プローブ補正・校正・校正信号出力の使い方

オシロスコープで正確な波形を測定するためには、プローブとオシロスコープ入力の特性を適切に合わせる必要があります。

パッシブプローブの補正が不適切な場合、方形波の角が丸くなったり、オーバーシュートが表示されたりします。また、プローブ補正、ゼロ調整、校正はそれぞれ目的が異なるため、正しく区別することが重要です。

 
 
プローブ補正とは

プローブ補正とは、主にパッシブプローブの周波数特性を、接続するオシロスコープの入力特性へ合わせる調整です。

一般的な10Xパッシブプローブは、プローブ内部の抵抗とコンデンサ、オシロスコープの入力抵抗と入力容量によって分圧回路を形成します。

抵抗による分圧比と容量による分圧比が一致していないと、周波数によって減衰比が変化し、波形が歪みます。

 
 
プローブ補正が必要な理由

オシロスコープの入力容量は、機種や入力チャンネルによって異なります。また、プローブケーブル、コネクタ、補償回路などにも容量があります。

プローブを別のオシロスコープや別チャンネルへ接続すると、以前の補正状態が適合しない場合があります。

補正が必要になる代表的なタイミングは、次のとおりです。

・ プローブを初めて使用するとき
・ 別のオシロスコープへ接続したとき
・ 別の入力チャンネルへ変更したとき
・ プローブを交換したとき
・ 長期間使用していなかったとき
・ 周囲温度が大きく変化したとき
・ 波形の立上りに異常が見られるとき
・ 定期点検を行うとき

基本的には、使用するプローブとチャンネルの組み合わせごとに確認します。

 
 
校正信号出力とは

多くのオシロスコープには、前面パネルにプローブ補正用の校正信号出力があります。

「PROBE COMP」「CAL」「Probe Compensation」などと表示され、一般的には既知の振幅と周波数を持つ方形波が出力されます。

この信号を使用して、パッシブプローブの低周波補正状態を確認します。

校正信号の振幅、周波数、出力インピーダンスはオシロスコープによって異なります。必ず使用する機種の取扱説明書を確認してください。

 
 
校正信号出力は何に使用するか

校正信号出力は、主に次の用途に使用します。

・ パッシブプローブの低周波補正
・ プローブ接続状態の簡易確認
・ チャンネルの基本動作確認
・ プローブ減衰比設定の確認
・ 方形波表示の確認
・ トリガ動作の簡易確認

校正信号出力は、一般的にプローブ補正を行うための基準信号です。オシロスコープやプローブの全仕様を保証する正式な校正設備ではありません。

 
 
プローブ補正の基本的な手順

一般的なパッシブプローブの補正手順は、次のとおりです。

・ オシロスコープの電源を入れる
・ 指定されたウォームアップ時間を確保する
・ プローブを使用する入力チャンネルへ接続する
・ プローブを10Xに設定する
・ オシロスコープ側の減衰比も10Xに設定する
・ プローブチップを校正信号端子へ接続する
・ グランドリードを校正信号のグランドへ接続する
・ 方形波が数周期表示されるように時間軸を調整する
・ 波形の上下が見やすいように垂直軸を調整する
・ 補正調整部を回して正しい方形波へ合わせる

調整部には、プローブ付属の絶縁調整工具を使用します。

 
 
正しく補正された波形

正しく補正されたプローブでは、校正信号の方形波が次のように表示されます。

・ 立上り後の上面が平坦である
・ 立下り後の下面が平坦である
・ 過度なオーバーシュートがない
・ 角が不自然に丸くない
・ 波形に大きな傾斜がない
・ 振幅が想定値と一致している

完全に理想的な垂直エッジが表示されるわけではありません。校正信号出力、プローブ、オシロスコープそれぞれの帯域幅によって、有限の立上り時間を持ちます。

 
 
