差動電圧・コモンモード電圧・CMRRの基礎

差動プローブを正しく選定するためには、差動電圧、コモンモード電圧、コモンモード除去比(CMRR)の違いを理解することが重要です。

測定したい差動信号が小さくても、各入力端子には接地に対して高い電圧が加わっている場合があります。プローブの測定範囲と安全性を判断するには、これらの電圧を個別に確認する必要があります。

 
 
差動電圧とは

差動電圧とは、2つの測定点の電位差です。差動プローブでは、プラス入力の電圧からマイナス入力の電圧を引いた値として表されます。

プラス入力の電圧をV+、マイナス入力の電圧をV-とすると、差動電圧は次の関係になります。

差動電圧=V+-V-

例えば、接地に対してV+が405V、V-が400Vの場合、差動電圧は5Vです。差動プローブが表示する対象は、この5Vの信号です。

 
 
コモンモード電圧とは

コモンモード電圧とは、2つの入力に共通して加わる電圧成分です。一般的には、プラス入力とマイナス入力の電圧の平均値として表されます。

コモンモード電圧=(V++V-)÷2

V+が405V、V-が400Vの場合、コモンモード電圧は402.5Vです。

この例では、測定したい差動電圧は5Vですが、プローブの両入力は接地に対して約400Vの高い電位にあります。したがって、5Vを測定できるだけでは不十分で、400Vを超えるコモンモード電圧にも対応したプローブが必要です。

 
 
差動信号とコモンモード信号の違い

差動信号は、2つの入力間で異なる成分です。コモンモード信号は、2つの入力へ同じ方向に現れる成分です。

・ 差動信号:プローブが測定して表示する成分
・ コモンモード信号:理想的にはプローブが除去する成分

実際の差動プローブでは、2つの入力経路を完全に同一にすることはできません。このため、コモンモード信号の一部が差動出力へ現れます。

 
 
差動電圧範囲とは

差動電圧範囲とは、差動プローブが正確に測定できるプラス入力とマイナス入力の電位差です。

差動電圧範囲を超えると、次のような問題が発生します。

・ 波形のクリッピング
・ 振幅誤差の増加
・ アンプの飽和
・ 回復時間の発生
・ 波形の歪み
・ プローブの損傷

差動電圧範囲は、減衰比、入力レンジ、オフセット設定などによって変わる場合があります。

 
 
コモンモード電圧範囲とは

コモンモード電圧範囲とは、差動プローブの両入力に共通して加えることができる電圧の範囲です。

差動電圧が小さくても、コモンモード電圧が仕様を超えると、正確な測定ができません。さらに、各入力端子から接地までの最大定格を超えると、プローブの破損や感電につながる可能性があります。

選定時には、次の項目を区別して確認します。

・ 最大差動入力電圧
・ コモンモード電圧範囲
・ 各入力端子から接地までの最大電圧
・ 非破壊最大入力電圧
・ 過渡過電圧に対する定格
・ 測定カテゴリ(CAT)

これらは同じ仕様ではありません。

 
 
CMRRとは

CMRRは「Common Mode Rejection Ratio」の略で、日本語ではコモンモード除去比または同相信号除去比と呼ばれます。

差動プローブが、2つの入力に共通する信号をどの程度除去できるかを表す性能です。CMRRが高いほど、大きなコモンモード信号の中から小さな差動信号を正確に測定できます。

CMRRは比率またはdBで表されます。

・ CMRR 100:1=40dB
・ CMRR 1,000:1=60dB
・ CMRR 10,000:1=80dB
・ CMRR 100,000:1=100dB

dB値が大きいほど、コモンモード信号を強く除去できます。

 
 
CMRRと測定誤差の関係

コモンモード電圧が大きい場合、わずかな漏れでも測定誤差になります。

例えば、コモンモード電圧が400Vで、CMRRが10,000:1の場合、理想化した計算では最大約40mV相当のコモンモード成分が出力へ現れる可能性があります。

測定したい信号が10Vであれば影響は比較的小さくても、数十mVの信号を測定する場合は無視できません。

必要なCMRRは、次の条件によって決まります。

・ コモンモード電圧の大きさ
・ 測定したい差動信号の大きさ
・ 許容できる測定誤差
・ コモンモード信号の周波数
・ コモンモード電圧の変化速度

仕様値だけでなく、測定条件における誤差へ換算して検討することが重要です。

 
 
CMRRの周波数特性

CMRRは一定の値ではなく、一般に周波数が高くなるほど低下します。

データシートに記載された高いCMRRが、直流または低周波における値である場合、高速スイッチング信号では同じ性能を得られないことがあります。

主な低下要因は、次のとおりです。

・ プラス側とマイナス側の入力容量差
・ 入力抵抗のばらつき
・ 入力リードの長さの違い
・ プローブ内部の伝搬遅延差
・ 接続部の寄生インダクタンス
・ 測定点のインピーダンス差
・ プローブ入力の不均衡

