アンペア秒積と電流プローブの測定限界
アンペア秒積は、パルス電流の大きさと継続時間を組み合わせて、電流プローブの測定限界を判断するための指標です。
ピーク電流が最大定格以内でも、パルス幅が長いと磁気コアが飽和し、正確な波形を測定できない場合があります。そのため、パルス電流測定では、最大電流だけでなくアンペア秒積も確認する必要があります。
■アンペア秒積とは
アンペア秒積とは、電流の大きさを時間で積分した値です。単位にはA・s(アンペア秒)が使用されます。
一定のパルス電流では、簡易的に次の関係で求められます。
アンペア秒積=パルス電流×パルス幅
例えば、100Aの一定電流が10µs流れる場合、アンペア秒積は0.001A・sになります。
実際の波形が一定でない場合は、パルス期間中の電流を時間積分して求めます。
■アンペア秒積が重要な理由
磁気コアを使用する電流プローブでは、測定電流によってコア内部の磁束が変化します。
一定方向の電流が長時間流れると、磁束の偏りが大きくなり、磁気コアが飽和する可能性があります。磁気飽和が発生すると、電流とプローブ出力の比例関係が失われます。
そのため、次の2つのパルスは同じ測定条件ではありません。
・ 大電流でパルス幅が短い波形
・ 小電流でパルス幅が長い波形
ピーク電流が同じでも、パルス幅が長いほどアンペア秒積は大きくなります。
■ピーク電流定格との違い
ピーク電流定格は、電流プローブが測定できる瞬間的な最大電流を示します。
アンペア秒積は、その電流がどの程度の時間継続できるかを示す指標です。
・ ピーク電流:瞬間的な電流の上限
・ アンペア秒積:電流の大きさと継続時間を組み合わせた上限
パルス電流を正確に測定するには、両方の条件を満たす必要があります。
■連続最大電流との違い
連続最大電流は、規定された条件で継続して測定できる電流の上限です。
連続電流では、磁気飽和だけでなく、補償回路の能力、導体からの発熱、磁気コアの損失、プローブ内部の温度上昇なども測定限界になります。
確認すべき電流定格には、次のものがあります。
・ 連続最大電流
・ 最大ピーク電流
・ 最大RMS電流
・ アンペア秒積
・ 周波数に対する電流ディレーティング
・ デューティ比に対する制限
一つの最大電流値だけで使用可否を判断してはいけません。
■アンペア秒積の計算例
矩形パルスの電流が50A、パルス幅が200µsの場合、アンペア秒積は次のようになります。
50A×200µs=0.01A・s
同じ50Aでも、パルス幅が2msの場合は次のようになります。
50A×2ms=0.1A・s
ピーク電流は同じですが、後者のアンペア秒積は10倍です。電流プローブの最大アンペア秒積を超える場合、パルス途中で磁気飽和が発生する可能性があります。
■波形が矩形でない場合
実際の電流波形は、矩形とは限りません。三角波、指数関数的な変化、リンギングを含む波形などがあります。
この場合、単純にピーク電流と全パルス幅を掛けると、実際より大きい値または小さい値になる可能性があります。
より正確には、パルス期間中の電流波形を時間積分します。
オシロスコープの積分演算機能を使用する場合は、次の点に注意します。
・ ゼロ点誤差を補正する
・ 積分範囲を正しく設定する
・ 十分なサンプリングレートを使用する
・ 不要な直流オフセットを除去する
・ 波形全体を記録できるメモリ長を確保する
小さなゼロ点誤差でも、長時間積分すると大きな誤差になります。
■磁気飽和との関係
磁気コアが飽和すると、入力電流が増加してもプローブ出力が比例して増加しなくなります。
アンペア秒積を超えたときには、次のような波形が表示される場合があります。
・ パルス途中で波形が垂れる
・ ピークが平らになる
・ 振幅が徐々に低下する
・ 波形の正負が非対称になる
・ パルス終了後の基準位置がずれる
・ 回復波形が長く残る
・ 測定後にゼロ点が変化する
波形の垂れは低周波特性によっても発生するため、プローブの仕様と測定条件を確認して原因を切り分けます。
■パルス幅と測定限界
最大アンペア秒積が分かっている場合、測定できるパルス幅の目安は、アンペア秒積をパルス電流で割ることで求められます。
例えば、最大アンペア秒積が0.1A・sで、100Aの矩形パルスを測定する場合、単純計算上のパルス幅は1msです。
ただし、実際の測定限界は次の条件でも変化します。
・ 直流バイアス電流
・ 波形形状
・ デューティ比
・ 繰返し周波数
・ 磁気コアの初期状態
・ 周囲温度
・ 測定レンジ
・ プローブの過負荷回復特性
計算値を定格ぎりぎりで使用せず、十分な余裕を確保します。
■繰返しパルスの注意点
