この記事では、エンジャーさんよりテスタの容量・ダイオード・周波数・温度の各測定機能について、それぞれの測定原理に基づいて表示値の読み解き方を解説します。

 

容量測定と実効静電容量

・容量測定の仕組み

テスタの容量測定では、コンデンサに既知の直流電流を流して充電し、そのときの電圧の上がり方から静電容量を算出しています。静電容量そのものを直接測るのではなく、電圧の変化から値を求めるため間接測定と呼ばれます。
コンデンサに蓄えられる電荷 Q は、静電容量 C と端子電圧 V の積で表されます。


Q = CV

ここに一定の直流電流 I  を流し続けると、電荷は時間に比例して溜まります。このとき電圧の傾き dV / dt は、電流 I  を静電容量 C で割った値になります。

数式


電流と静電容量が変わらなければこの傾きは一定に保たれるため、ある時間 Δt のあいだに電圧が ΔV だけ上がったとすれば、静電容量は次の式で求まります。

数式

 

・表示値と実効静電容量のズレ

高誘電率系のセラミックコンデンサ(X5R・X7R など)は、端子に直流電圧(DCバイアス)がかかると実効静電容量が下がります。回路の動作時にはこのDCバイアスがかかるため、実効静電容量は公称値より小さくなります。
一方でテスタは、この動作時のDCバイアスを外部から加えずに測定しています。そのため表示値は、回路上の実効静電容量よりも高く表示されます。
これはテスタ固有の欠陥ではなく、Class2(高誘電率系)のコンデンサならではの避けられない問題点です(図1)。

DCバイアスによる実効静電容量の低下(概念図)

図1 DCバイアスによる実効静電容量の低下(概念図)

なお、このテスタの表示値は、データシートの特性値や LCR メータの測定値との間に乖離が生じることがあります。この理由は、充電電流や信号レベルといった測定条件が異なるためです。
つまり同じ静電容量の測定といっても、原理的にその結果に差が生じうるということです。

・測定前の確認事項

テスタで容量測定の前には、コンデンサを必ず放電しておく必要があります。残留電荷が残っていると、静電容量を正しく測定できなかったり保護回路が働いたりするためです。
またリードや治具のわずかな残留容量は、特に低い静電容量を測定する場合にその影響が無視できなくなります。そうした場合は、測定前に REL(相対測定)でゼロにしてから測定を実行します。
こうして容量表示から読み取れるのは、外部にDCバイアスを加えない条件での静電容量です。回路の動作時に効く実効静電容量やESR、寿命はこの表示からは分かりません。動作点での実効静電容量は、データシートのDCバイアス特性から見積もります。

 

ダイオード測定とVf

・ダイオード測定の仕組み

テスタのダイオード測定では、部品に小さな順方向電流 If を流し、そのとき生じる順方向電圧 Vf を表示しています。
ここで流す順方向電流 If は小電流で、OWON製の B41T+ではテストリードを短絡したときの電流が 1.46 mA となっていました。
またダイオードに流れる電流と Vf の関係は指数的で、順方向電流を大きく変えても Vf はわずかしか動きません。

・表示Vfの読み方

ここで重要なのは、ダイオード測定で表示される順方向電圧 Vf は、テスタが流した順方向電流での条件という点です。
そのため表示された Vf が、回路で実際に流れる電流での Vf と一致するとは限りません。これはダイオードに流す電流が変われば、Vf も変わるためです。
またデータシートとの比較においても同様で、小信号ダイオードの Vf は順方向電流 If が1mAや10mAのときの値として規定されることが多く、これは必ずしもテスタのダイオード測定と同じ条件ではありません。

・測定限界

ダイオードレンジの開放電圧はそれほど高くなく、B41T+の実測は 2.32 V となっていました。そのため表示できる Vf の上限は 1.9 V と限定的です。
この開放電圧や表示上限を超える Vf の部品は、順方向に接続しても OverLoad(OL) になります(表1)。