補正不足とは

補正不足とは、プローブの容量補償が不足している状態です。英語ではUndercompensationと呼ばれます。

補正不足の波形には、次の特徴があります。

・ 方形波の角が丸くなる
・ 立上りと立下りが遅く見える
・ エッジ直後の振幅が小さくなる
・ 高周波成分が減衰する
・ パルスがなだらかに表示される

実際の高速信号を測定すると、ピーク振幅が低く表示され、立上り時間が実際より長くなる場合があります。

 
 
補正過度とは

補正過度とは、プローブの容量補償が大きすぎる状態です。英語ではOvercompensationと呼ばれます。

補正過度の波形には、次の特徴があります。

・ 立上り直後に突起が現れる
・ 立下り直後に逆方向の突起が現れる
・ オーバーシュートが表示される
・ 方形波の角が持ち上がる
・ 高周波成分が強調される

実際の回路には存在しないピークやスパイクが表示される可能性があるため、測定前に補正状態を確認します。

 
 
低周波補正とは

一般的なパッシブプローブの調整ネジで行う補正は、主に低周波補正です。

プローブ内部の可変コンデンサを調整し、プローブ側とオシロスコープ側のRC時定数を一致させます。

低周波補正によって、方形波の平坦部、角の形状、振幅応答などを整えます。

通常、使用者が日常的に行うプローブ補正は、この低周波補正です。

 
 
高周波補正とは

高帯域のパッシブプローブには、低周波補正に加えて高周波補正部が設けられている場合があります。

高周波補正は、プローブケーブル、チップ、内部回路などの高周波特性を調整し、立上り応答、オーバーシュート、リンギングなどを最適化します。

高周波補正には、専用の高速信号源、治具、測定手順が必要です。メーカーまたは校正機関による作業を前提とし、使用者が調整してはいけない部分もあります。

封印された調整部や指定外の部品を操作すると、仕様と安全性を維持できなくなる可能性があります。

 
 
1X・10X切替プローブの補正

1X・10X切替式プローブでは、一般に10Xモードで補正を行います。

1Xモードでは、信号を減衰させずに伝送するため、補正調整が適用されない構造もあります。また、1Xモードは入力容量が大きく、帯域幅が低くなる傾向があります。

確認すべき項目は、次のとおりです。

・ プローブのスイッチが10Xになっている
・ オシロスコープ側も10Xに設定されている
・ 補正可能容量範囲がオシロスコープ入力に適合している
・ 1Xと10Xで帯域幅が異なる
・ 1Xでは最大入力電圧が異なる場合がある

減衰比設定が一致していないと、表示振幅が10倍または10分の1になります。

 
 
補正可能容量範囲とは

パッシブプローブには、対応できるオシロスコープ入力容量の範囲が規定されています。

例えば、プローブの補正範囲とオシロスコープの入力容量が一致していない場合、調整ネジを限界まで回しても正しい方形波になりません。

プローブ選定時には、次の仕様を確認します。

・ オシロスコープの入力抵抗
・ オシロスコープの入力容量
・ プローブの補正可能容量範囲
・ プローブの減衰比
・ BNC入力との機械的互換性
・ オシロスコープが推奨するプローブ型名

入力抵抗が1MΩ以外の状態では、一般的な10Xパッシブプローブを正しく使用できない場合があります。

 
 
プローブの減衰比設定

プローブ補正後は、プローブ本体とオシロスコープの減衰比設定が一致していることを確認します。

例えば、10Xプローブは入力信号を10分の1にしてオシロスコープへ伝送します。オシロスコープ側を10Xに設定すると、画面には元の電圧へ換算した値が表示されます。

設定が誤っている場合は、次の問題が発生します。

・ 表示電圧が10倍になる
・ 表示電圧が10分の1になる
・ 自動測定値が誤る
・ カーソル測定値が誤る
・ 波形保存データのスケールが誤る
・ 演算結果が誤る

自動認識対応プローブでも、接続状態と認識された減衰比を確認します。

 
 
