信号反射とインピーダンス不整合とは?
信号反射とは、信号が伝送経路を進む途中でインピーダンスが変化し、信号エネルギーの一部が送信側へ戻る現象です。
高速デジタル回路、高周波回路、通信機器、同軸ケーブルを使用した測定では、信号反射によって振幅誤差、リンギング、オーバーシュートなどが発生します。正確な測定には、伝送経路全体のインピーダンスを考慮することが重要です。
■信号反射とは
信号が一定の特性インピーダンスを持つ伝送線路を進み、異なるインピーダンスの負荷や接続部へ到達すると、信号の一部が反射します。
反射した信号は元の信号へ重なり、測定点や観測時刻によって異なる波形を形成します。
信号反射によって、次のような現象が発生します。
・ オーバーシュート
・ アンダーシュート
・ リンギング
・ 波形の段差
・ 振幅の増加または低下
・ 立上り時間の変化
・ ジッタやタイミング誤差
・ デジタル回路の誤動作
信号反射の大きさと極性は、反射が発生する部分のインピーダンスによって決まります。
■特性インピーダンスとは
特性インピーダンスとは、伝送線路を進む電圧波と電流波の比を表す値です。
直流抵抗とは異なり、配線の単位長さ当たりのインダクタンスと容量によって決まります。一般的な同軸ケーブルや測定システムでは50Ω、映像信号用のケーブルでは75Ωが使用されます。
PCB上では、次の条件によって特性インピーダンスが変化します。
・ 信号線の幅と厚さ
・ 信号線と基準面の距離
・ 基板材料の誘電率
・ 差動配線の間隔
・ ソルダーレジストの有無
・ グランドプレーンの構造
・ ビアやコネクタの形状
高速回路では、信号源、伝送線路、コネクタおよび負荷を含めてインピーダンスを設計します。
■インピーダンス不整合とは
インピーダンス不整合とは、信号が通過する経路のインピーダンスが連続していない状態です。
例えば、50Ωの信号源と50Ωの同軸ケーブルを使用していても、負荷が高インピーダンスまたは短絡状態であれば、ケーブル終端で信号反射が発生します。
不整合が発生しやすい部分には、次のようなものがあります。
・ ケーブルと測定器の接続部
・ コネクタとPCBパターンの接続部
・ 線幅が急激に変化する部分
・ 信号線の分岐
・ 長いスタブ配線
・ テストパッド
・ ビアおよび層間接続部
・ 終端されていないケーブル
・ 不適切な変換アダプタ
・ プローブの接続部分
小さな構造であっても、信号の立上りが高速になると無視できない不連続点になる場合があります。
■反射係数とは
反射係数とは、入射した信号に対して、どの程度の信号が反射するかを表す値です。負荷インピーダンスと伝送線路の特性インピーダンスによって決まります。
負荷インピーダンスと特性インピーダンスが等しい場合、反射係数は0となり、理想的には反射が発生しません。
代表的な状態は、次のとおりです。
・ 整合負荷:反射が発生しない
・ 開放端:同じ極性の信号が反射する
・ 短絡端:反対の極性の信号が反射する
・ 高い負荷インピーダンス:正方向の反射が発生する
・ 低い負荷インピーダンス:負方向の反射が発生する
実際の回路では、周波数によってインピーダンスが変化するため、反射係数も周波数に依存します。
■信号の立上り時間と反射の関係
伝送線路として扱う必要があるかどうかは、信号の繰返し周波数だけでなく、立上り時間と立下り時間によって判断します。
繰返し周波数が低い信号でも、エッジが高速であれば高い周波数成分を含みます。配線の伝搬遅延が信号の立上り時間に対して無視できない場合、反射の影響を考慮する必要があります。
そのため、クロック周波数が低いからといって、インピーダンス管理が不要とは限りません。
■ケーブル終端における反射
同軸ケーブルを使用する場合、信号源、ケーブルおよび測定器入力のインピーダンスを一致させることが基本です。
例えば、50Ω信号源から50Ω同軸ケーブルを介して信号を伝送する場合、オシロスコープ側も50Ω入力に設定すると反射を抑えられます。
オシロスコープを1MΩ入力に設定すると、ケーブル終端はほぼ開放状態になります。反射した信号が重なるため、表示振幅が想定より大きくなったり、波形に段差やリンギングが現れたりする場合があります。
ただし、50Ω入力には最大許容電圧と電力の制限があります。高電圧信号を直接入力してはいけません。
■50Ω入力と1MΩ入力の違い
オシロスコープの入力インピーダンスには、一般的に50Ωと1MΩがあります。
50Ω入力は、高周波信号や同軸伝送系の終端に使用します。反射を抑えやすい一方、信号源に対する負荷が大きく、入力可能な電圧も制限されます。
1MΩ入力は、パッシブプローブなどを使用する一般的な測定に適しています。回路への直流負荷は小さくなりますが、高周波では入力容量の影響を受けます。
・ 50Ω入力:同軸測定と高周波信号に適する
・ 1MΩ入力:高インピーダンスプローブによる一般測定に適する
・ 50Ω入力:最大入力電圧が低い場合がある
・ 1MΩ入力:ケーブルを直接接続すると反射が生じる場合がある
測定対象、信号源、ケーブルおよびプローブに合わせて入力インピーダンスを選択します。
■プローブ測定におけるインピーダンス不整合
オシロスコーププローブも信号伝送経路の一部です。プローブチップ、入力リード、グランド接続、ケーブルおよびオシロスコープ入力の組み合わせによって周波数特性が決まります。
