高電圧プローブとは?種類・用途・安全な使い方
高電圧プローブは、一般的なオシロスコープの入力電圧範囲を超える高電圧信号を測定するためのプローブです。入力電圧を一定の比率で減衰させ、オシロスコープで測定可能な電圧レベルへ変換します。
スイッチング電源、インバータ、モータドライブ、パワー半導体、産業用電気機器などの測定に使用されますが、高電圧測定には感電、短絡、アーク放電、測定機器の損傷などの危険が伴います。
ここでは、高電圧プローブの基本的な仕組み、主な種類、選定方法、安全規格、使用上の注意点について解説します。
■高電圧プローブとは
高電圧プローブは、高い減衰比を利用して測定対象の電圧を低下させ、オシロスコープへ伝送する電圧プローブです。
代表的な減衰比には以下があります。
・ 100:1(100X)
・ 500:1(500X)
・ 1000:1(1000X)
例えば、1000:1プローブで1000Vの信号を測定した場合、オシロスコープの入力端子へ伝送される電圧は1Vです。
オシロスコープ側に正しい減衰比を設定すると、画面上には換算後の実際の電圧が表示されます。減衰比の設定を間違えると、表示される電圧値も誤ったものになるため注意が必要です。
■高電圧プローブの主な種類
高電圧測定に使用されるプローブは、主に以下の種類に分けられます。
・ 高電圧シングルエンドプローブ
・ 高電圧差動プローブ
・ 光アイソレーション差動プローブ
・ 絶縁入力オシロスコープ用プローブ
それぞれ測定方式、基準電位、最大入力電圧、周波数帯域、絶縁性能が異なります。測定する電圧が高いという理由だけでプローブを選ぶのではなく、測定ポイントの対地電位や回路構成を確認する必要があります。
■高電圧シングルエンドプローブ
高電圧シングルエンドプローブは、回路のGNDを基準として高電圧信号を測定するプローブです。一般的には、抵抗器とコンデンサで構成された高減衰比のパッシブプローブが使用されます。
主な用途は以下の通りです。
・ 高電圧電源の出力測定
・ 高電圧パルスの観測
・ ブラウン管や放電回路の測定
・ パワー半導体回路の対地電圧測定
・ 接地基準の高電圧信号測定
一般的な接地型オシロスコープでは、プローブのグランドリードが保護接地に接続されています。このため、グランドリードを接地電位以外の測定ポイントへ接続してはいけません。
グランドリードを高電位側へ接続すると、回路が短絡し、感電、アーク放電、プローブやオシロスコープの損傷につながるおそれがあります。
■高電圧差動プローブ
高電圧差動プローブは、2つの測定ポイント間の電位差を測定するプローブです。両方の測定ポイントが接地電位にない場合や、大きなコモンモード電圧が存在する場合に使用されます。
主な用途は以下の通りです。
・ スイッチング電源のハイサイド測定
・ インバータの出力波形測定
・ モータドライブ回路の測定
・ パワー半導体のゲート・ソース間電圧測定
・ 電流検出抵抗の両端電圧測定
・ フローティング信号の測定
高電圧差動プローブを使用する場合は、差動入力範囲だけでなく、各入力端子から接地までの電圧、コモンモード入力範囲、最大非破壊入力電圧も確認する必要があります。
差動電圧が小さくても、いずれかの入力端子の対地電圧が定格を超えている場合は使用できません。
■光アイソレーション差動プローブ
光アイソレーション差動プローブは、測定信号を光信号へ変換し、測定対象とオシロスコープの間を電気的に分離して信号を伝送します。
大きなコモンモード電圧が高速で変化する環境でも、高いコモンモード除去性能を維持しやすいことが特長です。
主に以下のような測定に使用されます。
・ SiCやGaNなどのパワー半導体の評価
・ ハイサイドゲート信号の測定
・ 高電圧スイッチングノードの測定
・ インバータやモータドライブの評価
・ 高いdv/dtが発生する回路の測定
ただし、光アイソレーション方式であっても、入力電圧、コモンモード電圧、測定カテゴリなどの定格を超えて使用することはできません。
■差動電圧と対地電圧