単発パルスがアンペア秒積の範囲内でも、高い繰返し周波数で連続すると、プローブ内部の発熱や磁束の偏りが問題になる場合があります。
繰返しパルスでは、次の項目を確認します。
・ 1パルス当たりのアンペア秒積
・ 繰返し周波数
・ デューティ比
・ 平均電流
・ RMS電流
・ ピーク電流
・ 磁束がリセットされる時間
・ プローブ内部の温度上昇
正負が対称な電流波形と、一方向だけに流れる電流波形では、磁気コアの状態が異なります。
■直流バイアスの影響
直流電流に交流またはパルス電流が重畳している場合、磁気コアと補償回路は直流成分によって既に一定の負担を受けています。
この状態では、直流成分がない場合よりも、パルス電流に対する測定余裕が小さくなることがあります。
例えば、次のような測定が該当します。
・ DC電源出力のリップル電流
・ バッテリ充放電電流上のパルス成分
・ インダクタ電流のリップル
・ モーター駆動電流
・ DCバス上のスイッチング電流
データシートに直流電流と交流電流の組み合わせに関するディレーティング曲線がある場合は、その範囲内で使用します。
■AC電流プローブのアンペア秒積
電流トランス方式のAC電流プローブは、交流成分とパルス成分を測定できますが、直流電流を連続して測定できません。
一方向のパルス電流が長時間続くと、磁気コアの磁束が一方向へ偏り、飽和する可能性があります。そのため、AC電流プローブではアンペア秒積が重要な仕様になります。
測定前には、次の項目を確認します。
・ 最大ピーク電流
・ 最大アンペア秒積
・ 低域遮断周波数
・ パルスドループ
・ 繰返しパルスの条件
・ 直流成分の有無
・ コアのリセット条件
直流成分を含む波形には、DC対応電流プローブを選択します。
■DC対応電流プローブの測定限界
ホール効果式などのDC対応電流プローブでは、直流磁束を検出または補償できるため、直流電流を測定できます。
ただし、測定限界がなくなるわけではありません。次の要因によって制限されます。
・ ホール素子の測定範囲
・ 補償コイルの最大電流
・ アンプの出力範囲
・ 磁気コアの飽和
・ 連続電流による発熱
・ ピーク電流
・ アンペア秒積
・ 周波数に対するディレーティング
クローズドループ方式でも、補償回路が追従できる範囲を超えると、波形歪みや過負荷が発生します。
■ロゴスキーコイルとの違い
ロゴスキーコイルは空芯構造であり、一般的な磁性コアを使用しません。このため、磁性コアの磁気飽和が発生しにくく、大電流パルスの測定に適しています。
一方、ロゴスキーコイルには次の特徴があります。
・ 直流電流を測定できない
・ 低周波測定に制限がある
・ 積分器が必要
・ 積分器の出力範囲に上限がある
・ コイル位置や閉じ方によって誤差が生じる
・ 外部磁界の影響を受ける場合がある
磁気飽和がないことは、測定範囲が無制限であることを意味しません。コイル、積分器、出力回路の最大定格を確認する必要があります。
■複数回巻きによる測定限界の変化
小電流の感度を高めるため、測定導体を電流プローブへ複数回通す方法があります。
導体をN回通した場合、電流プローブは実電流のN倍に相当するアンペアターンを検出します。
例えば、2Aの電流を5回通すと、プローブは10A相当として検出します。表示値は5で割って換算します。
ただし、次の測定限界も巻数に応じて変化します。
・ 実質的な最大ピーク電流が小さくなる
・ 実質的な最大アンペア秒積が小さくなる
・ 磁気飽和しやすくなる
・ 挿入インピーダンスが増加する
・ 高周波特性が変化する場合がある
巻数を増やした場合は、最大電流とアンペア秒積を巻数で換算してください。
■パルスドループとは
パルスドループとは、一定のパルス電流を測定しているにもかかわらず、表示波形が時間とともに傾斜する現象です。
AC結合された電流プローブでは、低周波成分を完全には伝送できないため、長いパルスの平坦部分が徐々に基準方向へ戻ります。
ドループ量は、主に次の条件によって決まります。
・ プローブの低域遮断周波数
・ パルス幅
・ 磁気コアの特性
・ 負荷インピーダンス
・ 積分回路の時定数
・ 直流成分
長いパルスを測定する場合は、最大アンペア秒積とともに、パルスドループ仕様も確認します。
■低域遮断周波数との関係
電流プローブの低域遮断周波数は、どの程度低い周波数まで正確に測定できるかを示します。
AC電流プローブでは、周波数が低域遮断周波数へ近づくと振幅誤差と位相誤差が増加します。長いパルスは低周波成分を多く含むため、低域特性の影響を受けます。
次の測定では、低域特性が重要です。
・ 長いパルス電流
・ 低周波の正弦波電流
・ 低デューティ比の繰返しパルス
・ 突入電流
・ コンデンサの充放電電流
・ 磁化電流
