この記事では、エンジャーさんよりインダクタが特定の周波数でノイズレベルを上昇させてしまう仕組みと対処方法について解説します。
LCフィルタとフェライトビーズ
電源ラインのノイズ対策では、直列にフェライトビーズ、並列にコンデンサを配置したLCフィルタが一般的に使用されています。フェライトビーズが高周波電流の伝搬を阻止し、コンデンサが高周波電流をGNDへバイパスすることで、外部回路へのノイズの漏洩・負荷側へ流入を抑制します。

図1 電源ラインのLCフィルタ
フェライトビーズの役割
ここで使用するフェライトビーズは、通常のインダクタとは異なる用途で使用されています。一般的なインダクタはインダクタンスで特性が規定され、損失が小さい(Qが高い)ことが求められます。一方でフェライトビーズは高周波での損失(抵抗成分)が意図的に大きくなっており、特性もインピーダンスで規定されています。
この両者の特性の違いにより、フェライトビーズは一般的なインダクタよりも高周波ノイズに対する抑制効果が高くなります。なおフェライトビーズのデータシートに記載される 600Ω@100MHz のような表記は、100MHzにおける合成インピーダンスの絶対値であり、純粋な抵抗値ではありません。
LCフィルタの問題点
LCフィルタの狙いは、負荷から見た回路のインピーダンスを低下させてノイズ電流をバイパスする、つまり外部へ漏洩させないことです。しかしインダクタLとコンデンサCの組み合わせ次第では、特定の周波数においてインピーダンスが逆に高くなってしまい、その結果としてノイズレベルが上昇してしまうことがあります。
この現象はデータシートの推奨回路通りに設計した回路でも起こりうる問題で、このケースでノイズレベルが低下しない場合は、部品不良が原因ではなく、実際には回路全体の共振・反共振が原因であることが少なくありません。
部品単体の共振
現実のフェライトビーズやコンデンサは教科書で示されているような理想的な素子ではありません。高周波では寄生成分の影響が無視できなくなり、実際の部品の振る舞いから等価回路として捉える必要が出てきます。ここでの等価回路とは、部品の高周波特性を簡略化したモデルです。
フェライトビーズの自己共振
フェライトビーズの等価回路(3素子モデル)は、コア損失を表す抵抗RとインダクタンスLが直列に接続され、それをまたぐように寄生容量が並列に接続された構成となります。

図2 フェライトビーズとコンデンサの等価回路(簡略モデル)
低い周波数ではインダクタンスが支配的となるため、フェライトビーズは誘導性を示します。そこから周波数が高くなると、抵抗成分が支配的になり、ノイズ電流に対する損失が最も高くなる帯域に入ります。たとえば600Ω@100MHzと規定されるビーズでは、数MHz以下ではほぼ理想インダクタとして振る舞い、抵抗性のインピーダンスが顕著になるのは概ね十MHz以上です。
一方で100MHz以上のさらに高い周波数では寄生容量が支配的になり、容量性に転じることでインピーダンスは低下していきます。この誘導性から容量性への転換点が自己共振周波数です。
つまりフェライトビーズの損失が効く帯域は、抵抗成分が支配的になる周波数範囲に限られるということです。それより低い周波数ではビーズはほぼ純粋なインダクタとして振る舞い、損失によるノイズ抑制効果は期待できないことを意味します。
コンデンサの自己共振
コンデンサの等価回路(3素子モデル)は、等価直列抵抗ESR、等価直列インダクタンスESL、静電容量Cが直列接続された構成となります。
自己共振周波数でインピーダンスが最小になり、ノイズ電流に対するバイパス効果が最も大きくなります。一方でそれより高い周波数に対してはESLが支配的になり、インピーダンスは上昇に転じます。つまりバイパス素子としての役割を果たせなくなるということです。
自己共振周波数は静電容量CとESLによって決まり、静電容量Cが大きいほど、またパッケージが大きいほど低くなります。ここでパッケージが大きいというのは、ESLが大きいことと等価です。自己共振周波数の目安としては、0.1μFのMLCCで数十MHz、1μFで数MHz〜十数MHz程度です。
PDNの共振と反共振
電源ラインのインピーダンスはLCフィルタだけでなく、負荷IC・配線・GNDプレーン・デカップリングコンデンサ・電源ICまで含めた電源供給システム(PDN:Power Delivery Network)全体で規定されます。

図3 PDNの構成
このPDNのインピーダンスは部品単体のインピーダンス特性だけでなく、部品どうしの相互作用によって系全体に共振・反共振が発生します。つまりPDNのインピーダンスは、部品単体の自己共振だけでは決まらないということです。

図4 PDNのインピーダンス特性
低い周波数では、ビーズのインダクタンスとコンデンサの静電容量による単純なLC共振が現れます。ビーズとコンデンサの典型的な構成では、この共振は0.1MHz〜10MHz付近に生じます。
一方で高い周波数側では反共振が立ちます。反共振とはインピーダンスが極大になる現象のことで、共振がインピーダンスの谷であるのに対し、反共振はインピーダンスの山にあたります。
この反共振は自己共振を超えて誘導性に転じたコンデンサと、別の容量性素子が周波数軸上で釣り合う点で発生します。負荷IC側のデカップリングなど複数のコンデンサを並列に配置した構成では、それぞれの自己共振周波数が異なるため、複数の反共振ピークが立つことになります。
そして意図せずノイズレベルが上昇するのは、この反共振によってPDNのインピーダンスの絶対値が大きくなる周波数です。PDNのインピーダンスが高くなるということは、ノイズ電流がコンデンサにバイパスされずに大きな電流ループを生じさせることを意味します。つまりノイズ電流による放射ノイズが大きくなるということです。このように反共振は部品単体の特性だけでは見えないため、PDN全体のインピーダンスとして捉える姿勢が大切です。
ターゲットインピーダンスとビーズの損失
反共振でPDNのインピーダンスが上昇しても、それが実際にノイズ問題につながるかどうかはケースバイケースです。ここで重要になる指標がターゲットインピーダンスです。
実害の判定
ターゲットインピーダンスは、許容リップル電圧を過渡電流で割った値で、PDN全体に対する周波数軸上のインピーダンス許容上限にあたります。たとえばレール電圧1V・許容リップル50mV・過渡電流1Aなら、ターゲットインピーダンスは50mΩとなります。

実害判定は、PDNインピーダンス特性にターゲットインピーダンスの折れ線を重ね、対象となる周波数で反共振ピークが上限を超えるかどうかを確認します。もし超えていれば、その周波数で実害が生じる可能性は高くなります。逆に上限を下回っていれば、共振が見えていても実害につながる可能性は低くなります。
なおここで可能性と表現しているのは、実際に放射されるノイズレベルがデバイスの種類やPCBのサイズ、ケーブルの有無など種々の要因が重なるからです。
ビーズの損失による対処
最後にこの反共振への対処方法を考えるうえで、共振のQ値を下げることが必要になります。ただし実際に電源ラインに直列抵抗を接続すると、そこで電圧降下と発熱が生じるため現実的ではありません。
そこで有効なのが、高周波で損失(抵抗成分)が大きいフェライトビーズを使用することです。フェライトビーズは他のインダクタと比較して抵抗成分が大きいため、反共振のQ値を下げる効果を持っています。
ただしフェライトビーズを使用しても、反共振がビーズの誘導性領域(損失が小さい帯域)に位置している場合は、ピークを抑制することはできません。そのためフェライトビーズの選定にあたっては、インピーダンスの抵抗成分・リアクタンス成分の内訳も含めて、対策周波数において抵抗値が十分高いものを選ぶことが対処の基本になります。
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