高速信号に長い入力リードやグランドリードを接続すると、インピーダンスの不連続と寄生インダクタンスが増加します。その結果、反射や共振による波形変形が発生します。
プローブ接続では、次の点に注意します。
・ プローブチップを測定点へ直接接続する
・ グランド経路を短くする
・ 入力リードの延長を避ける
・ 指定されたプローブアクセサリを使用する
・ 測定ループの面積を小さくする
・ 不要な変換アダプタを使用しない
・ プローブの補正状態を確認する
高速信号では、PCBへはんだ付けする専用チップや同軸型アクセサリが有効です。
■スタブによる信号反射
スタブとは、主信号線から分岐した配線のうち、信号の終端や負荷まで続く枝状の部分です。
長いスタブは、信号の一部を分岐させ、スタブ端で反射した信号を主信号線へ戻します。その結果、波形にリンギング、段差、タイミング誤差などが発生します。
テストパッドまでの引き出し配線や、使用していないコネクタへの分岐もスタブになる場合があります。
スタブの影響を抑えるためには、次の方法が有効です。
・ 分岐配線を短くする
・ 測定点を主信号線上に配置する
・ 不要なテストパッドを削減する
・ デイジーチェーン配線を検討する
・ 適切な終端を設ける
・ 高速信号用の小型アクセサリを使用する
設計段階で測定方法を考慮し、プローブ接続部を最適化することが重要です。
■終端抵抗による反射対策
終端抵抗は、伝送線路と負荷のインピーダンスを整合させ、信号反射を抑えるために使用します。
代表的な終端方法には、次のようなものがあります。
・ 送信端直列終端
・ 受信端並列終端
・ テブナン終端
・ AC終端
・ 差動終端
・ チップ内蔵終端
送信端直列終端は、ドライバの出力インピーダンスと直列抵抗の合計を伝送線路へ合わせる方法です。消費電力を抑えやすい一方、途中の測定点では段階的な波形が観測される場合があります。
受信端並列終端は、負荷側へ伝送線路と同じ抵抗を接続する方法です。反射を抑えやすい一方、直流電流と消費電力が増加します。
■差動信号のインピーダンス不整合
差動信号では、2本の信号線間の差動インピーダンスに加えて、各信号線からグランドまでのシングルエンドインピーダンスも重要です。
2本の配線長、線幅、間隔、ビア数などが異なると、差動ペアのバランスが崩れます。その結果、差動信号の一部がコモンモード信号へ変換され、EMIやジッタが増加する場合があります。
差動配線では、次の点を確認します。
・ 2本の配線長をそろえる
・ 配線間隔を一定にする
・ 同じ数と構造のビアを使用する
・ コネクタ部の不連続を抑える
・ 差動終端抵抗を負荷の近くへ配置する
・ 分岐やスタブを短くする
・ 差動プローブの入力接続を対称にする
測定系の左右差も、差動信号の波形へ影響します。
■信号反射を確認する方法
信号反射は、オシロスコープやTDRを使用して確認できます。
オシロスコープでは、波形に現れる段差、リンギング、オーバーシュートおよび遅延を観測します。ケーブル長や配線長を変更し、波形の変化を比較する方法も有効です。
TDRは、高速なステップ信号を伝送線路へ入力し、反射波の時間と振幅からインピーダンスの変化を測定します。
主な確認方法は、次のとおりです。
・ 送信端と受信端の波形を比較する
・ 50Ω入力と高インピーダンス入力で比較する
・ 終端抵抗の有無で波形を比較する
・ ケーブルやアダプタを変更する
・ TDRでインピーダンス分布を測定する
・ ネットワークアナライザでSパラメータを測定する
・ 基板シミュレーションと実測波形を比較する
反射が戻るまでの時間から、不整合部分までの位置を推定できる場合があります。
■プローブ選定時の注意点
高速信号の測定では、帯域幅だけでなく、プローブの入力インピーダンスと接続構造を確認します。
・ 測定信号に十分な帯域幅がある
・ 入力容量が小さい
・ プローブチップを短く接続できる
・ 測定対象に適した入力抵抗を持つ
・ 同軸または差動接続に対応している
・ 使用するアクセサリの帯域幅が明確である
・ 測定対象へ与える負荷が許容範囲内である
高帯域のプローブでも、長いリードや不適切なアクセサリを使用すると、本来の性能を得られません。
■信号反射を抑える方法
信号反射を抑える基本は、信号経路全体のインピーダンスを連続させることです。
主な対策は、次のとおりです。
・ 信号源、伝送線路および負荷を整合させる
・ 適切な終端抵抗を使用する
・ 配線の線幅と基準面までの距離を管理する
・ コネクタやビアの不連続を小さくする
・ 不要な分岐とスタブを削減する
・ リターンパスを連続させる
・ 同じ特性インピーダンスのケーブルを使用する
・ 高周波対応のコネクタとアダプタを使用する
・ プローブ接続部を短くする
・ 必要以上に高速な信号エッジを避ける
対策後は、送信端と受信端の両方で波形を確認し、振幅、タイミングおよびリンギングを評価します。
■まとめ
信号反射は、伝送経路にインピーダンスの不連続があるときに、信号の一部が送信側へ戻る現象です。
反射波が元の信号へ重なることで、オーバーシュート、リンギング、段差、振幅誤差およびタイミング誤差が発生します。
高速信号では、信号周波数だけでなく立上り時間を考慮し、ケーブル、PCB配線、コネクタ、終端抵抗およびプローブを含む測定系全体のインピーダンスを管理することが重要です。
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