高コモンモード電圧下で微小信号を測定する方法

高コモンモード電圧下の微小信号測定とは、接地に対して高い電位にある回路上で、数V、数mV、またはそれ以下の小さな差動信号を測定することです。

インバータ、スイッチング電源、モータードライブ、SiC・GaNパワー半導体などでは、大きく高速に変化するコモンモード電圧が微小信号へ重畳します。そのため、通常の差動測定より高いCMRR、低ノイズ性能および適切な絶縁性能が必要です。

 
 
高コモンモード電圧下の微小信号とは

測定したい2点間の電圧が小さくても、両方の測定点が接地に対して高い電位を持つ場合があります。

例えば、プラス入力が400.05V、マイナス入力が400.00Vであれば、測定したい差動電圧は50mVです。一方、両入力には約400Vのコモンモード電圧が加わっています。

このような測定では、次の能力が求められます。

・ 高いコモンモード電圧への対応
・ 高いコモンモード除去比(CMRR)
・ 小さな差動電圧を測定できる入力レンジ
・ 低い入力換算ノイズ
・ 高速なコモンモード過渡への耐性
・ 十分な絶縁性能と安全定格

最大入力電圧が高いだけでは、微小信号を正確に測定できるとは限りません。

 
 
代表的な測定対象

高コモンモード電圧下の微小信号測定は、次のような用途で必要になります。

・ ハイサイドMOSFETのゲート-ソース間電圧
・ IGBTのゲート-エミッタ間電圧
・ ハイサイドシャント抵抗の両端電圧
・ インバータ回路の電流検出信号
・ 高電圧バス上の制御信号
・ 絶縁ゲートドライバの入出力波形
・ バッテリスタック内のセル電圧
・ フローティング回路上のセンサー信号
・ パワーモジュール内部の微小電圧

測定対象によって、必要な帯域幅、差動レンジ、CMRRおよび安全定格が異なります。

 
 
測定が難しい理由

高コモンモード電圧下では、わずかな入力不均衡によって、大きなコモンモード信号の一部が差動出力へ変換されます。

特に高速スイッチング回路では、コモンモード電圧が短時間で大きく変化します。そのため、測定したい信号より大きなスパイクやリンギングが表示される場合があります。

主な誤差要因は、次のとおりです。

・ 周波数上昇によるCMRRの低下
・ 入力リード間の伝搬遅延差
・ 入力抵抗と入力容量の不均衡
・ 高いdv/dtによる容量性結合
・ 測定ループへの磁界結合
・ プローブアンプのノイズ
・ オフセット誤差と温度ドリフト
・ 入力レンジ不足による飽和

プローブの仕様だけでなく、接続方法と測定環境も結果へ大きく影響します。

 
 
高周波CMRRの重要性

CMRRは、2つの入力に共通する信号を差動プローブがどの程度除去できるかを表します。

データシートに高いCMRRが記載されていても、その値が直流または低周波における仕様である場合があります。一般的にCMRRは、周波数が高くなるほど低下します。

高速スイッチング回路では、スイッチング周波数だけでなく、立上り・立下り時間に含まれる高周波成分を考慮する必要があります。

プローブ選定時には、次の項目を確認します。

・ 直流におけるCMRR
・ スイッチング周波数におけるCMRR
・ 高速エッジに相当する周波数でのCMRR
・ コモンモード過渡に対する応答
・ dv/dt耐性
・ 入力リード使用時のCMRR

実際の接続アクセサリによって、CMRRがプローブ本体の代表値より低下する場合があります。

 
 
プローブノイズの影響

微小信号測定では、プローブ自身が発生するノイズも重要です。

差動プローブの入力換算ノイズが測定信号と同程度の場合、波形の細部を正確に確認できません。減衰比が大きいプローブでは、オシロスコープ側のノイズが入力換算時に大きくなる場合もあります。

確認すべき項目は、次のとおりです。

・ 入力換算ノイズ
・ ノイズ密度
・ 使用帯域におけるRMSノイズ
・ 減衰比
・ オシロスコープの入力ノイズ
・ 使用レンジでの垂直分解能
・ 帯域制限時のノイズ性能

ノイズ仕様は、帯域幅、測定レンジ、減衰比などの条件とともに確認します。

 
 
ダイナミックレンジとオフセット範囲

ダイナミックレンジとは、プローブが歪みなく測定できる差動信号の範囲です。オフセット範囲とは、一定の直流成分を差し引き、微小な変動成分を拡大表示するための範囲です。

例えば、48Vの直流電圧に重畳した100mVのリップルを測定する場合、十分なオフセット機能があれば、48Vの直流成分を相殺してリップル成分を高感度で表示できます。

ただし、次の仕様は区別して確認します。

・ 最大差動入力電圧
・ 測定可能なダイナミックレンジ
・ オフセット設定範囲
・ オフセット精度
・ 各入力から接地までの最大電圧
・ コモンモード電圧範囲

オフセット機能を使用しても、プローブへ実際に加わる電圧が小さくなるわけではありません。

 
 