校正と調整の違い

校正と調整は、厳密には異なる作業です。

校正は、既知の標準器と比較して、測定器やプローブの表示値と真値との差を確認する作業です。校正結果は、校正証明書や試験成績書などに記録されます。

調整は、測定値や周波数特性が規定範囲へ入るように、機器内部または外部の設定を変更する作業です。

・ 校正:測定誤差を確認して記録する
・ 調整:誤差を小さくするため設定を変更する
・ 補正:測定系の特性を適合させる
・ 検証:仕様を満たしているか確認する

校正を行った結果、必要に応じて調整し、その後に再校正する場合があります。

 
 
校正信号出力による確認の限界

オシロスコープ前面の校正信号出力は、日常的な動作確認やパッシブプローブの補正に便利です。

ただし、この信号だけでは次の性能を完全に確認できません。

・ プローブの全帯域における周波数特性
・ 正確な立上り時間
・ 高周波での振幅精度
・ 差動プローブのCMRR
・ 最大入力電圧
・ 絶縁耐電圧
・ プローブのノイズ
・ 位相特性
・ 安全規格への適合状態

正式な性能確認には、校正された信号源、標準器、専用治具などが必要です。

 
 
アクティブプローブの校正

アクティブプローブは、プローブ先端付近に増幅回路やバッファ回路を備えています。

パッシブプローブのような可変コンデンサによる手動補正ではなく、オシロスコープのメニューから自動校正やプローブ校正を実行する製品があります。

校正では、次の項目が補正される場合があります。

・ ゲイン誤差
・ オフセット誤差
・ 周波数応答
・ プローブとチャンネルの組み合わせ
・ 温度による変化
・ 入力チップの特性

校正方法は製品ごとに異なるため、指定された治具と手順を使用します。

 
 
差動プローブのゼロ調整と校正

差動プローブでは、プラス入力とマイナス入力を同じ電位にしたとき、理想的には0Vが表示されます。

実際には、内部アンプ、入力経路の不均衡、温度などによってオフセットが発生します。このため、測定前にゼロ調整またはオートゼロを行います。

差動プローブで確認すべき項目は、次のとおりです。

・ ゼロ点
・ ゲイン精度
・ 入力間のバランス
・ CMRR
・ 減衰比
・ オフセット範囲
・ 使用レンジ
・ 入力アクセサリの組み合わせ

両入力を短絡する方法と開放する方法があるため、取扱説明書に指定された条件で調整します。

 
 
電流プローブの消磁・ゼロ調整・校正

直流対応電流プローブでは、校正前または測定前に消磁とゼロ調整が必要です。

一般的な流れは、次のとおりです。

・ 十分にウォームアップする
・ 測定導体をクランプから外す
・ クランプを完全に閉じる
・ 消磁を実行する
・ ゼロ調整を実行する
・ 既知の電流で感度を確認する
・ 必要に応じて正式な校正を行う

電流プローブの校正には、校正された電流源、シャント抵抗、電流変成器などが使用されます。

 
 
デスキュー校正とは

電圧プローブと電流プローブを組み合わせて電力測定を行う場合、両プローブの伝搬遅延差を補正する必要があります。

専用のデスキュー治具へ両プローブを接続し、同じタイミングの基準信号を測定します。その後、オシロスコープのチャンネル遅延を調整して波形の時間位置を一致させます。

デスキューが不十分な場合、次の測定へ誤差が生じます。

・ 瞬時電力
・ スイッチング損失
・ ターンオン損失
・ ターンオフ損失
・ 位相差
・ 力率

プローブ、レンジ、チャンネルまたは接続アクセサリを変更した場合は、再度デスキューを行います。

 
 