高電圧差動測定では、「差動電圧」と「対地電圧」を区別する必要があります。
差動電圧は、プラス入力とマイナス入力の間に加わる電圧です。
対地電圧は、それぞれの入力端子と接地間に加わる電圧です。
例えば、プラス入力が対地1005V、マイナス入力が対地1000Vの場合、差動電圧は5Vですが、両方の入力端子には約1000Vの対地電圧が加わっています。
この測定には、5Vの差動電圧を測定できるだけでなく、1000V以上の対地電圧とコモンモード電圧に対応したプローブが必要です。
■最大入力電圧と最大非破壊入力電圧
高電圧プローブの仕様には、測定可能な入力範囲と最大非破壊入力電圧が記載されています。
測定可能な入力範囲は、規定された精度と直線性を維持して測定できる電圧範囲です。
最大非破壊入力電圧は、短時間印加してもプローブが直ちに損傷しない上限を示します。ただし、この範囲内で正確に測定できることを意味するものではありません。
入力電圧が測定範囲を超えると、以下の問題が発生する可能性があります。
・ 波形のクリッピング
・ アンプの飽和
・ 振幅測定誤差の増加
・ プローブ内部回路の損傷
・ 絶縁破壊
・ 感電やアーク放電
測定前には、定常電圧だけでなく、スイッチング時、起動時、遮断時、異常動作時に発生する可能性がある過渡電圧も考慮します。
■電圧ディレーティングとは
高電圧プローブの最大入力電圧は、周波数に関係なく一定とは限りません。一般的に、入力信号の周波数が高くなるにつれて、許容される最大入力電圧は低下します。
この特性を「電圧ディレーティング」と呼びます。
データシートに記載されている最大入力電圧が直流または低周波での値であっても、高周波信号や高速パルスでは同じ電圧を入力できない場合があります。
高電圧スイッチング波形を測定する際は、信号の繰り返し周波数だけでなく、立上り時間、パルス幅、デューティ比、ピーク電圧を確認し、プローブの電圧ディレーティング特性と比較する必要があります。
■測定カテゴリ(CAT)とは
測定カテゴリは、電源設備内の測定場所と、そこで発生する可能性がある過渡過電圧の大きさを考慮した安全区分です。
主な測定カテゴリは以下の通りです。
・ CAT II:コンセントに接続される機器や負荷側回路の測定
・ CAT III:分電盤、配線、固定設備など建物内設備の測定
・ CAT IV:引込口、電力量計、低圧設備の電源側などの測定
同じ最大電圧が表示されていても、CAT定格が異なるプローブは、想定されている過渡過電圧への耐性が異なります。
測定対象のカテゴリより低いCAT定格のプローブを使用してはいけません。また、CAT定格のないプローブを、商用電源へ直接接続された回路の測定に使用してはいけません。
■プローブとアクセサリの定格
高電圧測定では、プローブ本体だけでなく、テストリード、フッククリップ、ワニ口クリップ、延長リード、変換アダプタなど、使用するすべてのアクセサリの定格を確認します。
測定システム全体の最大使用電圧と測定カテゴリは、組み合わせた部品の中で最も低い定格によって決まります。
例えば、プローブ本体が1000V CAT IIIに対応していても、接続したクリップが300V CAT IIまでの場合、測定システム全体を1000V CAT IIIとして使用することはできません。
メーカーが指定していないアクセサリを使用すると、絶縁距離、周波数特性、最大入力電圧、安全性能が保証されない場合があります。
■周波数帯域と立上り時間
高電圧プローブを選定する際は、最大入力電圧だけでなく、周波数帯域と立上り時間も確認します。
プローブの帯域幅が不足すると、スイッチング波形の立上りが遅く表示され、ピーク電圧、オーバーシュート、リンギングなどを正しく観測できません。
一方、必要以上に広い帯域幅で測定すると、高周波ノイズが多く表示される場合があります。測定目的に応じて、オシロスコープの帯域制限機能を使用することも有効です。
プローブとオシロスコープを組み合わせた測定システム全体の帯域幅を確認し、測定対象の立上り時間に対して十分な性能を持つものを選定します。
