この記事では、エンジャーさんより対策周波数からフェライトコアの材質を選定する方法について解説します。

 

フェライトコアと周波数帯の関係

汎用のクランプコアをケーブルに取り付けても、伝導エミッションのノイズレベルがほとんど下がらないことがあります。この理由は、フェライトコアのインピーダンスの周波数特性とノイズのピーク周波数がマッチしていないためです。
フェライトコアは、ケーブルに流れる電流に対して直列のインピーダンスとして働きます。インピーダンスは交流電流の流れにくさを表し、周波数によって値が変化します。
つまりフェライトコアのインピーダンスも周波数特性を持ち、その値が大きい帯域ではノイズ電流を抑制できますが、一方で帯域外の周波数に対してはノイズ抑制効果はほとんどないということです。

複素透磁率とインピーダンス

フェライトコアのインピーダンスが周波数で変わるのは、フェライトの透磁率が周波数によって変化するためです。透磁率は磁束の通りやすさを表し、交流では周波数によって大きさと位相が変化します。
そしてこの透磁率の周波数特性を、実部 μ'(誘導性の成分)と虚部 μ(損失の成分)に分けて表したものが複素透磁率です。
ケーブルにフェライトコアを取り付けたときのインピーダンス  は、コアの形状で決まるインダクタンスL0と複素透磁率を使って次のように表せます。

数式

ここで ω は角周波数 2πf です。 μ' は誘導性リアクタンスとして、 μは抵抗性の成分として、それぞれインピーダンスに作用します。
低い周波数では μ' が μ より大きく、フェライトコアはリアクタンスとして働きます。この帯域ではインピーダンスが高くなることでノイズ電流を抑えますが、エネルギーを蓄えては放出するだけで、ノイズのエネルギーを吸収しているわけではありません。
一方で高い周波数では μ' が下がり、 μ が大きくなります。ここではフェライトコアが抵抗性のインピーダンスになるため、ノイズ電流のエネルギーを熱に変えて吸収することでノイズレベルを低減します。
この μ' と μ の周波数特性によってインピーダンスの周波数特性が決まります。

複素透磁率の周波数特性

図1 複素透磁率の周波数特性

材質と周波数帯

インピーダンスのピークがどの周波数に来るかは、コアの材質によって変わります。材質ごとに損失( μ )が大きくなる周波数が異なり、そこがインピーダンスのピークになるためです。
フェライトの代表的な材質は Mn-Zn と Ni-Zn の2つです。
Mn-Zn は透磁率が高く、おおよそ 10,000 前後です。透磁率が高いことでインピーダンスのピークは1MHz程度の低い周波数に表れます。
一方でNi-Zn は透磁率が比較的低く、おおよそ 1,000 前後です。そのためインピーダンスのピークは10MHz以上の比較的高い周波数に表れます。
この透磁率の違いによって、同じ形状のフェライトコアでも材質によってノイズ対策に効果的な周波数帯に違いが生じます。そのためノイズ対策におけるフェライトコア選びの出発点は、どの周波数のノイズを抑えたいかを明確にすること、そしてそこから材質を選定することです。

EMC試験帯域と材質の対応

抑えたいノイズの周波数が分かれば、選ぶべき材質のあたりはつけられます。手掛かりになるのは、その周波数がEMC試験のどの項目に当たるかです。
エミッション試験には伝導エミッションと放射エミッションの2つがあり、この2つはそのまま周波数帯の違いを表しています。

EMC試験帯域と材質の対応マップ

図2 EMC試験帯域と材質の対応マップ

伝導と放射の周波数帯

伝導エミッション(conducted emission)は、電源ケーブルや通信ケーブルを電流として伝わり、外に出ていくノイズを測定する試験で、周波数帯は150kHz〜30MHzです。
放射エミッション(radiated emission)は、機器やケーブルから電波として空間へ出ていくノイズを測定する試験で、周波数帯は30MHz以上となっており、上限は機器によって1GHz、または6GHzと異なります。
この2つの試験の境目は概ね30MHzです。つまり伝導と放射という試験項目は、低い周波数帯と高い周波数帯をそのまま指しているということです。

問題周波数からの材質選び

フェライトコアのインピーダンスからEMC試験を見ると、Mn-Zn はピークが1MHz前後にあり、伝導エミッションの帯域で高いインピーダンスを保ちます。Ni-Zn はピークが10MHz以上にあり、伝導エミッションの高い周波数帯から放射エミッションの帯域で効きます。
実際、電源ラインの伝導ノイズ対策に使われるフェライトコアは、低い周波数帯でインピーダンスが高い Mn-Zn です。
伝導と放射の試験帯域に、Mn-Zn と Ni-Zn のインピーダンス特性を重ねると、問題周波数から試験項目と材質までを続けて読み取れます(図2)。
ただし伝導なら Mn-Zn、放射なら Ni-Zn と割り切って覚えるのは避けたほうがよいです。伝導エミッションの帯域は150kHz〜30MHzと広く、その上端(10〜30MHz付近)は Ni-Zn が効き始める帯域と重なります。
そのため伝導対策だからといって、必ず Mn-Zn になるとは限りません。

材質ミスマッチの落とし穴

ノイズ対策が必要となる問題周波数とフェライトコアの材質がミスマッチしていると、ノイズ電流に対するインピーダンスが不足し、適切なノイズ抑制効果が得られません。
市販の汎用クランプコアの多くは、高周波向けの Ni-Zn 系です。これを伝導エミッション対策に付けても、問題周波数でインピーダンスが低ければノイズレベルはほとんど下がりません。
このケースでフェライトコアを Mn-Zn に替えるとその帯域のインピーダンスが高くなり、伝導エミッションのノイズレベルを低減できることがあります。ただし試験周波数の最も低い周波数帯(150kHz〜1MHz付近)は、コア1個では十分なインピーダンスを得ることができず、別の手立てが必要になることもあります。
また放射エミッションの帯域(30MHz以上)で低周波向けの Mn-Zn を付けても、その帯域ではインピーダンスが下がっているためノイズレベルは下がらないことがほとんどです。
このように、困っている試験項目が伝導エミッションか放射エミッションかが分かれば、まず選ぶべき材質を絞り込めます。そして選定の決め手になるのは試験項目の名前ではなく、抑えたい問題周波数に材質の効く帯域を合わせることです。

インピーダンス特性の読み方

フェライトコアのデータシートには、インピーダンス特性のグラフが載っています。対策したい周波数から材質の当たりがついたら、この特性を見て型番まで絞り込みます。
インピーダンス特性は、縦軸がインピーダンス、横軸が周波数のグラフです。インピーダンスが高い帯域ほどノイズを抑制できるため、ピークがどの周波数にあるかを見れば、そのコアが効く帯域を読み取れます。
同じ寸法のコアでも、このピークの位置は材質によって変わります。ここでは例として星和電機のE04シリーズで比較してみると、同じ25×15×12mmの寸法で、低周波用(E04RM/E04RMX)と高周波用(E04RC)が用意されています。
データシートのインピーダンス特性を見ると、低周波用(E04RM/E04RMX)はピークが低い周波数側に、高周波用(E04RC)はピークが高い周波数側に表れます(図3)。中でもE04RMXは最も低域寄りで、kHz帯から1MHz付近で高いインピーダンスを示しています。

星和電気E04シリーズのインピーダンス特性

図3 星和電気E04シリーズのインピーダンス特性

このように材質によって効果的な周波数が変化するという原理は、実際のカタログのインピーダンス特性のピーク位置で確かめられます。フェライトコアは何となく挟む部品ではなく、対策したい周波数から材質を選ぶ部品です。


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