この記事では、エンジャーさんよりコモンモードチョークコイルのコモンモード・差動モードそれぞれのインピーダンスを、VNAで測定する方法について解説します。
モード別測定方法
コモンモードチョークコイル(CMC)の作用は、コモンモードと差動モードで全く異なります。
そのためCMCの測定においては、コモンモードインピーダンスZcmと差動モードインピーダンスZdmでモード別に分けて評価します。
どちらのインピーダンス特性も自己共振によって一旦ピークを迎えて、それ以降の周波数では低下する傾向にあります。またピークの位置は、インダクタンスと巻線まわりの分布容量によって決まります。
この2つのモードをひとまとめにして測定できるのが、4ポートVNAによるミックスドモード測定です。CMCの4つの端子をVNAの各ポートに接続して測定します(図1)。

図1 4ポートVNAによるCMCのモード別測定の構成
ミックスドモード測定においてはモード別に基準インピーダンスが異なります。Zcmは基準インピーダンスが25Ω、Zdmは基準インピーダンスが100Ωとして、測定したSパラメータから換算して求めます。
2ポート測定と校正方法
4ポートVNAを用意できない場合、巻線の対称性がよいCMCであれば2ポートVNAでも代用できます。
ここでは2ポートVNAを使ったモード別測定の構成と校正方法について説明します。
CMCはリード付き部品のため、VNAの同軸ポートにそのまま接続できません。今回は同軸ポートからリード端子へ変換するアダプタを介してCMCとVNAを接続します。
校正ではアダプタのリード端にオープン・ショート・ロード・スルーの校正標準を構成して、2ポート校正を実施します。この校正によって測定の基準面はリード端へと移り、これによってアダプタや同軸ケーブルの影響を測定結果から除外できます(図2)。

図2 2ポート測定の構成と基準面
インピーダンスへの換算にはシリーズスルー法を使います。測定したS21を以下の式でインピーダンスに換算し、その絶対値を曲線として描きます。

モード別接続方法
アダプタに接続したCMCは、2巻線の接続を替えることでコモンモードと差動モードを分けて測定できます(図3)。

図3 並列接続と逆極性直列接続の結線図
コモン測定の接続方法
コモンモードの測定では、2巻線の入力側どうしと出力側どうしをそれぞれ接続して、2巻線を並列にします。
並列にした両巻線には同じ向きの電流が流れます。この流れ方は、コモンモード電流がCMCを通るときと同じです。そのため測定値はコモンモードインダクタンスに対応し、Zcmが得られます。
CMCのデータシートに定格として記載されるインダクタンスは、このコモンモードインダクタンスを指します。
差動測定の接続方法
差動モードの測定では、両巻線の出力側どうしを短絡して、入力側の2端子間を測定します。
この接続で2巻線は1つの直列ループになり、電流は一方の巻線を通ってもう一方の巻線を逆向きに戻ります。差動電流がCMCを通るときと同じ流れ方です。
2つの巻線が逆の極性で直列になることから、この接続を逆極性直列接続と呼びます。
両巻線に逆向きの電流が流れるとコアの中で2つの主磁束が打ち消し合うため、もう一方の巻線と鎖交せずに漏れた磁束によるインダクタンス、つまり漏れインダクタンスに対応し、Zdmが得られます。
ここでの測定値は、両巻線の漏れインダクタンスが直列につながって見えるため、漏れインダクタンス2個分となります。
なおここで示した差動モードの測定方法は、低い周波数帯では差動信号を流した場合と同じ量を示しますが、インピーダンスのピークより高い周波数では巻線間や対地の静電容量の見え方が変わるため、厳密な差動条件から外れます。
実測結果と巻数・巻き方
・Zcm/Zdmの実測結果
測定対象は市販のトロイダルタイプのコモンモードチョークコイルで、公称インダクタンスは10mH、定格電流は3Aです(図4)。

図4 Zcm/Zdmの実測結果と公称10mHの理想直線
使用したVNA(LibreVNA)の測定範囲は100kHzからのため、グラフは100kHz以上を示しています。
Zcmは100kHz付近で約4.8mH相当のインピーダンスを示し、約230kHzでピークの約5.3kΩとなっています。
一方のZdmは漏れインダクタンス2個分で約18µHとZcmよりはるかに低く、ピークの周波数も約15MHzと高い位置にあります。
公称10mHから引いた理想インダクタの直線(2πfL)をZcmに重ねると、実測の曲線は測定帯域の下端である100kHzの時点ですでに理想直線を下回っており、ピークを越えると乖離はさらに大きくなります。
つまり、定格のインダクタンスだけを頼った設計では不十分だということです。CMCが狙いの周波数で働くかどうかは、その周波数のZcmが十分高いかを実測曲線で確認します。特に電源ライン用や汎用品のCMCは、データシートに定数しか記載されないことが多いので注意が必要です。
・巻数の影響
巻数の影響は、同じコアに巻数を5回から25回まで5回刻みで変えたZcmで比較します(図5)。

図5 巻数違いのZcm
巻数を増やすと、低い周波数帯のインピーダンスは高くなります。これはインダクタンスが巻数の2乗に比例して増えるためで、実測もこの傾向と整合します。
一方でインピーダンスがピークとなる周波数は、約2.0MHzから約1.6MHzへと下がります。どの巻数が有利かは狙う帯域とピークの位置関係で決まるため、実測曲線での比較が必要です。
・巻き方の影響
巻き方の影響は、同じコアに同じ25回を巻いた集中巻きと分割巻きの比較で確認します(図6)。集中巻きはコア全体にまとめて巻き、分割巻きはコアの区画を分けて巻く方法です。

図6 集中巻きと分割巻きのZcm
集中巻きの約1.6MHzに対して、分割巻きのピークは約410kHzと約4分の1に下がりました。今回の分割巻きは区画の中で巻線が多層に重なり、層間の静電容量がむしろ増えたためです。
ただし巻き方の名称から静電容量の大小は判断できません。実際の巻き方、つまり層の重なり方が分布容量を左右し、ピークの位置を動かします。
ここで見たようにCMCの作用は定数ではなくZcmとZdmから判断します。巻数と巻き方はその曲線のピークを変化させる手段であり、その効果も実測をもとにした検証が必要になります。
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