プローブの立上り時間とは?帯域幅との関係

プローブの立上り時間は、入力された高速信号の変化に、プローブがどの程度速く追従できるかを示す性能です。

デジタル信号やパルス信号では、繰り返し周波数が低くても、信号の立上りが非常に速い場合があります。プローブの立上り時間が十分に短くないと、実際の信号よりも緩やかな波形として表示されます。

ここでは、プローブの立上り時間の定義、帯域幅との関係、測定システム全体の立上り時間、必要な性能の選び方について解説します。

 
 
立上り時間とは

立上り時間とは、信号が低い電圧レベルから高い電圧レベルへ変化するまでに要する時間です。

一般的なオシロスコープ測定では、信号振幅の10%から90%まで変化する時間を立上り時間として定義します。

例えば、0Vから5Vへ変化する信号の場合、以下の2点間の時間を測定します。

・ 振幅10%:0.5V
・ 振幅90%:4.5V

信号が0.5Vから4.5Vまで変化するのに2nsかかった場合、その信号の立上り時間は2nsです。

製品や測定規格によっては、20%から80%など、異なる測定基準を使用する場合があります。仕様を比較する際は、立上り時間の測定条件も確認する必要があります。

 
 
立下り時間とは

立下り時間は、信号が高い電圧レベルから低い電圧レベルへ変化するまでに要する時間です。

一般的には、信号振幅の90%から10%まで変化する時間として定義されます。

立上り時間と立下り時間は、必ずしも同じではありません。

出力回路の駆動能力、プルアップ抵抗、負荷容量、トランジスタの特性などによって、立上りと立下りで異なる応答になる場合があります。

プローブの性能を評価する際は、立上り時間だけでなく、必要に応じて立下り時間も確認します。

 
 
プローブの立上り時間

プローブの立上り時間は、理想的に速いステップ信号を入力したときに、プローブの出力が10%から90%まで変化するのに必要な時間です。

プローブの立上り時間が長いほど、高速な信号変化へ追従しにくくなります。

例えば、実際の信号が1nsで立ち上がっていても、プローブの立上り時間が5nsの場合、オシロスコープには実際よりも遅い立上りとして表示されます。

高速信号を測定する場合は、測定対象の信号より十分に短い立上り時間を持つプローブが必要です。

 
 
帯域幅との関係

単純な1次応答またはガウシアン応答に近い測定系では、帯域幅と立上り時間の関係を以下の式で近似できます。

立上り時間≒0.35÷帯域幅

帯域幅をHzで入力すると、立上り時間は秒で求められます。

代表的な帯域幅と立上り時間の関係は以下の通りです。

・ 100MHz:約3.5ns
・ 200MHz:約1.75ns
・ 350MHz:約1ns
・ 500MHz:約0.7ns
・ 1GHz:約0.35ns
・ 2GHz:約0.175ns

この式は概算です。周波数応答の形状によっては、0.35ではなく0.4から0.45程度の係数が使用される場合があります。

正確な立上り時間は、プローブやオシロスコープのデータシートで確認します。

 
 
クロック周波数だけでは判断できない理由

デジタル信号の測定では、クロック周波数よりも立上り時間が必要帯域幅を決める重要な要素になります。

例えば、同じ10MHzのクロック信号でも、立上り時間が10nsの信号と1nsの信号では、含まれる高周波成分が大きく異なります。

立上り時間が短い信号には、より高い周波数成分が含まれます。そのため、低い繰り返し周波数の信号でも、立上りが速ければ広帯域のプローブが必要です。

マイコン、FPGA、ゲートドライバなどの信号を測定する場合は、動作周波数だけでなく、デバイスのデータシートに記載された出力立上り時間も確認します。

 
 
測定システム全体の立上り時間

オシロスコープに表示される立上り時間には、測定対象の信号、プローブ、オシロスコープの応答が含まれます。

それぞれがガウシアン応答に近い場合、表示される立上り時間は以下の式で概算できます。

表示立上り時間≒√{信号立上り時間²+プローブ立上り時間²+オシロスコープ立上り時間²}

この式から分かるように、プローブやオシロスコープの応答が遅いほど、表示される立上り時間は実際の信号より長くなります。

例えば、以下の条件で測定するとします。

・ 信号の立上り時間:1ns
・ プローブの立上り時間:0.7ns
・ オシロスコープの立上り時間:0.7ns

表示される立上り時間は、概算で以下のようになります。

√{1²+0.7²+0.7²}≒1.4ns

実際の信号は1nsで立ち上がっていますが、画面上では約1.4nsとして表示される可能性があります。

 
 
