差動プローブでコモンモードノイズが観測される理由
差動プローブ(Differential Probe)は理想的には同相信号を完全に除去しますが、実際には同相除去比(CMRR)が有限であるため、高周波の同相ノイズが差動信号として現れてしまいます。
特にSiCやGaNなどの高速スイッチング回路では、この現象が顕著になります。
理想的な差動プローブ
差動プローブは次の演算を行っています。
VOUT =(V+)−(V−)
例えば
- V+ = 500V
- V- = 500V
であれば
500−500=0V
となり同相信号は完全にキャンセルされます。
現実の差動プローブ
実際の回路では
- アンプのゲイン誤差
- 抵抗の誤差
- 入力容量の違い
- 配線長の違い
があるため
V+ = 500.000V
V- = 499.990V
のようになります。
すると
500.000 - 499.990=10mV
となり、本来0Vのはずの同相信号が出力されます。
これを表すのが
CMRR(Common Mode Rejection Ratio)
です。
高周波ではCMRRが急激に悪化する
ここが一番重要です。
例えばカタログには
DC~60Hz:CMRR = 80 dB
と書かれていても
1 MHzでは60 dB
10 MHzでは40 dB
100 MHzでは20 dB
くらいまで悪化することがあります。つまり
100Vの同相信号があると
20 dBなら100V × 1/10=10V
も漏れてしまう可能性があります。
なぜスイッチング電源では特に大きいのか
例えばIGBTやSiC MOSFETでは
0V→600V
を10nsで切り替えます。すると
dv/dt=600V/10ns=60 V/ns
という非常に急峻な電圧変化になります。この電圧変化が
- プローブ内部容量
- ケーブル容量
- 基板の浮遊容量
を通って電流を流します。
容量性結合による電流は
I=C(dV/dt)
で表されます。
例えば浮遊容量2pFしかなくても
I=2pF×60V/ns=120mA
もの高周波電流になります。
この電流が左右の入力で完全に一致しないため、
同相ノイズが差動成分へ変換されます。
プローブの入力容量も原因
例えば、
入力+2.2pF
入力-2.4pF
のようにわずかな差があるだけで高周波ではインピーダンスが変わります。
すると同相電圧は+端子とー端子で少し違い、引き算するとゼロにならないという現象になります。
リード線もアンテナになる
高周波では
+入力と−入力のリードの長さが少し違うだけで受けるノイズ量が変わります。
すると同相ノイズ左右で違う差動ノイズになります。
高電圧測定ではよく見られる波形
例えば600Vのインバータでリンギングが見えたとします。
これは
- 本当に回路がリンギングしている
- 差動プローブのCMRR不足
- 浮遊容量
- プローブのグランドループ
- ケーブルへの誘導
が重なっていることが多く、必ずしもすべてが実際の回路の現象とは限りません。
ノイズを減らす方法
高電圧・高速スイッチング測定では、次の点が有効です。
- CMRRが高く、高周波特性の良い差動プローブを選ぶ(特に数MHz~数十MHzでのCMRRを確認)
- プローブ先端のリードをできるだけ短くし、左右対称にする
- 測定ループ面積を最小にする
- プローブと被測定回路の距離を近づける
- 高dv/dt環境では同軸アダプタやスプリングチップを使用して寄生インダクタンスを減らす
- 必要に応じて光アイソレーション型や高性能差動プローブを使用する
まとめ
差動プローブで同相電圧が観測される主な理由は、差動プローブが理想的ではなく、CMRRが有限であり、特に高周波ではCMRRが低下するためです。さらに、高電圧スイッチングでは大きな dv/dt によって浮遊容量経由の容量性結合電流が発生し、入力間のわずかな不均衡(入力容量、配線長、寄生成分など)が同相ノイズを差動成分へ変換します。
実際のパワーエレクトロニクス測定では、「見えているリンギングやスパイクのどこまでが回路固有で、どこからが測定系の影響か」を切り分けることが、正確な波形評価の重要なポイントになります。













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