ダイオードの種類別 Vf 目安とダイオードレンジでの表示

表1 ダイオードの種類別 Vf 目安とダイオードレンジでの表示

OL になる理由は2つあります。Vf が開放電圧より高く順方向に十分な電流を流せない場合と、電流は流れても Vf が表示上限を超える場合です。
そのため OL のときは開放と即断せず、順方向と逆方向の両方の結果とテスト電圧・表示範囲を踏まえて判断します。
さらにダイオード測定でわかるのは、導通の方向と、短絡・開放のおおまかな判別です。動作点での Vf・漏れ電流・ツェナー降伏電圧・逆方向特性は、他の専用の計測器が必要になります。

 

周波数測定とトリガ

・周波数測定の仕組み

テスタの周波数測定では、入力信号をパルスに変換し、一定のゲート時間に入るパルス数から周波数を求めています。
パルス変換に使用するのは、シュミットトリガと呼ばれるコンパレータ回路です。この回路では入力がしきい値を超えると、出力がパルスとして立ち上がります。
シュミットトリガには、上下に2つのしきい値を持つヒステリシス特性があります。しきい値が1つだと、ノイズの影響を受けて余分なパルスを発生させる可能性がありますが、上下に幅をもたせることでノイズによる誤カウントを抑制できます。

・表示が正しく出る条件

この方式で周波数が正しく表示されるには、トリガが安定して成立している信号であることが条件です。

そのため入力の振幅が上下のしきい値に届かない場合は、パルスが発生せず、周波数を測定できません。また入力信号にノイズや歪みがあると、1サイクルの中で余分なエッジが立ち、周波数が多重にカウントされてしまう可能性があります(図2)。

シュミットトリガのしきい値と信号品質による誤カウント

図2 シュミットトリガのしきい値と信号品質による誤カウント

入力感度と測定可能な上限周波数はトレードオフの関係にあり、小さな振幅まで測れるようにするほど、上限の周波数は低くなります。
表示された周波数を信じてよいかは、テスタの数字だけでは分かりません。表示が不安定なときや値が疑わしいときは、オシロスコープで波形を確認し、振幅やノイズの影響を直接見ておくと確実です。

 

温度測定と冷接点補償

・温度測定の仕組み

テスタの温度測定では、熱電対が生む起電力を温度に換算して表示しています。熱電対は2種類の金属をつないで、2つの接点の温度差にほぼ比例した起電力を出します。これをゼーベック効果と呼びます。
この熱電対による温度測定でわかるのは、2つの接点の温度の差だけです。
そのため対象の絶対温度を導出するには、基準となる接点の温度を別に知る必要があります。この基準接点はテスタ本体の端子(冷接点)となっており、その温度ぶんを起電力に換算して補うのが冷接点補償です。
冷接点補償は周囲の温度によらず常に必要です。そのため温度測定で表示される値は冷接点補償を含んだ値になります。

・表示の読み方

熱接触が悪いと接点は対象温度まで到達せずに、対象温度と周囲温度の間の値を取ります(図3)。

冷接点補償による温度換算と熱接触不良時の偏り

図3 冷接点補償による温度換算と熱接触不良時の偏り

またテスタ本体の温度が急激に変化すると、端子ブロックと冷接点補償センサの間に温度差が生じ、補償が追いつかず過渡的な誤差になります。つまり冷接点の温度の誤差が、ほぼそのまま表示誤差になるということです。
そのためテスタの温度測定で読み取れるのは、熱接触がよく本体が温度安定しているときのおおまかな温度に限られます。高い確度や速い温度変化への追従、K型以外の熱電対の値は、この表示からは分かりません。
そして温度表示を信じるには、熱電対が対象に密着していることと、本体の温度が落ち着いていることを先に確かめます。高い確度が必要な場面では、専用の温度計や校正された計測器を使うのが確実です。


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