ウォームアップの重要性

オシロスコープとプローブの内部回路は、電源投入後に温度が変化します。温度が安定する前に補正や校正を行うと、その後の温度変化によって測定値がずれる場合があります。

高精度測定では、次の条件を整えます。

・ メーカー指定のウォームアップ時間を確保する
・ 周囲温度を安定させる
・ 通風口をふさがない
・ 直射日光や熱源を避ける
・ 実際に使用するレンジで調整する
・ 測定器とプローブを同じ環境へ置く

周囲温度が大きく変化した場合は、再調整または再校正を検討します。

 
 
校正周期の考え方

校正周期は、使用頻度、要求精度、使用環境、品質管理規定などに応じて決定します。

代表的な判断要素には、次のものがあります。

・ メーカー推奨校正周期
・ 社内品質管理規定
・ 測定結果に必要な不確かさ
・ プローブの使用頻度
・ 温度や湿度の変化
・ 振動や衝撃の有無
・ 過負荷の履歴
・ 過去の校正結果の変動

校正期限内であっても、落下、過電圧、異常発熱、修理などがあった場合は、再校正が必要になることがあります。

 
 
トレーサビリティとは

計測トレーサビリティとは、測定結果が、校正の連鎖を通じて国家標準または国際標準へ関連付けられている状態です。

校正証明書では、次の情報を確認します。

・ 校正対象の型名と製造番号
・ 校正日
・ 使用した標準器
・ 校正結果
・ 測定不確かさ
・ 校正条件
・ トレーサビリティ体系
・ 合否判定の有無

単に「校正済み」と記載されているだけでなく、必要な測定項目と精度が校正範囲に含まれているかを確認します。

 
 
補正がうまくできない場合

調整ネジを回しても正しい方形波にならない場合は、次の項目を確認します。

・ プローブが10Xに設定されているか
・ オシロスコープ側の減衰比が正しいか
・ 入力インピーダンスが1MΩになっているか
・ プローブの補正範囲が入力容量に適合しているか
・ 校正信号のグランドが正しく接続されているか
・ プローブチップやグランドリードに損傷がないか
・ 調整部が限界位置に達していないか
・ 別チャンネルでも同じ症状が発生するか
・ 別のプローブで正常に表示されるか

改善しない場合は、プローブ、ケーブル、補償回路またはオシロスコープ入力の故障が考えられます。

 
 
測定前の日常確認

測定を開始する前に、次の簡易確認を行うと、設定ミスやプローブ異常を見つけやすくなります。

・ プローブの外観に損傷がない
・ コネクタが確実に接続されている
・ 減衰比設定が一致している
・ パッシブプローブの補正波形が正常である
・ 差動プローブのゼロ点が正常である
・ 電流プローブの消磁とゼロ調整が完了している
・ 校正期限を超えていない
・ 使用するアクセサリが正しい
・ 測定電圧と安全定格が適合している

校正信号出力による確認は、測定前の日常点検として有効です。

 
 
まとめ

プローブ補正は、パッシブプローブの周波数特性をオシロスコープ入力へ合わせる調整です。補正不足では波形の角が丸くなり、補正過度ではオーバーシュートが表示されます。

校正は、既知の標準器と比較して測定誤差を確認する作業です。オシロスコープの校正信号出力は、主にパッシブプローブの低周波補正と簡易動作確認に使用しますが、正式な校正の代わりにはなりません。

プローブの種類に応じて、低周波補正、自動校正、ゼロ調整、消磁、ゲイン校正およびデスキューを適切に実施することが重要です。

 
 
T&Mコーポレーション株式会社の取り扱い製品

T&Mコーポレーション株式会社では、パッシブプローブ、アクティブプローブ、差動プローブ、高電圧差動プローブ、電流プローブ、デスキュー治具および各種校正・補正アクセサリを取り扱っています。

プローブ補正、ゼロ調整、消磁、デスキュー、校正周期など、測定用途と品質管理条件に応じた製品および測定構成をご提案します。プローブの選定、補正方法、オシロスコープとの互換性についても、お気軽にお問い合わせください。

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