DC成分を正確に観測する必要がある場合は、DC対応プローブを使用します。
■周波数による電流ディレーティング
電流プローブの最大測定電流は、周波数が高くなると低下する場合があります。
高周波では、磁気コアの損失、巻線の損失、渦電流、補償回路の負担などによって発熱が増加します。そのため、低周波で許容される連続電流を、高周波でも同じように測定できるとは限りません。
確認すべき仕様には、次のものがあります。
・ 電流と周波数のディレーティング曲線
・ 連続RMS電流
・ ピーク電流
・ デューティ比
・ 周囲温度
・ プローブの自己発熱
帯域幅内の信号であっても、最大電流を測定できるとは限りません。
■帯域幅による測定限界
電流プローブの帯域幅が不足すると、短いパルスや高速な電流変化を正確に測定できません。
帯域幅不足によって、次のような誤差が発生します。
・ ピーク電流が低く表示される
・ 立上り時間が長く表示される
・ 短いパルスが丸く表示される
・ リンギングが観測できない
・ スイッチング損失の演算誤差が増える
・ 位相関係が変化する
最大アンペア秒積を満たしていても、必要な帯域幅がなければ正確な波形は得られません。
■立上り時間による選定
測定に必要な帯域幅は、電流波形の繰返し周波数だけでなく、立上り時間と立下り時間によって決まります。
例えば、スイッチング周波数が低くても、電流が数nsで変化する場合は、高い帯域幅を持つ電流プローブが必要です。
選定時には、次の両方を確認します。
・ パルス全体を測定するための低周波特性
・ 高速エッジを測定するための高周波特性
広い測定帯域とは、低域から高域まで必要な周波数成分を含むことを意味します。
■プローブ出力とオシロスコープ入力の限界
電流プローブが磁気的に測定可能であっても、プローブ出力アンプやオシロスコープ入力が飽和する場合があります。
確認すべき項目は、次のとおりです。
・ プローブの出力感度
・ プローブの最大出力電圧
・ オシロスコープの入力範囲
・ 垂直オフセット範囲
・ 入力インピーダンス
・ 専用インターフェースの電源能力
・ オーバードライブ回復時間
波形がクリッピングしている場合は、磁気飽和と電気的な出力飽和の両方を確認します。
■温度による測定限界
大電流を長時間測定すると、磁気コア、巻線、補償回路などの温度が上昇します。
周囲温度が高い環境では、プローブが放熱しにくくなるため、最大連続電流が低下する場合があります。
測定時には、次の条件を確認します。
・ プローブの動作温度範囲
・ 周囲温度
・ 測定導体の温度
・ 連続測定時間
・ 電流と周波数による発熱
・ 温度ディレーティング
異常な発熱、変色、においなどがある場合は、直ちに使用を中止してください。
■アンペア秒積を超えた可能性がある場合
波形に飽和や異常が見られた場合は、次の手順で確認します。
・ 測定電流を低下させる
・ パルス幅を短くする
・ 低感度・大電流レンジへ変更する
・ 直流バイアスを確認する
・ プローブを測定対象から取り外す
・ クランプを完全に閉じる
・ 消磁とゼロ調整を行う
・ 0A表示が安定するか確認する
・ 仕様表のアンペア秒積と比較する
過負荷後もゼロ点が安定しない場合や、波形歪みが残る場合は、使用を中止して点検を依頼します。
■電流プローブ選定時の確認項目
パルス電流測定用のプローブを選定するときは、次の項目を確認します。
・ 最大ピーク電流
・ 連続最大電流
・ 最大RMS電流
・ 最大アンペア秒積
・ パルス幅
・ デューティ比
・ 繰返し周波数
・ 直流バイアス
・ 低域遮断周波数
・ パルスドループ
・ 上限帯域幅と立上り時間
・ 周波数および温度ディレーティング
・ 最大導体電圧とCAT定格
想定される最大条件に対して、十分な余裕を持つプローブを選択します。
■まとめ
アンペア秒積は、電流の大きさを時間で積分した値であり、パルス電流に対する電流プローブの測定限界を判断するために使用します。
ピーク電流が最大定格以内でも、パルス幅が長い場合や、直流バイアスが重畳している場合は、磁気飽和が発生する可能性があります。
正確な測定には、ピーク電流、アンペア秒積、連続電流、RMS電流、デューティ比、帯域幅、低域特性および周波数ディレーティングを総合的に確認することが重要です。
■T&Mコーポレーション株式会社の取り扱い電流プローブ
T&Mコーポレーション株式会社では、高いアンペア秒積に対応する電流プローブ、高帯域電流プローブ、大電流プローブ、直流対応電流プローブ、ロゴスキーコイルおよび各種電流測定アクセサリを取り扱っています。
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