高速測定では、実際に問題となる周波数におけるCMRRを確認します。

 
 
dv/dtとCMRRの関係

パワーエレクトロニクス回路では、コモンモード電圧が非常に速く変化します。この電圧変化率をdv/dtで表します。

高いdv/dtが差動プローブへ加わると、入力経路のわずかな不均衡によって、スパイクやリンギングが差動信号として表示される場合があります。

特に次の測定では、高周波CMRRとコモンモード過渡耐性が重要です。

・ ハイサイドゲート電圧
・ SiC・GaNデバイスのスイッチング波形
・ インバータの相間電圧
・ ハーフブリッジ回路のスイッチングノード
・ 高電圧バス上の微小信号
・ シャント抵抗によるハイサイド電流測定

単にコモンモード電圧の最大値だけでなく、その変化速度も確認する必要があります。

 
 
ハイサイドゲート測定の例

ハイサイドMOSFETのゲート-ソース間電圧を測定する場合、プラス入力をゲート、マイナス入力をソースへ接続します。

測定したい差動信号は、一般的に数Vから数十Vです。一方、ゲートとソースの両方が、接地に対して数百Vの範囲で高速に変動する場合があります。

この測定では、次の性能が必要です。

・ ゲート電圧に適した差動入力範囲
・ 十分なコモンモード電圧範囲
・ 高周波における高いCMRR
・ 高速なコモンモード過渡への耐性
・ 適切な帯域幅と立上り時間
・ 低い入力容量
・ 十分な絶縁性能と安全定格

コモンモード成分が十分に除去されないと、ゲート波形に実際には存在しないスパイクが表示される場合があります。

 
 
入力リードがCMRRへ与える影響

差動プローブのCMRRは、プローブ本体だけでなく、入力リードと接続方法にも左右されます。

プラス側とマイナス側のリード長が異なると、信号の到達時間と寄生成分に差が生じます。この差によって、コモンモード信号の一部が差動成分へ変換されます。

CMRRの低下を抑えるには、次の点に注意します。

・ 2本の入力リードを同じ長さにする
・ 入力リードを短くする
・ プラス側とマイナス側を近接させる
・ 測定ループの面積を小さくする
・ 指定された入力アクセサリを使用する
・ 測定点の直近へ接続する
・ 左右の接続構造をできるだけ対称にする

高速測定では、長いワニ口リードよりPCB直結型アクセサリが適しています。

 
 
測定対象のインピーダンスバランス

差動プローブの入力経路が対称でも、測定対象側のインピーダンスが大きく異なると、CMRRが低下する場合があります。

例えば、プラス側が低インピーダンス、マイナス側が高インピーダンスである場合、プローブの入力容量による影響が左右で異なります。その結果、コモンモード電圧が差動誤差として現れます。

微小差動信号を測定する場合は、次の項目を確認します。

・ 両測定点の信号源インピーダンス
・ プローブの入力抵抗と入力容量
・ プラス側とマイナス側の負荷バランス
・ 入力アクセサリの対称性
・ 周波数に対するインピーダンス変化

必要に応じて、低入力容量の差動プローブを使用します。

 
 
CMRRを確認する簡易的な方法

差動プローブの両入力を同じ信号へ接続すると、理想的には差動出力は0Vになります。

実際に波形が表示される場合、その一部はコモンモード信号の漏れ、入力経路の不均衡、ノイズなどによるものです。

簡易確認では、次の点をそろえます。

・ 両入力へ同じ信号を与える
・ 入力リードの長さと配置をそろえる
・ 実際の測定に近い周波数と振幅を使用する
・ プローブのレンジとオフセットを同じ条件にする
・ 安全定格を超えない
・ 表示された残留波形を確認する

この方法は実際のCMRRを理解する参考になりますが、正式な校正や仕様保証を行うものではありません。

 
 
差動プローブ選定時の確認項目

差動プローブを選定する際は、帯域幅や最大電圧だけでなく、測定条件を総合的に確認します。

・ 測定する差動電圧
・ コモンモード電圧
・ 各入力から接地までの電圧
・ コモンモード電圧の周波数とdv/dt
・ 必要なCMRR
・ 差動入力抵抗と入力容量
・ プローブのノイズ
・ オフセット範囲
・ 測定カテゴリと安全定格
・ 入力リードおよびアクセサリの定格

測定システム全体の安全定格は、使用する構成の中で最も低い定格によって制限されます。

 
 
測定精度を高める方法

差動測定の精度を高めるには、プローブの性能だけでなく、接続方法と測定条件を整える必要があります。

主な対策は、次のとおりです。

・ 十分なCMRRを持つプローブを選ぶ
・ 必要以上に広い入力レンジを使用しない
・ 入力リードを短く対称にする
・ 測定ループの面積を小さくする
・ プローブを十分にウォームアップする
・ 測定前にゼロ調整を行う
・ 不要な帯域を制限してノイズを低減する
・ 複数の接続方法で波形を比較する
・ コモンモード過渡による疑似信号を確認する

帯域制限を使用するとノイズを低減できますが、確認したい高速成分まで除去しないように注意します。

 
 
まとめ

差動電圧は、2つの測定点の電位差です。コモンモード電圧は、両方の入力に共通して加わる電圧成分です。

CMRRは、差動プローブがコモンモード信号をどの程度除去できるかを表します。CMRRは周波数が高くなるほど低下する傾向があるため、高速スイッチング回路では周波数特性の確認が必要です。

差動プローブを選定するときは、差動電圧、コモンモード電圧、各入力から接地までの電圧、dv/dt、帯域幅および安全定格を個別に確認することが重要です。

 
 
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