式では、磁束の変化によって二次側へ電圧を発生させるため、一定の直流電流を測定できません。
ホール効果式では、磁束そのものをホール素子で検出します。このため、磁束が変化しない直流電流でも測定できます。
ホール効果式電流プローブの代表的な測定帯域は、DCから規定された上限周波数までです。
ただし、低周波側ではゼロ点ドリフト、高周波側では磁気コア、補償回路、クランプ構造などが測定精度へ影響します。
■交流成分の測定方法
ホール効果式電流プローブでは、低周波および直流成分をホール素子で検出し、高周波成分を補助巻線や電流トランス部分で検出する構造が使用される場合があります。
それぞれの検出信号を内部で合成することで、DCから高周波までの広い帯域を実現します。
合成部の特性が適切でないと、特定の周波数でゲイン誤差や位相誤差が発生する可能性があります。そのため、電力測定では振幅特性だけでなく位相特性も重要です。
■電流プローブの出力感度
電流プローブの出力は、一般的に電流に比例する電圧として表されます。
例えば、出力感度が100mV/Aの場合、1Aの電流に対して100mVが出力されます。10Aでは、理想的には1Vが出力されます。
オシロスコープへプローブ情報が自動認識される製品では、画面上にアンペア単位で表示できます。自動認識されない場合は、プローブの感度に合わせて換算係数を設定します。
■電流方向と出力極性
電流プローブには、電流方向を示す矢印が表示されています。
導体を流れる電流が矢印と同じ方向であれば、通常は正極性の波形として表示されます。反対方向であれば、負極性として表示されます。
測定前に、次の点を確認します。
・ プローブの矢印方向
・ 回路内の想定電流方向
・ オシロスコープの極性設定
・ 電圧波形との符号関係
・ 電力演算時の正負方向
電圧と電流から電力を演算する場合、電流プローブの方向が逆になると電力の符号も反転します。
■ゼロ調整が必要な理由
ホール素子、アンプ、磁気コアなどの影響によって、測定導体に電流が流れていなくても出力が完全に0Vにならない場合があります。
このずれを補正するため、測定前にゼロ調整を行います。
ゼロ調整時には、一般的に次の条件を整えます。
・ 測定導体をクランプから外す
・ クランプを完全に閉じる
・ プローブを十分にウォームアップする
・ 実際の測定に近い位置と方向に置く
・ 外部磁界の影響を避ける
・ 使用するレンジを選択してから調整する
周囲温度やプローブの姿勢が変わった場合は、再度ゼロ調整を行います。
■消磁が必要な理由
磁気コアへ大きな電流を加えたり、クランプを開閉したりすると、コアに残留磁気が残る場合があります。
残留磁気があると、電流が流れていない状態でも出力が発生し、直流測定の誤差になります。
消磁機能は、磁気コアへ減衰する交流磁界を加え、残留磁気を小さくします。消磁後にゼロ調整を行うことで、測定基準を整えます。
■磁気飽和とは
磁気飽和とは、磁気コアへ加わる磁束が大きくなり、それ以上磁束密度が増えにくくなる状態です。
磁気飽和が発生すると、次のような現象が現れます。
・ 波形のピークがつぶれる
・ 振幅が実際より小さく表示される
・ 波形が非対称になる
・ 直線性が低下する
・ ゼロ点がずれる
・ 過負荷後の回復に時間がかかる
ピーク電流が測定範囲内でも、大きな直流成分と交流成分の組み合わせによって飽和する場合があります。
■最大測定電流の確認
電流プローブには、連続最大電流とピーク最大電流が規定されています。
連続最大電流は、継続して測定できる電流です。ピーク最大電流は、規定された短時間だけ許容される電流であり、パルス幅、デューティ比、周波数などの条件が付く場合があります。
測定時には、次の項目を確認します。
・ 直流電流
・ 交流電流のRMS値
・ ピーク電流
・ パルス幅
・ デューティ比
・ 繰返し周波数
・ アンペア秒積
・ 導体温度
最大値を短時間だけ超えてもよいと独自に判断してはいけません。
■帯域幅と立上り時間
電流プローブの帯域幅は、測定できる電流変化の速さを決めます。
帯域幅が不足すると、次のような測定誤差が発生します。
・ ピーク電流が低く表示される
・ 立上り時間が長く表示される
・ 短いパルスを正しく観測できない
・ スイッチング損失の演算誤差が増える
・ リンギングや高周波成分が見えなくなる
スイッチング周波数だけでなく、電流波形の立上り時間と立下り時間に対応した帯域幅を選択します。
■挿入インピーダンスとは
電流プローブは導体を切断せずに測定できますが、磁気コアを装着することで、測定導体へわずかなインピーダンスを追加します。これを挿入インピーダンスと呼びます。
通常は小さな値ですが、高周波回路や低インピーダンス回路では、回路動作へ影響する場合があります。
確認すべき項目には、次のものがあります。
・ 周波数に対する挿入インピーダンス
・ クランプ位置
・ 導体の太さと形状
・ 測定回路のインピーダンス
・ 電流波形の高周波成分
高精度測定では、電流プローブも完全に非接触・無負荷ではないことを考慮します。
■外部磁界の影響