高電圧差動プローブを使用する方法

高電圧差動プローブは、大きな差動電圧とコモンモード電圧に対応しています。インバータ、商用電源、モータードライブなどの高電圧測定に適しています。

一方、減衰比が大きい製品では、数mVから数十mVの微小信号を測定すると、ノイズやオフセット誤差の影響が大きくなる場合があります。

選定時には、高い最大入力電圧だけでなく、次の項目を確認します。

・ 最小垂直感度
・ 減衰比と選択可能なレンジ
・ 入力換算ノイズ
・ オフセット誤差
・ 高周波CMRR
・ 入力容量
・ 使用アクセサリの特性

安全定格を満たしていても、必要な測定分解能を得られない場合があります。

 
 
光アイソレーションプローブを使用する方法

光アイソレーションプローブは、測定ヘッドとオシロスコープの間を電気的に絶縁し、信号を光で伝送します。

電気的なコモンモード結合経路を小さくできるため、高いコモンモード電圧と高速なdv/dtが存在する環境で、微小な差動信号を測定しやすいことが特長です。

特に次の用途に適しています。

・ ハイサイドゲート電圧測定
・ SiC・GaNデバイスの高速スイッチング測定
・ 高電圧バス上の制御信号測定
・ 高いdv/dt環境における微小信号測定
・ 接地電位差の大きい回路間測定

光アイソレーション方式でも、測定ヘッドの入力範囲、絶縁電圧、過渡電圧およびアクセサリの定格を確認する必要があります。

 
 
絶縁入力測定器を使用する方法

チャンネルごとに独立した絶縁入力を持つオシロスコープやスコープコーダーも、高コモンモード電圧下の測定に使用できます。

複数の異なる基準電位にある信号を同時に測定できることが利点です。ただし、本体が絶縁されていても、入力モジュールやプローブのノイズ、帯域幅、入力容量が微小信号測定へ影響します。

次の仕様を確認します。

・ チャンネルから接地までの絶縁電圧
・ チャンネル間の絶縁電圧
・ 最大入力電圧
・ 入力レンジと分解能
・ 入力ノイズ
・ 帯域幅
・ 測定カテゴリ
・ 使用するプローブの定格

測定システム全体の定格は、最も低い定格を持つ構成品によって制限されます。

 
 
入力リードを短く対称にする

高周波CMRRを維持するには、プラス側とマイナス側の入力経路をできるだけ同じ条件にします。

リードの長さ、配置、寄生容量および寄生インダクタンスに差があると、コモンモード信号が差動誤差へ変換されます。

接続時には、次の点に注意します。

・ プラス側とマイナス側のリードを同じ長さにする
・ 2本のリードを近接させる
・ 入力リードをできるだけ短くする
・ 測定ループの面積を小さくする
・ スイッチングノードから不要な距離を取る
・ 指定された低容量アクセサリを使用する
・ PCB直結型チップを使用する

大型クリップや長い延長リードは、微小高速信号の測定には適さない場合があります。

 
 
測定位置の選び方

同じ回路ノードを測定しているように見えても、測定位置によって波形が異なる場合があります。

高速な電流が流れる配線には、抵抗と寄生インダクタンスによる電圧が発生します。測定点が部品端子から離れていると、配線上の電圧降下やスパイクも測定されます。

正確な測定には、次の点が重要です。

・ 部品端子の直近で測定する
・ ゲート電圧はゲートとソース間で測定する
・ シャント電圧はケルビン接続で取り出す
・ 大電流経路と検出経路を分離する
・ プラス側とマイナス側の取り出し点を明確にする
・ 測定用パッドを対称に配置する

設計段階からプローブ接続用の測定点を設けると、再現性を高められます。

 
 
ケルビン接続による微小電圧測定

シャント抵抗のような低抵抗部品では、大電流が流れる電力端子と、電圧を検出する端子を分離するケルビン接続が有効です。

電流経路と測定経路を分けることで、配線抵抗や接触抵抗による電圧降下を測定結果から除外しやすくなります。

ケルビン接続では、次の点に注意します。

・ 検出配線を抵抗体の直近から引き出す
・ 大電流配線と検出配線を分離する
・ 2本の検出配線を近接させる
・ 検出ループを小さくする
・ 差動プローブを検出端子へ直接接続する
・ 高dv/dtノードから検出配線を離す

ハイサイドシャント測定では、ケルビン接続に加えて高いCMRRが必要です。

 
 