測定システムに必要な立上り時間

立上り時間を正確に測定するには、プローブとオシロスコープを組み合わせた測定システムの立上り時間を、測定信号より十分に短くする必要があります。

一般的な目安として、測定システムの立上り時間を信号立上り時間の3分の1以下にすると、測定誤差を比較的小さくできます。

より高い精度が必要な場合は、5分の1以下を目安にします。

例えば、立上り時間が1nsの信号を測定する場合、測定システムの立上り時間は以下が目安になります。

・ 一般的な測定:約0.33ns以下
・ より高精度な測定:約0.2ns以下

0.35の関係式を使用すると、0.33nsに相当する帯域幅は約1.06GHzです。

したがって、立上り時間1nsの信号を正確に測定するには、1GHz程度またはそれ以上のシステム帯域幅が必要になる場合があります。

 
 
表示値から実際の立上り時間を求める方法

測定システムの立上り時間が分かっている場合、表示された立上り時間から実際の信号立上り時間を概算できます。

信号立上り時間≒√{表示立上り時間²-測定システム立上り時間²}

例えば、表示された立上り時間が1.2ns、測定システムの立上り時間が0.7nsの場合、信号の立上り時間は以下のように概算できます。

√{1.2²-0.7²}≒0.97ns

ただし、この補正式は、信号と測定システムが適切な応答特性を持ち、ノイズやオーバーシュートの影響が小さい場合の近似です。

正確な評価が必要な場合は、測定器メーカーが指定する補正方法を使用します。

 
 
パッシブプローブの立上り時間

パッシブプローブの立上り時間は、周波数帯域、入力容量、補正状態、グランド接続などの影響を受けます。

10:1パッシブプローブは、一般的に1:1プローブより入力容量が小さく、短い立上り時間を持ちます。

ただし、プローブ補正が正しくない場合、立上り波形が大きく変化します。

補正不足では立上りが遅く表示され、過補正では立上り部分にオーバーシュートが発生します。

高速信号を測定する前に、オシロスコープの校正信号出力を使用してプローブ補正を確認します。

 
 
アクティブプローブの立上り時間

アクティブプローブは、低入力容量と広い帯域幅により、パッシブプローブより短い立上り時間を持つ製品が多くあります。

高速クロック、メモリバス、シリアルデータ、半導体デバイスの端子波形など、nsからps領域の信号測定に使用されます。

ただし、アクティブプローブでは以下の仕様も確認する必要があります。

・ 入力ダイナミックレンジ
・ 最大入力電圧
・ オフセット範囲
・ 入力容量
・ ノイズ
・ プローブチップの立上り時間
・ オシロスコープとの互換性

立上り時間が十分に短くても、測定信号がダイナミックレンジを超える場合は正確に測定できません。

 
 
差動プローブの立上り時間

高速差動信号を測定する場合、差動プローブの立上り時間に加えて、プラス入力とマイナス入力のバランスも重要です。

両入力の接続長や伝搬遅延が異なると、コモンモード信号の一部が差動信号として表示される場合があります。

特に高速なコモンモード変化が存在する回路では、以下を確認します。

・ 差動帯域幅
・ 立上り時間
・ CMRRの周波数特性
・ プラス側とマイナス側の接続長
・ プローブチップの種類
・ コモンモード過渡応答

高電圧差動プローブでは、帯域幅だけでなく、高周波におけるCMRRも波形再現性へ大きく影響します。

 
 
電流プローブの立上り時間

電流プローブにも立上り時間が規定されています。

電流プローブの立上り時間が長い場合、スイッチング電流のピーク、短絡電流、ダイオードの逆回復電流などを正しく観測できません。

帯域幅が不足すると、以下のような影響が発生します。

・ ピーク電流が小さく表示される
・ 電流の立上りが遅く表示される
・ 短い電流パルスを検出できない
・ リンギングが小さく表示される
・ スイッチング損失の演算誤差が増加する

電圧波形と電流波形からスイッチング損失を求める場合は、電圧プローブと電流プローブの立上り時間、帯域幅、伝搬遅延を確認します。

 
 