ホール効果式電流プローブは磁界を検出するため、周囲のトランス、インダクタ、モーター、大電流配線などの影響を受ける場合があります。
外部磁界によって、ゼロ点のずれ、ノイズ、周期的な波形などが発生する可能性があります。
影響を確認するには、次の方法が有効です。
・ プローブの向きを変える
・ 測定位置を変更する
・ 周囲の大電流配線から離す
・ 導体を挟まない状態で波形を確認する
・ 実際の測定位置でゼロ調整を行う
・ 複数のプローブを離して配置する
プローブの向きを変えたときに表示値が変化する場合は、外部磁界の影響が考えられます。
■クランプ接合面の影響
開閉式電流プローブでは、磁気コアの接合面が正しく接触することが重要です。
接合面に異物や汚れがあると磁気抵抗が増加し、次のような問題が発生します。
・ 感度の低下
・ 低周波特性の変化
・ 高周波特性の変化
・ ゼロ点の不安定化
・ 測定誤差の増加
・ 再現性の低下
接合面は柔らかい布などを使用し、メーカーが指定する方法で清掃します。磁気コアを傷つける研磨材や工具を使用してはいけません。
■導体の位置による測定誤差
クランプ内部における導体の位置によって、測定感度がわずかに変化する場合があります。
高精度に測定する場合は、導体をプローブに表示された基準位置へ配置します。また、複数の導体を同時に挟むと、各導体の電流がベクトル的に加算または相殺されます。
・ 1本の導体だけを挟む
・ 往路と復路を同時に挟まない
・ 導体を指定位置へ配置する
・ クランプを完全に閉じる
・ 導体を無理に押し込まない
電源ケーブル全体を挟むと、往路と復路の磁界が打ち消し合い、負荷電流を測定できない場合があります。
■小電流を測定する方法
電流プローブの感度が不足する場合は、測定導体を磁気コアへ複数回通す方法があります。
例えば、導体をコアへ5回通すと、プローブは実際の電流の5倍に相当するアンペアターンを検出します。表示値を巻数で割ることで、実際の電流を求められます。
ただし、複数回巻くと次の条件が変化する場合があります。
・ 最大測定電流
・ アンペア秒積
・ 挿入インピーダンス
・ 高周波特性
・ 導体間の寄生容量
・ 磁気飽和条件
製品の仕様範囲内で使用してください。
■電力測定における位相誤差
電圧波形と電流波形から電力を計算する場合、電流プローブの位相誤差と伝搬遅延が測定精度へ影響します。
特にスイッチング損失の測定では、数nsの時間差でも大きな演算誤差が生じる場合があります。
電力測定前には、次の項目を確認します。
・ 電流プローブの位相特性
・ 電圧プローブとの伝搬遅延差
・ デスキュー補正
・ プローブの帯域幅
・ オシロスコープのチャンネル間スキュー
・ 電流方向と電圧極性
専用のデスキュー治具を使用し、電圧波形と電流波形の時間位置を一致させます。
■ホール効果式電流プローブの主な用途
ホール効果式電流プローブは、次のような測定に使用されます。
・ スイッチング電源の入力・出力電流
・ インバータの相電流
・ モーターの駆動電流
・ MOSFETやIGBTのドレイン・コレクタ電流
・ SiC・GaNデバイスのスイッチング電流
・ バッテリの充放電電流
・ コンデンサのリップル電流
・ 突入電流
・ コイルやトランスの電流
・ 自動車電装回路の直流電流
直流成分と交流成分を同時に観測できることが大きな利点です。
■プローブ選定時の確認項目
ホール効果式電流プローブを選定する際は、次の項目を確認します。
・ DC測定への対応
・ 連続最大電流
・ ピーク最大電流
・ 帯域幅と立上り時間
・ 出力感度
・ 測定精度
・ ノイズと最小検出電流
・ アンペア秒積
・ 最大導体径
・ 挿入インピーダンス
・ 導体に対する最大電圧とCAT定格
・ オシロスコープとの接続方式
大電流、高帯域、高感度をすべて同時に満たすことは難しいため、測定目的に応じて優先する性能を決めます。
■まとめ
ホール効果式電流プローブは、導体の周囲に発生する磁界をホール素子で検出し、電流に比例する電圧信号へ変換するプローブです。
磁束そのものを検出するため、交流電流だけでなく直流電流も測定できます。クローズドループ方式では、補償コイルによって磁束を打ち消し、高い直線性と広い帯域幅を実現します。
正確な測定には、消磁、ゼロ調整、クランプ接合面の管理、導体位置、磁気飽和、帯域幅および外部磁界の影響を確認することが重要です。
■T&Mコーポレーション株式会社の取り扱い電流プローブ
T&Mコーポレーション株式会社では、直流・交流測定に対応するホール効果式電流プローブ、クローズドループ電流プローブ、交流電流プローブ、ロゴスキーコイルおよび各種電流測定アクセサリを取り扱っています。
スイッチング電源、インバータ、モータードライブ、SiC・GaNパワー半導体、バッテリなど、測定電流、帯域幅、感度、導体径および安全定格に応じた製品をご提案します。電流プローブの選定やオシロスコープとの互換性についても、お気軽にお問い合わせください。













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