帯域制限と平均化の活用

微小信号測定では、必要以上に広い帯域幅を使用するとノイズが増加します。測定対象に不要な高周波成分を帯域制限によって除去すると、信号対雑音比を改善できます。

繰り返し波形では、オシロスコープの平均化機能も有効です。ランダムノイズを低減し、安定した波形を表示できます。

ただし、次の点に注意します。

・ 帯域制限によって必要な高速成分を失わない
・ 平均化では単発現象を正しく評価できない場合がある
・ 周期的なノイズは平均化しても残る
・ ピーク検出が必要な測定では処理方法を確認する
・ フィルタによる位相変化を考慮する

測定目的に応じて、帯域幅と波形処理を設定します。

 
 
オシロスコープの設定方法

微小信号を観測するには、プローブだけでなくオシロスコープ側の設定も重要です。

・ プローブの減衰比を正しく設定する
・ 入力レンジを必要最小限にする
・ 垂直オフセット機能を活用する
・ 不要な帯域を制限する
・ 高分解能取得モードを検討する
・ 適切なサンプリングレートを確保する
・ 平均化回数を測定目的に合わせる
・ トリガ条件を安定させる
・ ロングメモリ使用時のサンプリング条件を確認する

波形を画面上で拡大するだけでは、A/Dコンバータの実効分解能は向上しません。信号を適切な入力レンジへ収めることが重要です。

 
 
ゼロ調整とウォームアップ

微小信号測定では、プローブのオフセット誤差と温度ドリフトが無視できません。

測定前には、メーカーが指定する時間だけプローブとオシロスコープをウォームアップし、実際の測定レンジでゼロ調整を行います。

次のような場合は、再調整を検討します。

・ 周囲温度が変化した
・ プローブのレンジを変更した
・ 測定位置や方向を変更した
・ 長時間連続して使用した
・ 入力を外してもゼロを表示しない
・ 微小な直流成分を比較する

ゼロ調整後も残留オフセットを確認し、必要に応じて測定値から補正します。

 
 
コモンモード応答を確認する方法

測定波形に疑わしいスパイクがある場合は、両入力を同じ測定点へ接続し、コモンモード応答を確認する方法があります。

理想的には差動電圧が0Vになるため、表示される波形はプローブのコモンモード応答、接続の不均衡、ノイズなどを示します。

確認時には、次の条件を実測時に近づけます。

・ 同じ入力リードとアクセサリを使用する
・ 同じコモンモード電圧を加える
・ 同じスイッチング条件で測定する
・ 同じレンジと帯域幅を使用する
・ 入力リードの配置を維持する
・ 安全定格を超えない

この確認によって、実信号とコモンモード由来の疑似信号を切り分けやすくなります。

 
 
安全上の注意点

高コモンモード電圧下では、測定したい差動信号が小さくても、プローブ入力には危険な電圧が存在します。

測定前に、次の項目を確認してください。

・ 最大差動入力電圧
・ 各入力から接地までの最大電圧
・ コモンモード電圧範囲
・ 過渡過電圧に対する定格
・ 周波数に対する電圧ディレーティング
・ 測定カテゴリ(CAT)
・ リード、クリップ、アダプタの定格
・ 使用環境の汚染度と高度

接地型オシロスコープの保護接地を外して測定してはいけません。高電圧回路への接続と取り外しは、可能な限り電源を切り、残留電荷を放電してから行います。

 
 
プローブ選定時の確認項目

高コモンモード電圧下の微小信号測定では、次の仕様を総合的に比較します。

・ コモンモード電圧範囲
・ 差動入力範囲
・ 高周波におけるCMRR
・ dv/dt耐性
・ 入力換算ノイズ
・ 帯域幅と立上り時間
・ 入力抵抗と入力容量
・ オフセット範囲
・ ゼロ点安定性
・ 絶縁方式
・ 安全定格
・ 入力アクセサリの種類

高電圧、高帯域、低ノイズをすべて同時に最大化することは容易ではありません。測定目的に必要な性能を優先して選定します。

 
 
まとめ

高コモンモード電圧下の微小信号測定では、大きな共通電圧の中から小さな差動信号を取り出す必要があります。

正確な測定には、高周波で高いCMRRを持ち、低ノイズで十分なコモンモード電圧範囲を備えたプローブが必要です。また、入力リードを短く対称にし、測定ループを小さくすることも重要です。

差動電圧だけでなく、各入力から接地までの電圧、dv/dt、過渡電圧および安全定格を確認し、用途に応じて差動プローブ、光アイソレーションプローブまたは絶縁入力測定器を選択します。

 
 
T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ

T&Mコーポレーション株式会社では、高コモンモード電圧下の微小信号測定に対応する低ノイズ差動プローブ、高電圧差動プローブ、光アイソレーションプローブ、絶縁測定システムおよび各種低容量入力アクセサリを取り扱っています。

ハイサイドゲート、ハイサイドシャント、SiC・GaNパワー半導体、インバータ、スイッチング電源など、差動電圧、コモンモード電圧、CMRR、dv/dt、帯域幅および安全定格に応じた製品をご提案します。プローブの選定や測定方法についても、お気軽にお問い合わせください。

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