この記事では、エンジャーさんより用途別のインダクタの選び方について解説します。

 

インダクタの用途の分類

回路図のコイル(インダクタ)の記号は、電源用インダクタ、信号用インダクタ、ノイズ対策用のフェライトビーズ、いずれも同じ記号が使用されます。そのためこれらのインダクタLが何のために配置されているのかを、記号と定数から読み解くことは簡単ではありません。
インダクタの用途は、電源用・信号用・ノイズ対策用の3つに大別できます。そしてここが決まれば、用途別にデータシートで見るべきポイントも明確になります。

インダクタの用途と特性

表1 インダクタの用途と特性

この分類は、用途から見るべき特性へたどり着くための1つの視点として機能します。定格電流のように用途を問わず確認すべき特性もありますが、回路を読み解くうえでは用途から考えることが大切です。

電源用インダクタ

電源用インダクタは、磁気エネルギーを蓄えて電流を平滑するための部品です。代表的な回路が降圧DC-DCコンバータです。
降圧コンバータではスイッチのON・OFFによって電流変化が生じますが、この中で電源用インダクタは磁気エネルギーを一時的に蓄積・放出することで、負荷に対して電流を流し続けるように作用します。この働きを機能させる上で重要な特性がインダクタンスで、数百kHz級の降圧コンバータでは10μH前後・数A級の電源用インダクタが使用されます。

磁気飽和の影響

ただし実際のインダクタにおいては、負荷電流が大きくなるにつれてインダクタンスが低下する性質を持ち、結果として負荷電流のリップルを大きくしてしまうことがあります。
これはインダクタに使用されているコアの磁気飽和によるものです。磁気飽和は、コアの磁性材料が一定以上の磁束を取り込めなくなる現象で、インダクタンスの低下の程度はコアの材質によって変化します。そのため電源用インダクタのコアには、磁気飽和が起こりづらいメタル系の材料が使われています。

直流重畳特性

回路設計の視点で重要なことは、データシートに記載されたインダクタンス(L値)は微小電流に対する特性だということです。つまりデータシートの定格インダクタンスと、回路で動作中の実効インダクタンスには乖離が生じるということです。
このインダクタンスの乖離の程度は、データシートの直流重畳特性のグラフで示されています。直流重畳特性は縦軸がインダクタンスL、横軸が電流値で構成されており、電流が大きくなるにつれてインダクタンスが低下する様子が確認できます(図1)。

直流重畳特性(電流とインダクタンスの関係)

図1 直流重畳特性(電流とインダクタンスの関係)

そのため電源用インダクタの選定・検証においては、まず直流重畳特性を確認し、実際に流す電流でインダクタンスがどこまで保てるかを読み解くことが大切になります。

フェライトビーズとの違い

電源ラインには、パワーインダクタと同じ記号でフェライトビーズが並ぶこともあります。同じネット上に置かれていても、それぞれに求められる性能は異なります。
この用途の違いはデータシートの表記に現れます。パワーインダクタが10μHのようにインダクタンスで性能を示すのに対し、フェライトビーズは主にノイズ対策として使用されるため 600Ω@100MHz といったようにインピーダンスで示されます。

信号用インダクタ

信号用インダクタは、高周波信号のインピーダンス整合のために使用される部品です。電源用が電流の平滑化を目的としているのに対して、信号用は波形の歪みを抑制することを目的としています。
インピーダンス整合回路はインダクタLとコンデンサCの組み合わせ回路によって実現され、各定数は高周波信号の周波数帯に応じて調整されます。このインピーダンス整合回路が無いと、信号の反射が大きくなり、通信距離や通信の安定性の低下につながります。

反射(S11)と透過(S21)

図2 反射(S11)と透過(S21)

Sパラメータ

信号用インダクタの場合、データシートのSパラメータに着目します。ここで対象となる周波数帯で反射S11、透過S21がどの程度の大きさなのかを確認します。
ただし、インダクタ単体のSパラメータだけではインピーダンス整合回路における効果を見積もることはできません。実際にはインダクタを直列接続しているか、並列接続しているかによって求められる特性が変わることに加えて、コンデンサとの組み合わせの影響も受けるため、インダクタのSパラメータそのものを丁寧に読み込む必要はありません。
それよりは各インダクタの特性の違いを確認しつつ、回路シミュレータなどを活用して、整合回路全体としてどう働くかまで検証することが大切です。

その他の特性

Sパラメータ以外にも、自己共振周波数や損失の程度を表すQ値も重要な指標となります。信号用と電源用でインダクタンスが同じであっても、信号用は自己共振周波数が高く、かつQ値も大きい(共振が鋭く、損失が小さい)ことが特徴です。

ノイズ対策用インダクタ

ここでのノイズ対策用インダクタはコモンモードチョークコイル(CMC)のことを指します。このコモンモードチョークコイルは差動信号に含まれるコモンモードノイズを抑制するための部品です。
そもそもノイズ電流には2つのモードがあります。2本の線を行きと帰りで逆向きに流れるディファレンシャルモードと、2本の線を同じ向きに流れて別の経路で帰るコモンモードです。
このうちケーブルから放射されるノイズはコモンモードノイズが支配的となるため、その対策としてコモンモードにだけ高いインピーダンスを持つコモンモードチョークコイルが使用されます。
コモンモードチョークコイルはディファレンシャルモードに対しては磁束が打ち消し合い、コモンモードに対しては磁束が足し合わさる構造となっているため、差動信号をほとんど歪ませることなくコモンモードのノイズだけを抑制できます。つまりコモンモードチョークコイルは周波数ではなく、電流の流れる向きによって信号とノイズを分離しているということです。

モード別の電流の向き

図3 モード別の電流の向き

コモンモードインピーダンスとScc21

コモンモードチョークコイルの効きは、対策したい周波数帯でコモンモードに対するインピーダンスが十分高いかで判断します。これがデータシートのインピーダンス特性です。どの程度のインピーダンスが必要かは周波数帯や負荷によって変わり、USBのような高速の通信ラインでは、100MHzで90Ω級のコモンモードインピーダンスを持つ品種が標準的に使われています。また負荷のコモンモードインピーダンスの大小によって、同じコモンモードチョークコイルでもノイズ抑制効果に違いが生じます。
より正確には、Sパラメータを差動モードとコモンモードに分けたミックスドモードSパラメータで確認できます。コモンモードの伝送特性はScc21で表され、Scc21が小さくなるほどコモンモードノイズの抑制が大きい、つまりコモンモードインピーダンスが高いことを意味します。
ちなみにコモンモードチョークコイルは信号ライン上に配置されますが、用途としてはノイズ対策用になります。これは用途が設置場所でなく、働きによって決まるためです。

データシートを読む順序

インダクタの用途が分かれば、データシートで最初に開くグラフが決まります。
電源電圧の低下・通信品質の劣化・ノイズの規格オーバーといった問題が起きたときの読み順は次のとおりです。

  1. そのLの用途を見分ける(電源用・信号用・ノイズ対策用)
  2. 用途で決まる特性のグラフへ直行する(電源用=直流重畳特性、信号用=Sパラメータ、ノイズ対策用=インピーダンス特性、必要に応じてミックスドモードSパラメータ)
  3. 問題に関わるパラメータを特定しながら読み進める

この読み順は用途を起点にしたもので、当然ですが定格電流のような用途を問わない特性について確認しておくべきです。ここで重要なのはインダクタンスLだけを基準にするのではなく、用途別に重要な要素を読み解く姿勢です。


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