■入力インピーダンスとプローブ負荷
高電圧プローブも、測定対象の回路に電気的な負荷を与えます。
入力抵抗が低い場合は測定ポイントの電圧が変化し、入力容量が大きい場合は高速信号の立上りやスイッチング動作に影響を与える可能性があります。
特に高インピーダンス回路や高速パワー半導体の測定では、プローブの入力容量が重要です。入力容量が大きいと、スイッチング波形を変形させたり、回路の動作状態を変えたりする場合があります。
データシートに記載された入力抵抗と入力容量を確認し、測定対象への負荷が許容できるかを判断します。
■高電圧プローブの選定ポイント
高電圧プローブを選定する際は、以下の項目を確認します。
・ シングルエンド測定または差動測定
・ 最大測定電圧
・ 最大非破壊入力電圧
・ 各入力端子の対地電圧
・ コモンモード入力範囲
・ 測定カテゴリ(CAT)
・ 電圧ディレーティング特性
・ 減衰比
・ 周波数帯域
・ 立上り時間
・ 入力抵抗と入力容量
・ コモンモード除去比(CMRR)
・ 絶縁方式
・ オシロスコープとの互換性
・ 付属アクセサリの電圧定格
高電圧測定では、電圧が測定範囲内であることだけでなく、測定場所のCAT区分、予想される過渡電圧、周波数、使用環境も含めて選定することが重要です。
■安全な接続と取り外し
高電圧プローブを測定対象へ接続する際は、原則として回路の電源を切り、蓄積された電荷が十分に放電されたことを確認してから作業します。
プローブの取扱説明書に指定された順序に従って、基準側またはマイナス側のリードを先に接続し、その後で測定側またはプラス側のリードを接続します。
取り外す際は、測定側またはプラス側のリードを先に外し、その後で基準側またはマイナス側のリードを外します。
高電圧が印加された状態で、プローブ、テストリード、クリップ、測定ポイントに触れたり、接続位置を変更したりしてはいけません。
■使用前の点検
高電圧プローブを使用する前に、以下の項目を点検します。
・ ケーブルやリードに亀裂や損傷がないこと
・ 絶縁被覆に摩耗や変色がないこと
・ プローブチップやクリップが変形していないこと
・ コネクタに緩みや損傷がないこと
・ プローブ本体に破損や汚れがないこと
・ 校正期限を超えていないこと
・ 既知の信号源で正常に動作すること
絶縁部に損傷、ひび割れ、汚れ、湿気などがある場合は使用を中止します。高電圧プローブは、安全に関わる部品であるため、自己判断で分解や修理を行ってはいけません。
■まとめ
高電圧プローブは、一般的なオシロスコープでは直接入力できない高電圧信号を減衰させ、測定可能な電圧へ変換するプローブです。
接地基準の高電圧信号には高電圧シングルエンドプローブ、2点間の高電圧測定には高電圧差動プローブ、大きく高速なコモンモード電圧が存在する測定には光アイソレーション差動プローブが使用されます。
安全で正確な測定を行うには、最大入力電圧、対地電圧、コモンモード入力範囲、測定カテゴリ、電圧ディレーティング、周波数帯域、使用するアクセサリの定格を確認することが重要です。必ず製品の取扱説明書と安全上の注意を確認し、すべての定格範囲内で使用する必要があります。
■T&Mコーポレーション株式会社の取り扱いプローブ
T&Mコーポレーション株式会社では、高電圧プローブ、高電圧差動プローブ、光アイソレーション差動プローブ、電流プローブ、ロゴスキーコイル電流プローブなど、さまざまな高電圧測定用途に対応したプローブを取り扱っております。
測定する電圧、対地電圧、コモンモード電圧、周波数帯域、測定カテゴリ、絶縁性能、使用するオシロスコープなどに応じて、適切なプローブをご提案いたします。プローブの選定、製品仕様、対応機種、お見積りなどについては、T&Mコーポレーション株式会社までお気軽にお問い合わせください。













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