グランドリードの影響

長いグランドリードを使用すると、寄生インダクタンスとプローブ入力容量によって共振が発生し、立上り波形が変形します。

代表的な影響は以下の通りです。

・ リンギング
・ オーバーシュート
・ アンダーシュート
・ 立上り時間の変化
・ 高周波ノイズの重畳

この場合、プローブ本体の立上り時間が十分に短くても、正確な測定はできません。

高速信号を測定する場合は、グランドスプリング、同軸アダプタ、PCBはんだ付け式アクセサリなどを使用し、信号とグランドの接続を短くします。

 
 
プローブ負荷による立上り時間の変化

プローブを回路へ接続すると、プローブの入力容量が測定対象の回路に加わります。

測定ポイントの出力抵抗をR、プローブを含む負荷容量をCとすると、RC時定数によって信号の立上りが遅くなる場合があります。

1次RC回路における10%から90%までの立上り時間は、概算で以下のように表されます。

立上り時間≒2.2RC

入力容量の大きいプローブを接続すると、観測波形が遅くなるだけでなく、測定対象そのものの動作が変化する可能性があります。

高速信号や高インピーダンス回路では、入力容量の小さいプローブを選ぶことが重要です。

 
 
立上り時間測定とノイズ

信号にノイズやリンギングが含まれていると、10%点と90%点を複数回横切り、立上り時間の測定値が不安定になる場合があります。

安定した測定を行うには、以下の方法があります。

・ 適切なトリガを設定する
・ 測定位置とグランド接続を見直す
・ 不要な帯域を制限する
・ 平均化機能を使用する
・ 複数回測定して統計値を確認する
・ 測定基準レベルを確認する

帯域制限や平均化を使用するとノイズは減少しますが、実際の立上り時間や過渡現象も変化する場合があります。測定条件を記録し、目的に応じて使用します。

 
 
立上り時間測定の手順

立上り時間を測定する基本的な手順は以下の通りです。

・ 信号に適した帯域幅のプローブを選ぶ
・ プローブ補正を確認する
・ グランド接続を短くする
・ オシロスコープのサンプルレートを確認する
・ 立上り部分を十分に拡大する
・ 10%と90%の基準レベルを確認する
・ 自動測定またはカーソル測定を実行する
・ 複数回の測定値とばらつきを確認する
・ 必要に応じて測定システムの応答を補正する

オシロスコープの自動測定を使用する場合でも、画面上の波形、基準レベル、測定対象のエッジが正しく選択されていることを確認します。

 
 
立上り時間からプローブを選ぶ方法

プローブを選定する際は、最初に測定対象の最短立上り時間を確認します。

次に、必要な測定精度に応じて、プローブとオシロスコープを組み合わせたシステム立上り時間を決定します。

確認する項目は以下の通りです。

・ 測定信号の最短立上り時間
・ プローブの立上り時間
・ オシロスコープの立上り時間
・ システム全体の立上り時間
・ プローブチップを含めた帯域幅
・ サンプルレート
・ 入力容量
・ 必要な振幅精度と時間精度

プローブ単体の立上り時間が十分でも、オシロスコープの帯域幅が不足している場合は、測定システム全体として必要な性能を得られません。

 
 
まとめ

プローブの立上り時間は、入力信号の急速な変化にどの程度速く追従できるかを示す性能です。

一般的な測定では、信号振幅の10%から90%まで変化する時間として定義されます。単純な応答を持つ測定系では、立上り時間と帯域幅の関係を「立上り時間≒0.35÷帯域幅」で概算できます。

実際に表示される立上り時間には、測定信号、プローブ、オシロスコープの応答が含まれます。そのため、プローブとオシロスコープを組み合わせた測定システムの立上り時間を、測定対象より十分に短くする必要があります。

また、プローブの入力容量、補正状態、グランドリード、プローブチップ、ノイズなども立上り時間測定へ影響します。高速信号を正確に測定するには、帯域幅だけでなく、実際の接続条件を含めて測定システムを選定することが重要です。

 
 
T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ

T&Mコーポレーション株式会社では、パッシブプローブ、アクティブプローブ、高速差動プローブ、高電圧差動プローブ、光アイソレーション差動プローブ、高周波電流プローブなど、高速信号測定に対応した各種プローブを取り扱っております。

測定する信号の立上り時間、必要な帯域幅、入力容量、電圧・電流範囲、CMRR、使用するオシロスコープなどに応じて、適切なプローブをご提案いたします。プローブの選定、製品仕様、対応機種、お見積りなどについては、T&Mコーポレーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。

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